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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第三章.おでかけ編

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35話.ソルと並んで

 丘の上でのんびり寝っ転がっていたティエラは、何かの気配を感じて意識を浮上させた。


「ん……」


 今日は朝が早かったので、目を閉じている間に眠ってしまっていたようだ。

 首の後ろが圧迫され、ティエラは目を閉じた状態で首元に手を持っていく。すると、硬さと柔らかさが同時に伝わってきた


「ティエラ、苦しくない?」

「苦しい?」


 何の話だろうと、ティエラは目を開ける。すると、横になっているソルと視線が合った。吐息がかかり合うような距離感に、瞬きする。


「これ、取っちゃう?」


 また、首の後ろから前へ引っ張られる感覚を覚えた。ティエラは視線を胸元に持っていく。

 そこで、自分が触ったのはシュナクからもらったペンダントの鎖部分と、ソルの手だったことをようやく知った。


「今まで首飾りなんて、付けたことないでしょ。邪魔じゃない?」


 眠っている間に打った寝返りで、服の中に入れてあったペンダントの飾りが出てきてしまったようだ。

 ソルはこれを見て、首を絞めてしまうんじゃないかと心配したみたい。


「大丈夫だよ。鎖のところは……ほら、ちゃんと長めに作られてるから」


 握りこぶしを作って、鎖の内側に通す姿を見せる。

 すると、ソルは星形の飾りに視線を落とした後、そっと鎖から手を離した。


「心配してくれて、ありがとう」


 細かいことにまで気を配ってくれるソルに、ティエラはまたしても感動した。


 上体を起こして、一度伸びをする。お日様に温められた身体だけでなく、ソルの成長に心もぽかぽかする。

 それから、飾り部分を手に取り再び服の中に戻そうとして、ソルに見せた。


「ソルもこういう飾り、欲しかった?」

「いらない」


 そっけなく言われ、ティエラは手を止めた。

 自分だけがつけているから羨ましくて触っていたのかと思ったが、そういうわけではないらしい。


 片足を上げ、空を切る勢いで上体を起こすソルは、いつものぼんやりした男の子ではなかった。


「それより、僕があげた護符は? 家に置いてきちゃったの?」


 飾りを持っていた方の手を掴まれ、服の中に押し込まれる。

 詰め寄ってくるソルの目はギラギラしているのに、何故か寂しそうだった。


「どうしたの、ソル……」

「僕の護符は?」


 体のあちこちをチェックされ、ティエラはくすぐったくて身をよじった。笑いたいわけじゃないのに、勝手に顔の筋肉が動いてしまう。


「待って、待ってソル。胸、胸のポケットに入ってるから」


 上がってしまう口角を必死に動かして、ソルに護符の在処を伝える。これを聞いたソルは、ようやく探すのをやめてくれた。


 ただ、入っている場所が場所なだけに自分で取り出すのは断念したようで、ティエラが取り出すのをじっと待っている。


「ソルからもらったのも、ちゃんとあるよ」


 くすぐったさが落ち着いてきたので、ティエラは上着についている胸ポケットから、黄色のハートが飾りになっている鎖付きの護符を取り出した。


「これは身につけないの?」


 不服そうに聞いてくるソルに、ティエラはどう答えたらいいか少し困った。

 ソルからもらったこれは、アクセサリーというよりはホルダーに近い見た目をしている。リュックサックの紐に着けたりする時には申し分ないけど、身体に着けるのはちょっと難しい。


「あー、その……」


 これじゃ着けられないとはっきり言うのは忍びなくて、言葉を探す。どう伝えたらソルを傷つけずに済むか唸っていると、ソルが護符を乱暴に掴み取った。


「嫌だった? 黄色のハートは、ティエラの好みじゃなかった? こういうの、好きじゃなかったの?」


 目じりを下げ、今にも泣きそうなソルを見て、ティエラはぎょっとした。ここまで感情的になる彼は初めてで、ティエラは慌てて彼の手を握る。


「好きだよ! ハートの形も好きだし、黄色も好き。でも、その、着ける場所がなくて……」


 ソルが瞳を覗き込んでくる。目を逸らすわけにも行かず、ティエラは見つめ返す。

 まるで、嘘をついているんじゃないかと疑われているようで、息がつまった。


「そっか。形状が悪いのか」


 するりと手を抜いたソルは、今もなお握りしめている護符に魔力を流し込み始めた。ぽうっと優しい光に包まれた護符は、みるみる形を変えていく。


 そうして完成したのは、ブレスレットだった。黄色のハートもワンポイントとして機能しており、とても可愛らしい。

 鎖も細く、色味は金色で女性向けのデザインだ。


「わっ、可愛い!」


 思わず声を出して覗き込んでしまい、ティエラは自分の後頭部を撫でた。ソルの様子を窺うと、先ほどまで泣いてしまうんじゃないかと思わせた彼の表情は、にこにこになっていた。


 ソルがころころと表情を変える姿が本当に珍しくて、つい見入ってしまう。


「これなら、身につけられるよね」


 壊れものを扱うように、左手を持ち上げられる。ティエラが自分で支えると、ソルはそっと手を離し、作り直したブレスレットを着けてくれた。


「どう? ずっと着けていたい?」

「うん! とっても素敵!」


 左手を空に掲げれば、沈み始めているオレンジ色の光を浴びて、ブレスレットがキラキラと光った。

 ティエラはうっとりと、自分の左手を見つめ続けた。


「すごく綺麗……ありがとう、ソル」

「壊れたら、すぐ教えてね。また作るから」


 これは護符だから、ティエラも気づかない小さな災いを祓ううちに、いつか壊れてしまう。その時はまた作るからと、ソルは言って聞かなかった。


「ソルが負担じゃないなら、その時にまたお願いするね?」

「僕のこと、いっぱい頼って」


 真剣な表情でそう訴えてくる彼を見て、ティエラは胸の奥がきゅっと締め付けられた。その理由が思い当たらなくて、ティエラは自分の気持ちに困惑する。


 さああっと短く切りそろえられた草たちが音を立てる。ひと際強い風に、敷物の端が大きく靡く。


「日が沈んできた。ティエラ、家に帰ろう?」


 ソルが立ち上がり、出してあった荷物をバスケットに仕舞っていく。ティエラも彼に続いて一緒に物を入れていく。

 最後に敷物を一緒に畳む。バスケットに入れると、ソルが持ち上げてくれる。


 バスケットを持っていない方の手が差し出される。ティエラはそっと、ソルの右手を握った。

 きらりと、ブレスレットが太陽に照らされる。


「ソル、大人になった?」

「そう見える?」


 沈む夕日を背中で浴びながら、丘の下り坂をゆっくりと降りていく。自分を引っ張っていってくれるソルの背中が、いつもより大きく見えた。


「うん。……ふふっ、そっか。ソルももう、そういう年頃だもんね」


 一人の人間として、ソルも他人を大事にしたいという感情を強く抱き始めている。そんな感じがして、ティエラは誇らしい気持ちと寂しい気持ちを味わった。


 ソルは学園生活にまだ戸惑っている部分もあるようだ。それでも、学園初日に見せた猫由来の奇行は、すっかり鳴りを潜めたと思う。


 ――ソルがもう少し落ち着いたら、部活動に入ってみようかな。

 人として魅力的になっていくソルと同じように、自分も成長したいという気持ちが強く出てきた。


 せっかく王立高等学校に入学できたのだから、何か目標を決めて、新しい経験を増やしていきたい。


「ソル、明日からまた学校だね」

「今日の疲れが残らないよう、早く帰ってゆっくりしよ」


 繋いでいる方の手に力をこめると、同じ力加減が返ってくる。

 下り坂が終わったので、ティエラは少しだけ足を速めて、ソルの隣に並んだ。

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