27話.頂戴いたします
ソルとシュナクを視界の端に入れながら、ティエラはランドへのお詫びの品探しを再開した。
小型の留め金やバッジはあまり興味がなさそうだったので、ほぼ流し見となって終わった。
革の細ベルトは悪くない感触ではあったが、露店品だと品質が気になるようで、普段使いを考えて却下された。
「簡易メンテナンスセットまであるのか」
ランドが次に興味を持ったのは、小箱だった。中には布と油、それからブラシが入ってた。
「これは、どういうものなんですか?」
「武具の手入れをその場で手早く済ませるためのものです。ソーイングセットの武具版、とでも言えばいいでしょうか」
「なるほど!」
自分とソルの二人で来ていたら、これらのものを見て回ることはなかった。普段は見ないものに目を向けてみるというのも、新鮮で楽しい。
「これにしますか?」
「……いえ、流石に殿下との出掛け先で武具用品を購入するのは、申し訳ないので」
――今日の主役はランドさんだけど。
ティエラはそう考えたが、その本人の考えこそを主張すべきだと思い、言葉にはしなかった。
「すみません。あれもこれも断ってばかりで」
「いいんですよ。それだけ真剣に見てるんだって、伝わってきます」
また何かを買ってきたらしいシュナクの荷物を預かりながら、謝罪をしてきたランドにティエラは首を横に振った。
ランドと同じように、ソルから渡された荷物を受け取りながら、ティエラはさらに次の露店を探し、空いている方の手で次の場所を指した。
「次は、あれなんてどうですか!」
「……お腹が、空いていますか?」
ティエラが指さした先にあった露店は、ベイビーカンテラを取り扱っていた。
ちなみに、ベイビーカンテラは一口サイズのふわふわしたお菓子だ。
「はっ! そういうわけでは!」
ランドに合いそうなものをと思っていても、ちょっと気を抜くとすぐ自分好みの物を勧めてしまうため、ティエラは何度目か分からない謝罪を口にしていた。
「もう少しだけ、お付き合いください」
「もちろんです。満足いくものを見つけましょう」
ここで諦めたりしないと意気込みを見せると、幼い子供を見るような優しい瞳で見られた。
もしかして、自分もシュナクと同じようなポジションとして扱われているのではないかと、ティエラはこの時になってようやく気付いたのだった。
* * *
護符や上質なハンカチ、果てには軍靴用の中敷きなんてものまで見て回ったが、これじゃないということで没となった。
「護符は騎士団で支給されるものと比べちゃうと、流石に見劣りしちゃいますねえ……」
「ハンカチも、貴族は家紋がありますので」
「中敷きに至っては、ニッチすぎましたね」
ティエラは庶民ということもあり、家紋なんてものはない。そのため、身に着ける一部の物には家紋を入れたものを使う、という文化に馴染みがなかった。
そのため、安易にハンカチを勧めてしまった。
王立学園に通う以上、貴族である人を相手にすることは今後、増えていくこともあるはず。
だからこそ、相手の文化も尊重していかなくては。
「詫びの品は決まったか?」
片手では数えられなくなった戦利品をランドに渡しながら、シュナクが訪ねてきた。同じように、ティエラもソルから戦利品を受け取り、リュックサックに仕舞う。
ランドが何も言わないと、それで理解したらしいシュナクが大袈裟な溜息を吐く。
「もうすぐ昼時だぞ。さっさと決めてしまえ」
「はい」
「ええ! 妥協せず、最後まで探しましょうよ!」
シュナクの横暴な言葉に二つ返事をするランドに、ティエラは割って入った。
何度でも言うが、今日の主役はランドなのだ。彼が満足するものを買わなくては、意味がない。
「はあ、仕方のない奴め。ついてこい」
言われるがままにみんながシュナクの後をついていくと、一つの露店にたどり着いた。ここで取り扱っているのは雑貨のようで、様々なものが並べられている。
「これなんか、いいだろう」
シュナクが手に取ったのは、赤色の紐で編まれた下緒だった。それをランドの腰部分に当て、雰囲気を図っている。
「ランドが本を読むなら、これもいいんじゃない?」
ソルが見せてくれたのは、革の栞だった。紺色に染められており、落ち着いた印象を受ける。
「これは……いいですね」
二人からそれぞれの物を受け取ったランドは、右手に持った赤色の下緒と、左手に持った紺色の革の栞を見比べている。
今までに見せたことのない真剣さで、三往復ほどしていた。
――この光景、どこかで見たなあ。
ティエラがデジャブを感じていると、ランドと目が合った。そして、二つの品を手渡される。
「これはティエラ嬢からのお詫びなので、ティエラ嬢が選んでくれますか」
「あ……はい! 選びます!」
お詫びの品は一つだからと、ティエラに選ばせてくれるらしい。細かいところまで配慮の出来るランドに、ちょっぴり気恥ずかしさを覚えた。
ささっと視線を手元に落とし、ティエラは照れくささを追い出そうと、真剣な表情を作って二つを見比べた。
そして、こっちだと決めたティエラは露店先の店主に料金を支払う。もう一つの方は店頭に並べ直した。
品物は、小さな袋に入れてもらった。
急いでランドの元へ戻り、彼の前に立って姿勢を正す。
「ランドさん。登校初日は本当に、すみませんでした。あのマントは、今もソルが大事に使わせてもらっています」
「はい」
そっと、選んだ品物を差し出しながら、ティエラはあの日のことを謝った。
「こちらを受け取っていただければ幸いです」
「ありがたく、頂戴いたします」
しっかりとランドの手に品物が移ったのを確認する。それから、彼がちらりと視線をよこすので、小さく頷いた。
ランドは袋を開き、中身を取り出す。
「革の栞を選んでくれたのですね。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑をたたえたランドは革の栞を小袋の中に戻し、大事そうに手提げへ仕舞った。
「ようやく決まったか。さあ、飯にするぞ。腹が減った」
「僕も、珍海獣焼き……」
相変わらずな二人にティエラとランドは目を見合わせ、また二人の方に顔を向けた。
「大変お待たせしました。昼食にいたしましょう」
「私も珍海獣焼き食べたい! 一緒にさがそ!」
ランドへのお詫びを終えたティエラは、ソルの腕を掴んで露店を巡りだす。
ティエラはまだまだ、このお祭りを楽しむつもりだ。




