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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第二章.クラスメイト編

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7話.協働戦術学

 待望の、一限目の開始を知らせる鐘がなった。


「もう、昼飯の時間か……?」


 気だるそうに起きてきたクラッドの呟きに、どういう時間感覚をしているんだと不安を覚えた。


「なんだ、一限目か。……はー、よし、やるぞー」


 思いっきり息を吐いたクラッドが次に顔を上げた瞬間、キリッとした顔つきに変わった。これを感じ取ったティエラはもちろんのこと、ほぼ全ての生徒が背筋を伸ばした。


「俺が担当しているのは、協働戦術学の授業だ。とりあえず、五人組作れ」


 なんて恐ろしいことをいう先生なんだと、ティエラは絶望した。

 昨日、あんな悪目立ちをしたティエラと組んでくれる人なんて、いるわけがない。このままでは、ソルと二人で授業に臨まなくてはいけなくなる。


「……っていうのは冗談だ。今日はこれで決める」


 クラッドは教卓の上に、抽選箱をドンと置いた。


「欠席者は木製人形で代役させるから、心配するな」


 言いながら、クラッドは懐から取り出した手のひらサイズの木製人形を二つ、床に置いた。すると、ずずずっと一気に八頭身にまで大きくなった。


「顔は……休んでる奴らの顔でいいか」


 そう言って、クラッドは今日の欠席者であるシュナクとランドの顔を、それぞれ書き込んでいく。


「ふっ」

「ぶふっ」


 静寂の中に、あちこちで吹き出す声が聞こえだす。ティエラも必死に、自分の手で口を押えていた。

 絶妙にセンスがあるせいで、それっぽく見えるのだ。でも、やっぱりどこか抜けた顔をしているので、笑いそうになる。


「そこそこ似てる」

「ふふっ」

「おう、ありがとよ」


 ソルの素直な感想を聞いて、ティエラはたまらず吹き出してしまった。他にも数名、巻き込まれ事故を起こした。

 先生が普通に返事するのもずるいと思った。


 くすくすと笑い声が溢れる中、クラッドはひょいひょいと箱から紙を取り出していく。それを受け取ったシュナク人形とランド人形が、黒板にチーム分けを書き込んでいく。

 動きは意外となめらかで、一般的な性能は出来そうだ。


「自分のチームを確認したら、それぞれ指定された場所に移動しろ。シュナクとランドの名前が書かれているチームにいる奴は、それぞれの人形を連れていけ」


 自分のチームメンバーを確認しようと黒板を見ると、その前で待機する木製人形たちがちらちらと視界に入る。このせいで、ティエラは何度も肩を震わせながら、どうにか自分の名前が書かれているチームを確認し、指定された場所まで移動した。


「あ、スポットライトの人」

「ティエラです!」

「あはは、ごめんね。ちゃんと覚えてるよ。俺はオジェ、よろしく」


 どうやら、冗談だったらしい。ティエラは不名誉なあだ名を早く無くさなくてはと、新しい目標を立てた。


「それにしても、昨日はすごかったね。背中、大丈夫だった?」


 オジェは明るい緑色の前髪を払いながら、ティエラの心配をしてくれる。短く整えているものの、クセ毛のせいで若干跳ね上がっているところがあるのを気にしているようだ。


「まあ、なんとか」

「俺が後ろの席だったんだけど、気づかなかった?」

「後ろ……あ! だからどこかで見たとこあると思ったんだ!」


 昨日の自己紹介の時、オジェに既視感を覚えたのはそれだとティエラは納得した。入学式でソルに飛び掛かられた時は、正直言って現実逃避をしていたので、あんまり詳細を覚えていない。

 オジェと話していると、綺麗なオレンジ色の長い髪を靡かせたお嬢様がやってきた。


「ミルダ・バレングロウです。どうぞ、よろしくお願いいたしますね」

「ティエラです、よろしくお願いします」

「オジェです、よろしくお願いします」


 もう一人のチームメンバー、ミルダが来た瞬間、ティエラとオジェは一斉に頭を下げた。

 バレングロウと言えば、王族の次に位が高い公爵家の名前だ。特に、バレングロウの令嬢は箱入りというのが有名で、商家のティエラがこうして顔を合わせるのは初めてのことだった。


「そうかしこまらないでくださいね。わたくしも、ここでは一生徒ですから」


 ティエラはこくこく頷いた。昨日の時点で、既に王子に対してもフラットな対応をした後だ。公爵令嬢の一人や二人、どんとこいである。


「それから、こちらは従者のメイ・キャンディよ。メイと呼んであげてちょうだいね」


 主人に紹介されたメイが、そっとスカートの裾を上げてお辞儀をする。茶色の三つ編みされたおさげが大きく揺れた。


「あ、こちらは私の従者のソルです。……ソル、挨拶して」

「よろしく」


 一方で、ティエラの従者はというと、普通に言葉一つで挨拶を済ませただけだった。よくそれでこの学園の入学試験を突破できたなと、ティエラは青ざめた。


 従者も一生徒という扱いであるため、ソルの対応も間違いではない。だけどもやっぱり、従者と精との間にだけは、少しだけ壁があるのも事実だ。

 だからこそ、メイのような態度を取るのが、従者としてこの学園に通っている生徒の基本となる。なお、ソルにはこの常識が通用しなかった。


「あの、すみません。ソルはまだ、学園に慣れていなくてですね……」

「ふふっ。本当に、昨日の事件を引き起こした方ですのね。凄いですわ、わたくし、そのように挨拶をされたのは初めてです」

「僕、褒められた? ありがとう」

「本当にすみません! 以後、気を付けさせますので!」


 ミルダの発言が天然なものなのか、気にしていませんという大人の対応なのかも分からないし、メイも無表情のまま何にも言ってこないしで、ティエラは泣きそうだった。

 いっそのこと、この無礼者と怒られた方がマシだ。


「よし、チーム別に分かれたな? これは、今回の実習で使う道具が入った箱だ」


 木箱が一つずつグループに配られていく。全員のチームに行き渡ったことを確認したクラッドが、手を叩いた。


「とりあえず、開けていいぞ」


 一番箱に近かったオジェが、合図とともに蓋を開けた。


「白い、板でしょうか」

「材質は紙か? いや、木かな?」

「これは何かしら?」


 中にぎっしり詰まっていたのは、真っ白に塗られた小さな木片の山だった。


「もしかしてこれ、ホワイトパズル?」


 何を渡されたのかを理解し始めたクラスメイトたちが、ざわつき始める。

 初めての授業は、大混乱の幕開けだった。


「これ、牛乳で出来てるの?」

「確かに、ミルクパズルなんて呼ばれることもあるけど……」


 ただ一人、ホワイトパズルの意味を全く理解していないソルだけは、純粋な疑問を口にしていた。

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