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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第三章.おでかけ編

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28話.珍海獣焼き

 昼時になり、商業街の飲食を取り扱う露店は更なる賑わいを見せ始めた。

 ティエラたちも人混みに負けじと食べたいものを探して歩く。


 ティエラがぶつぶつと呪文のように珍海獣焼きを唱える横で、ソルはひくひくと鼻を動かし、頭をあちこちに向けて探している。


「聞きそびれていたが、ランド。珍海獣焼きとはなんだ」

「刻んだ海獣の身を、生地に包んで鉄板で焼いた物です」


 シュナクは珍海獣焼きを知らないのかと、ティエラは意外に思って話し込んでいる後ろの二人を見た。


「海獣なのか? 珍はどこにいった」

「手足の多い海獣は珍海獣と分類されますが、あれを使っております」


 具体的な説明を聞いたシュナクが、眉間にしわを寄せたのが見えた。


「お前は食ったことあるのか」

「騎士団仲間と共に、何度か。元は平民が開発した料理だそうですが、貴族向けに改良されたものもございます」


 騎士団には平民も多く所属しているようで、ランドは身分による差を付けたりしないようだ。

 だから、自分たちにもこんなに良くしてくれるのかと、ティエラは嬉しくなった。


 あんなことまであったのに、ソル共々こうして相手にしてくれるのは、本当に頭が上がらない。


「あった! ティエラ、珍海獣焼きを作ってる露店、あったよ!」

「やったー! あ、シュナク王子も食べますよね!」

「ランドの分も買ってくるね」


 ソルが見つけたので、ティエラはすぐにそっちへ意識を向けた。お財布を握り締め、ソルと一緒にそそくさと列に並ぶ。


 お昼時に人が増えることは露店側も分かっていたようで、作り置きしてあるものをどんどん捌いていくことで、列はぐんぐん進んでいく。

 おかげでティエラたちの順番はすぐに回ってきた。


 お金を渡し、硬めの紙材に八個ほど入っているものを四パック購入する。ソルと手分けして持ち、シュナクたちの元へ戻った。


「お待たせしました!」

「串も付いてるから、ここで食べられるよ」

「ありがとうございます」


 それぞれに珍海獣焼きの入った器を渡すと、ランドからお金を渡されそうになったので、ティエラは首を横に振った。


「これは奢りです。遠慮せずどうぞ!」

「いえ、既にお詫びの品も受け取っていますから」

「じゃあ、無理やり取りつけたお出かけに付き合ってくれたお礼です!」


 それでもと食い下がろうとするランドに、シュナクが手のひらを見せて止めた。


「よい。それより、冷める前に食べてしまうぞ」

「そうですよ。温かいうちに頂きましょう!」


 人通りの少ない脇道に四人で移動して、それぞれの器の中にある珍海獣焼きに刺してある串を持ち、食べ始めた。


「あふっ、あふぃ」

「ふーっ、ふーっ……」


 一つを丸々口へ入れたティエラは、内部の熱さによって口の中がえらいことになった。

 ソルはというと、ちょっとだけ串で中に穴をあけ、何度も空気を送り込んで冷ましていた。


「温かいうちに食うものではないのか」

「僕、熱いの苦手なんだ」

「なのにこれを食うと言っていたのか?」


 シュナクは横でランドが串を使って二つに割り、そのひとかけらを口に含んでいる様子を見ながら、ソルの奇行に困惑していた。


 ティエラもかけらの内部から白い湯気が勢いよく立ち上っているのを見て、丸々一個を口に入れるんじゃなかったと涙目だ。


「殿下、こちらは問題ございませんでした。どうしますか?」

「……本当に、立ったまま食うのだな」


 ランドに渡された半かけらの刺さった串を受け取り、シュナクはしげしげと見つめている。

 一向に口へ入れないので、どうしたのだろうと思っていると、ランドが手提げから何かを取り出した。


「気が進まないのでしたら、弁当も用意してきております」

「お弁当を用意してきたんですか?」


 お弁当を持参したというランドに、ティエラはびっくりしてしまった。

 仮に今日がお祭りでなかったとしても、お昼はどこかの飲食店で済ませるのがお出かけというイメージがあったからだ。


「俺が王子だと言うことを忘れていないか?」

「だから忘れていませんって!」

「殿下は、気軽に食事をするわけにはいきませんので……」


 今回もまた冗談かと思っていたが、本当に大事な話が出てきてティエラは言葉に詰まってしまった。

 露店に限らず食べ物は全て、口に含む前に誰かが確認をしてからでないといけないのが、シュナクにとっての当たり前なのだ。


「じゃあ、これもランドが先に食べればいける?」


 珍海獣焼きを冷ましていたソルが、片手でティエラのリュックサックの中を漁り、一つのお菓子を取り出した。


「『運試しの房』だ。懐かしいなあ」

「うん。この中に一つだけ、酸っぱいのが入ってるの」


 ほぼ流れ作業でリュックサックにソルから受け取った物を入れていたので、今まで気づかなかった。

 これは四つ入りで、友達と運試しをしながら食べる楽しいお菓子だ。ブドウ味の中に、一つだけレモン味が入っている。


 小さい頃はよくソルと食べあいっこをしたけど、思い返すとソルがレモン味のを食べたことは一度もなかったような気がする。


「それこそ、俺に食わせるには問題大ありのものじゃないか?」


 シュナクは話を聞き、これのどこが行けるお菓子だとソルが判断したのか分からないと頭を抱えていた。

 ティエラも同じ心境だった。


「一応、毒見は致しますが……」


 言われるがままに、ランドはソルの手の中にある運試しの房から一つを手に取り、口に入れた。


「これは、蜜固めですね――ぐうっ!?」


 果汁を煮詰めて固めたお菓子であることを伝えたランドは、強面の顔になるのを必死に堪え始めた。そして、必死に声を上げる。


「殿下! これは大変……危険、です! うっ、酸っぱい……!」

「はっはっは! はずれを引いたのだな。味覚への刺激だけで、害はなさそうだ」


 あまりの酸っぱさに悶えるランドを横目に、シュナクは高らかに笑ってソルの手から一つ、運命の房を取って口に入れた。

 数度口を動かし、にぃっと笑う。


「ブドウ味だ。旨いな」

「僕も食べよ」

「じゃあ私も」


 ソルも平気な顔をして食べている。もちろん、ティエラのもブドウ味だった。


「……良いものだな。祭りというのは」


 ランドから受け取った珍海獣焼きの方も口にし始めたシュナクは、しみじみといった具合に言葉を漏らしていた。

 王子という立場上、全く警戒せずに楽しむことは難しいけれど、その中でも楽しみを見出してくれたら嬉しいなと、ティエラは思った。


「それじゃあ、これを食べたら宝石探しに行きましょうか」


 残るはソルとシュナクが望んでいる、おもちゃの宝石だ。

 お腹がいっぱいになったら最後の探し物だと、ティエラは珍海獣焼きを頬張った。火傷はしなかった。

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