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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第二章.クラスメイト編

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23話.勝ったのは

 走り始めて、どれくらい経ったのか分からない。

 ティエラは息を整える暇もなく、ソルの手を引いたまま林の中をジグザクに駆けていた。


 背後から飛んでくる魔力の縄は相変わらずで、数が減る様子もなければ、距離が離れる気配もない。


 ――このままでは、追いつかれてしまう。

 明確な不安を覚えながら、ティエラは必死に走り続けていた。


「ティエラ、こっちだ!」


 左側から、覚えのある声が聞こえてくる。ティエラは藁にも縋る思いで、左に急旋回した。ソルも足をもつれさせることなく、しっかりついてきているのが伝わってくる。


「俺が相手だ!」

「くそっ、増援か!」

「ミルダさんとメイさん、やられちゃった!?」


 ティエラとソルを庇うため、一歩前に飛び出したシュナクとは対照的に、オジェたちは完全に浮足立っていた。

 ここで、相手側に増援がくるという想定はしていなかったようだ。


 そしてそれは、ティエラも全く同じだった。今はシュナクが神々しく見えて仕方がない。


「怯むな! 俺たちが捕縛する側なんだ。相手は結局、逃げることしか出来やしない!」


 オジェとチームを組んでいる一人の男子が、二人を鼓舞しながら再び魔力で縄を作り始める。そして、こちらへ突っ込んできた。


 相手の言い分はもっともだと、ティエラは慌ててソルと一緒にまた走り出そうとした時、シュナクが真横に腕を振るうのが視界に入った。


 人を簡単に飲み込めるほどの高さを持った炎が壁となり、ティエラの少し後ろで立ち上がった。

 完全に向こう側にいるオジェたちの姿は遮断され、見えるのは煌々と燃え続ける白みがかった炎だけになった。


 ――怖い。

 熱風が吹き抜けるよりも早く、ティエラは自分の胸に何かが詰まったような感覚を抱いた。

 理由は分からない。ただ、体が先に拒絶していた。


「ティエラ!!」


 ソルの声が近くで聞こえる。その声は悲鳴混じりで、痛々しい。

 なのに、ソルは炎への本能的な恐怖に駆られながらも、自分と炎の壁の間に飛び込んでいく。


 ティエラは反射的に、ソルを止めようと握っていた手に力を入れるが、指が自分の手のひらに当たって終わった。


 彼が飛び込んでいったのを見れば、既に手が離れていると分かるはずなのに、ティエラはそんな判断すらままならなくなっていた。


「ランドがミルダとメイの相手をしている。俺たちもここから――」


 自身が出した炎の壁に背を向けたシュナクと、この時になって初めて視線が合った。


 彼は大きく目を見開き、慌ててこちらに駆け寄ってくる。

 いつの間にか座り込んでしまっていたティエラに向けて、手を伸ばしながらこちらへ来ているシュナクが、急に青くなった。


 ドバーッと滝のような水がどこからか現れ、炎の壁を含めた周辺一帯が、一瞬にして水浸しになった。


 炎の壁は消え去り、一番近くにいたシュナクも、そこから離れていたティエラやソル、果てには炎の壁の向こう側にいたオジェたちもびちゃびちゃだった。


「……えぇ?」

「うわっ、濡れた」


 なんで自分たちは濡れたんだと、誰もが理解不能な中にいた。

 ただ一人、ソルだけは嫌そうな顔で自分の服についた水滴を払っている。


「ソルが、やったの?」

「うん」


 聞けば普通に答えてくれるいつものソルに、ティエラはなんだか力が抜けてしまった。

 元々座り込んでいるが、へなへなとさらに身体を前のめりにしていく。


 ソルが水を出して炎を消したことを認めたことで、シュナクも我に返ったように髪の毛についた雫を払いながら、大股でやってきた。


「なんで炎を消した!!」

「いや、怖かったから……」


 怒れるシュナクに対しても、ソルは素直な感想を口にする。それから、思い切り頭を振って水滴を飛ばす。

 シュナクの顔が、さらに濡れそぼっていく。


 なおも飛んでくる水滴に苛立ちを隠さないまま、シュナクは吠えた。


「炎に怯える刺客など聞いたこともない! お前は刺客失格だ!」

「それで刺客疑惑が解けるの!?」


 本当にそんな基準でソルのことを刺客ではないと言い切っていいのかと、ティエラはシュナクの理不尽さに唸った。


 でも、刺客ではないと思ってもらえることは悲願でもあったわけで。

 こんな理不尽な形で誤解が解けたことに、ティエラの全身が地面についた。


「捕まえた!」

「えっ?」


 そんな中、我に返ったオジェがソルを捕まえたところで鐘の音がなった。

 完全に授業中であったことを忘れていたティエラは、やってしまったと顔面蒼白だ。


 オジェたちは、ティエラが必死にソルを守っていたから、彼こそがリーダーだと目星をつけていたのだ。


「やったー! なんかわかんないけど勝ったー!」

「炎の壁で道を塞がれた時は、もうダメかと思ったよ!」

「その後、ずぶ濡れになったのもよく分かんないけど、結果オーライだな!」


 ワイワイと喜びを分かち合う相手チームの三人を見ながら、ティエラは奥歯を噛みしめた。

 本当にあとちょっとだったのに、ソルを守り切れなかった不甲斐ない結果に落胆する。


 そこへ、クラッドがやってきた。


「ここの勝者は逃亡側だな。じゃ、さっさと教室に戻れよー。負けた方は毎度のことだが、反省文を提出な」


 言うことだけ言って、クラッドはすぐに別の場所へ向かっていってしまった。


「なんで俺たち負けたの?」

「ソルに札を渡してたのに、なんで私たち勝ったの?」


 間違いなく、オジェはソルを時間切れになる前に捕まえていた。なのに、勝利したのはティエラたちの方だった。


 なんでだろうと、ティエラは大量のハテナを頭に浮かべるのだった。

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