29話.大変身
「ゴミはどうしたらいい」
食べ終えた紙の器と串を持ち、シュナクは辺りを見渡している。
「あ、ここにどうぞ」
こんなこともあろうかと、ティエラはゴミ捨て用に持参した紙袋を取り出す。
食べ歩きの時は直ぐ近くにゴミ箱があるとは限らないから、常備するようにしていた。自分は既に袋に入れており、ソルの分も受け取り済みだ。
「気が利くな」
「ランドさんもどうぞ」
「すみません。ここまでの気は回らず……助かります」
紙袋をリュックサックに仕舞い、ティエラはソルを見た。
「それじゃあ、宝石探しにいこっか!」
「うん。黄色いのがいっぱい入ってるのがいい」
珍海獣焼きでお腹を満たしたティエラは、ソルの要望通り、最後の目的であるおもちゃの宝石を取り扱う露店を探し始めた。
飲食を取り扱う露店周りを通り過ぎると、再び雑貨系列の露店が多く立ち並んでいた。
正午は回ったと言っても、まだまだ飲食周りは人でごった返しているため、相対的に雑貨側は人の波が落ち着いている。
可愛い小物に心惹かれつつ、流し目にすることで誘惑されないよう、ティエラは目的のものを探して回る。
ざっと5分ほど歩いたところで、とうとうおもちゃの宝石を売っている露店を発見した。
「あった!」
ティエラは早足で露店を覗きにいき、並べられている様々な色や形をしたおもちゃの宝石に目を輝かせた。
「いらっしゃい。今日はどんなのをお探しで?」
「詰め合わせってありますか? ランダムにいくつか入った物があるといいんですが」
店主に声をかけられたので、要望を伝える。すると、少し困った顔をされてしまった。
「見てのとおり、うちは全部ばら売りなんだ。購入制限はないけど、袋は用意してなくてねえ」
「いえ、お構いなく! 無理言ってすみません」
そういう売り方はしてないと言われた以上、仕方がない。袋は適当なもので代替えすればいいかと割り切った。
大事なのは、これを欲しいと言っていた二人のお眼鏡に適うかどうかだ。
「キラキラがいっぱい」
「ふむ……」
ソルは、いろんな種類を手にとっては戻すを繰り返している。
シュナクは適当なものを一つ選び、形や輝きを確かめるように、じっくりと見つめていた。
「僕はこの四つにする」
すぐに購入を決めたのはソルだった。
手にしているのは黄色いハート型、赤色の四角い形、紺色でひし形、黒色で雫型の四つだ。
「じゃあ、これください」
「毎度あり」
ソルが手に持っているおもちゃの宝石分のお金を手渡すと、ソルはそれらを大事そうにポケットへ入れたと思ったら、すぐに赤色の宝石を取り出して何やらいじり始めていた。
「これは、本物ではないな」
「そこを確認してたんですか!?」
何度も角度を変えて見ていたシュナクは、これが本物の宝石なのかを確認していたらしい。
もしかして、おもちゃの宝石が欲しいと言うのは思い込みで、やっぱり本物が欲しかったのだろうかと、冷や汗が流れ出す。
「だが、品質は悪くない。本物とは違う、また別の良さがあると思うぞ」
「気軽に使えるのがおもちゃの良いところだからね。子供が楽しむものさ」
「そうだな。その通りだ」
店主の言葉にシュナクは頷き、手に持っていたものを店頭に戻した。そして、黄色くて丸い形をした物を手に取る。
「俺はこれを貰おう」
「毎度あり」
ティエラが代金を渡したのを確認して、シュナクは胸ポケットにそっと仕舞っていた。
「出来た」
露店を後にした後、ずっと静かにしていたソルが顔をあげ、手のひらの上に乗っている物を見せてきた。
「何が出来たの――なにこれぇ?」
ソルの手のひらに乗っていたのは、おもちゃの宝石ではなく、四つの小さな飾りだった。それぞれが買った形と色味をしていて、物にかけられるよう鎖もついている。
想像していたものと全く違うものが出てきたため、ティエラは思わずソルの手を掴んで覗き込んでしまった。
「これは、護符か?」
「うん。さっきの宝石を媒体にして作ったんだ。形はちょっと歪だけど、効果はそこそこあるよ」
護符の効能はそれぞれだ。何となく効果がある、ぐらいのイメージで作ると全体的な効果が落ちる代わりに、幅広い効果をカバーしてくれる。真逆に作れば、一点特化の効果が出やすい。
「きちんと効能がある護符を作れるとは、なかなかやるな」
「これが、ティエラ嬢の従者、ソル殿の真の実力というわけですね」
二人もまじまじとソルが作った護符を見つめ、かなりの関心を持っている。
護符を自作できてしまうなんて、やっぱりソルは自慢の弟だとティエラは鼻高々になった。
「前に話したティエラの靴下も、これになったよ」
「あれってそういう目的で使われてたの!?」
まさかのカミングアウトにびっくり仰天した。
「え、じゃあなんでまた作ったの? 気分転換?」
「耐久度があるから、前のは壊れちゃった」
定期的に靴下を欲しがってくる理由をようやく知ったティエラは、ほくほく顔だった。そういう事情があるなら、今後も求められたら快く渡そう。
そこまで思いかけて、やっぱり疑問がわいた。
「ハンカチとかじゃダメなの?」
これを聞いたソルは、その発想はなかったと言わんばかりに口を開け閉めしてから、わたわたと意味もなく両手を動かしている。
そして、ようやっと声を出した。
「でも、靴下の方が……なんか、いいから」
「そっかぁ……」
今度からはハンカチにしようと、ティエラは無情な決断をした。
「これ、みんなに上げるね」
ティエラがソルにとって悲しい決断をしているとは露知らず。ソルがそれぞれに護符を手渡した。
「わあ、ありがとうね」
黄色でハートの形をした護符を貰ったティエラは、早速リュックサックに取りつけた。
おもちゃの宝石が元になっているからか、光が当たるとキラキラ光って綺麗だ。
シュナクは赤色で四角い形の飾りがついたものを、マントに取りつける。ランドは紺色でひし形の飾りがついたものを、手提げに付けていく。
最後に残った黒い色をした雫型は、ソルが自分用に作ったもののようで、ズボンのベルト穴に付けていた。
「なかなか良いな」
「大切にいたします」
「適当にいろんなものを弾いたら壊れるから、壊れたら捨てちゃって」
素敵なプレゼントをもらい、ティエラはふと妙案を思いついた。
「せっかくなんですから、シュナク王子もプレゼントを買っていってはどうですか?」
「俺が? 誰宛てに買うんだ」
ピンと来ていないシュナクに対し、ティエラはどう言えばいいかと思案する。
ここで『ミルダさんに決まってるじゃないですか』と直接言ってしまうのは、プレゼントというより義務感が強くなってしまう。
しかし、この間見たミルダはシュナクを見て哀愁漂う溜め息をついていたし、シュナクの方も後ろめたいことがあるためか、そっぽを向いていた。
「それは、ほら! 日頃の感謝を伝えたい……女性に、とか!」
日頃の感謝だとランドになってしまうと思い、慌てて女性という言葉を付け足したが、この機転は中々だったんじゃないかとティエラは自画自賛した。
これで鈍いシュナクも気づくだろうと、自信満々の顔を向けると、怪訝な表情が返ってきた。
「何を企んでいる」
「企んでませんって!」
むしろ純度マックスの善意ですと思いながら、この思いよ届けと念じるつもりでシュナクのことをじっと見つめる。
そうしたら、シュナクの表情がパッと変わった。
「なるほど、良いだろう。俺のセンスを見せてやる」
「ぜひお願いします!」
乗り気になってくれたシュナクを見て、ティエラはガッツポーズした。
この喜びを分かちたくてソルの方を見ると、何故か彼は口をへの字に曲げて不服そうだった。
なんでだと思ってランドの方を見ると、こっちは眉間にしわを寄せ、何かを危惧している様子だ。
「ソル、どうしたの? ランドさんも、何かありましたか?」
「別に……」
「いえ、何故か嫌な予感がしただけです。気にしないでください」
「それを気にしないのは無理では?」
もしかして、シュナクが豪語した『俺のセンス』はとんでもないのかも。
プレゼント選びのため、張り切って露店を再び巡り始めたシュナクの背を追いかけながら、ティエラは彼のセンスにハラハラするのだった。




