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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第三章.おでかけ編

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25話.星辰の時計塔

 ランドへお詫びの品を買いに行く日。

 ティエラはめちゃくちゃ気合を入れていた。


 気合を入れすぎて、集合時間の30分前にはソルを連れて現地にやってきていた。

 商業街のシンボルである『星辰の時計塔』の近くには、ティエラたちのように待ち合わせ場所として利用している人がたくさんいた。


 塔にはめ込まれている大きな時計は、一時間ごとにデザインされている星がきらりと光り、星の位置が時計内を移動するので有名だ。


「眠い……」


 準備のため、朝早くに叩き起こされたソルは目を擦り、頭をぐらぐらさせている。上着も若干よれていた。


「明日はお出かけって言ってるのに、夜遅くに突然走り回るから……」


 早く寝ようねとティエラが声をかけたタイミングで、ソルは何を思ったのか部屋の中を走り回っていた。


 そして、ぜえはあ言いながらめちゃくちゃいい笑顔をしていたことまでは覚えている。

 ティエラは既に意識が怪しかったので、その後ソルがまた走り出したのを最後に朝を迎えた。


「お待たせしてしまい、申し訳ございません」


 立ったまま舟をこいでいるソルの隣で地面を見てそわそわしていると、声がかかった。ぱっと顔を上げると、たくさんいる人の中でもひと際目立つ長身の人物が立っていた。


「いえ! 集合時間ぴったりです」

「そうだぞ、ランド。予定時刻通りなのだから、謝ることなど何もない」


 何故か、ランドから別の声が聞こえてきたので、ティエラはちょっと驚いた。角度の問題で、シュナクが完全にランドの長身に隠れていたようだ。


 彼はランドと一緒に来たようで、もちろん遅刻じゃない。


「それにしても、凄い人混みだな」

「休日でもありますからね。一度、場所を移しましょう」


 シュナクはこういった場に慣れていないのか、ずっとあちこちに視線を向けている。そんな彼を守るようにランドは腕を使い、シュナクを先導し始めた。


 ティエラもその後に続くと、ソルもランドの真似をしてティエラの身体の前に腕を伸ばし、人が接触しないようにかばってくれた。


「ふふっ、ありがとうね、ソル」

「僕、ランドみたいにかっこいい?」

「うん、かっこいい」


 こういうところが本当に可愛くて仕方がないと、ティエラは人に見せられない顔をしていた。


 星辰の時計塔から少し移動するだけで、人がまばらになった。

 お店の迷惑にならない位置に移動したティエラは、改めてランドに質問した。


「ランドさん。欲しいものは、決まりましたか?」


 ティエラの質問を耳にして、ランドは眉を下げた。ほんの軽く、姿勢を前に傾ける。


「大変申し訳ないのですが、やはり今、これといったものはありません」

「そうですか……」


 物欲のある人物には見えない以上、こうなるのではという予感はあった。

 しかし、ここで諦めるティエラではない。こんなこともあろうかと、リュックサックの中からノートを取り出した。


「安心してください! 今日は季節の市場が大通りで開催されますから、そこで気に入るものが見つかるはずです!」


 このノートには、本日の目玉商品や、取り扱われている商品の各コーナーなどがまとめてある。

 これをバシンと叩きながら、ランドに詰め寄っていく。


「さあ! これを見て、まずは気になるものを探しましょう! そして、実際に足を運びましょう!」


 ぐいぐいとノートを押し付けると、ランドは観念したように受け取り、恐る恐るといった形でノートを開く。

 ティエラは顔をほころばせ、ランドが決めるまでの間、シュナクと話すことにした。


「シュナク王子の方は、何が欲しいか決めてきましたか?」

「俺は宝石だと伝えてあっただろう。忘れたのか?」


 あれって冗談じゃなかったのかと、ティエラは身体を固まらせた。

 慌ててリュックサックから財布を取り出し、中身を確認する。


 一応、いつもより多めに持ってきているが、本物の宝石を買えるような金額は持ち合わせていない。

 もっと言うなら、ティエラが持っている全貯金を合わせても、多分買えない。


「ソルにはたくさん買ってやるのだろう? 俺にはその中から一つ、分けてくれるだけでいいんだ。出来るだろ?」


 悪い笑みを浮かべているシュナクは、困っているティエラを見て楽しんでいるようだった。

 ただ、ティエラはこれを聞いたことでぱっと表情を明るくした。


「ああ、王子もおもちゃの宝石が欲しかったんですね! それなら一つと言わず、一袋買いますよ!」

「は? おもちゃ?」


 シュナクも同じものを欲しがるなんて、ソルと感性が近いのかもしれない。

 とにかく、本物の宝石ではないことが分かり、ティエラは肩の力を抜いた。


「ティエラ嬢」

「はい! 決まりましたか!」


 ノートを畳んだランドに呼ばれ、ティエラは弾かれたようにそちらへ距離を詰めた。返されたノートを受け取り、わくわくしながら待つ。


「その、大変申し訳ないのですが……」


 とても話しづらそうにするランドを見て、ティエラは徐々にテンションを下げていく。

 もしかしなくても、気に入るものがなかったのだろう。ランドはそれをどう伝えればいいかと、気を使ってくれているのが痛いほどに分かった。


 二人して顔を見合わせて気まずくなっていく中、シュナクがティエラの手の中にあるノートを取っていき、開いていた。


「な、なんだこれは!」


 そのすぐ後に、シュナクのびっくりした声がするので、ティエラは何事だとそちらに視線を向ける。

 ランドはというと、右手を顔に当てて目を閉じていた。


「女性向けの小物や、食べ物のことばかりじゃないか!」

「はい! 私が好きなものをたくさん書きました!」

「ランドに詫びの品を買うと言う話はどうなった!」

「そ、そうだったーっ!」


 完全に自分好みのノートを作り上げたことに、ティエラはようやく気付いた。

 書いている時に気づけとシュナクに責められ、半泣きでランドに謝る。それから、しょんぼりと肩を落とした。


 すると、下がった肩にちょんちょんと何かが当たった。


「ティエラ。この『珍海獣焼き』っていうの、僕食べたい」

「あっ、それ私も食べたい!」


 シュナクからノートを受け取ったソルは中身を見て、自分が食べたいものを指さしている。

 ティエラもこれは凄く気になっていたので、ついノートを覗き込みに行って指をさし、ソルと共有した。


「こいつらは本当に……」

「では、市場へ向かいましょうか」


 眉間を揉むシュナクと、いつも通り表情を変えないランドに促され、ティエラたちは季節の市場へ移動を始めた。

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