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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第二章.クラスメイト編

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6話.魅了されてしまったソル

 2日目の朝。

 1年A組の空気は、薄い氷が膜を張っているようだった。皆、昨日の入学式の疲れが残っているのか、控えめで、どこかよそよそしい。

 ただし、ティエラとソルだけは例外だった。


 教室に入った瞬間、あちこちから向けられる視線が刺さる。悪口を言われているわけではない。ただ、物凄く注目されている。


 昨日、式典の最中にあれだけの珍行動を見せつけたのだ。こればかりは致し方ないと、ティエラはおおらかな心で許すことにした。

 本当は、びくびく怯えっぱなしだった。


 一緒に登校したソルはというと、朝から椅子の上にランドのマントを敷いて、ニコニコ顔で席についていた。本当に、気に入ったらしい。


 だが、今日のティエラは一味違う。ふふんと不敵に笑い、カバンから毛布を取り出した。

 これは、普段ソルが自宅で使っている、お気に入りの毛布だ。昨日、彼に掛けてあげた物でもある。


「さあ、ソル。今日はそのマントをランドさんに返さないといけないから、こっちにしてね」

「え、やだ」


 まさか、拒否されると思っていなかったティエラは、あまりのショックに毛布を落としてしまった。

 ソルは何食わぬ顔でそれを拾い上げ、ティエラに返した。


「僕、学校ではこっち使うから」


 ティエラは返された毛布をぐしゃりと握りしめ、ぶるぶると震えはじめた。クラス中から息をのむ音が聞こえてくる。

 ガバリと顔を上げると、さらなる緊張が走った。数少ない従者は主人を守るため、庇う体勢に入るほどだ。


「素材ね? この素材に魅了されてしまったわけね! くっ、一体どこ産の布生地だというの! ソルをこんなに誘惑して……悔しいぃ!」


 まさか、小さい頃からずっと使い続けてきたソルのお気に入り毛布が、ランドのマントに敵わないとは夢にも思わなかった。

 ティエラは項垂れる。本当に悔しかった。ランドのマントが憎い。


「なに騒いでんだ、ホームルーム始めるぞー」


 昨日と同じ調子で教室にやってきた担任、クラッドの手には出席簿がある。だが、それはものの数秒で教卓の上に投げ捨てられていた。


「出席とるぞー。欠席してる奴、返事しろー」


 ――いないのだから、返事できないのでは?

 ティエラがそう思う中、沈黙が落ちる。


「今日の欠席は……シュナクとランドだな。よーし、ホームルームはこれで終わりだ。次の授業が始まるまで、好きにしてていいぞ」


 言うが早いか、クラッドは教師用の机に移動し、上質な椅子に思いきり身体を任せて目を閉じる。そして三秒後には、眠っていた。


 微妙な空気が作られた中、何か動きを見せるような図太い生徒はおらず、みんな自分の席でじっとしている。

 ソルも珍しく、自分の席でおとなしくしていた。あれは多分、マントが温かくて満足しているからだ。


「やっぱ僕も、日差しの良いところで寝る」


 ソルの滞在期間は、ほんの数十秒だった。

 さっきまで満足していたはずなのに、気まぐれを起こしたかのように立ち上がり、マントを持って日差しのある場所を目指そうとしたので、ティエラはソルの足を掴んだ。


「ソルの席も、自分でいっぱい温めたんだから気持ちいいと思うよ!」

「ええ、でもあっちの方が……」

「ね! 座っていようよ! ね!」


 ソルの立ち上がりを阻止できなかった時点で目立ってしまっているが、今大事なのは、従者の奇行をきちんと止める主人というレッテルだ。

 せめて、ティエラは頑張ってるんだという印象だけでもつけておかなくては、今後の暮らす生活に支障が出る。ティエラは本気でそう思い、ソルのことを必死に止めた。


「……なーんだ。ティエラが寂しいんだね? 仕方ないなあ、そういうことなら傍にいてあげる」

「え、そうなんだ……」

「主人の方が従者に甘えてるのか……」


 物凄い勘違いがクラスに蔓延していく。

 ティエラは、絶対にこれは止めなくてはと立ち上がった。


「私は、主人として従者であるソルを止めようと……!」

「うんうん、僕はここにいるから。座っていようね」


 ガッと腰を掴まれたかと思うと、すごい力で椅子に座らされてしまった。これを見たクラスメイトたちは、さらに好き勝手言って噂を脚色していく。


 早く一限目の鐘がなってほしいと思うのは、後にも先にもこの瞬間だけだと、ティエラは全力で足掻きながらソルの腕と格闘を続ける。

 一ミリも動かせないことに、ティエラは自分の非力さを嘆いた。

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