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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第二章.クラスメイト編

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21話.見定めはまた今度

 あれから、何度もミルダとメイによる襲撃を受けた。今のところ誰も欠けていないが、深刻な問題が発生している。


「はぁ……ぜぇ……」


 こちらは逃亡側ということもあって、相手に捕まらないことが第一の目標だ。そのため、ちょっかいを出されても適当にいなして逃げるしかない。


 ただ、相手の能力が高すぎて、軽くいなす程度ではすぐに追いつかれてしまうのだ。加えて、あちらの体力は無尽蔵なのかと錯覚させるほど、ずっと全力で追いかけてくる。恐るべし。


「ティエラ、大丈夫?」

「全然……ダメ……」


 ソルに心配されたが、言葉を返すのも苦しくて、そっけない感じになってしまう。

 シュナクたちの足についていけているので、ティエラの足が速いと見立てたランドの判断は正しかった。

 ただし、体力がなかった。


 口で息をするため、口の中が完全に乾燥しきっている。それが喉にまで伸びるので、嗚咽を抑えるのでいっぱいいっぱいだ。

 今のティエラの脳内は、どうやったらこの追いかけっこから解放されるかで埋め尽くされていた。


「楽に、なりたい……」


 思わず漏らした言葉に釣られるように、ティエラはとうとう足を止めてしまう。苦しすぎて出ていた涙が、目じりから落ちていった。

 真っ先に気づいたソルが立ち止まり、ティエラの元へ戻ってきた。


「どこかで休憩しないと」

「ふぅ……ふぅ……」


 ソルが背中を擦ってくれるおかげで、少しだけ息が整ってきた。とはいえ、この後またすぐに走らないといけないと思うと、足踏みしてしまう。


「殿下。今のままではこちらが体力を切らし、全員捕まってしまいます」

「必要なのは時間だ。ティエラだけに限らず、みな休まなくては……」


 シュナクも肩を上下させ、息を整えている。

 彼とランドは毎度突っ込んでくる二人を対処しては合流、というのを何度もしているため、特に体力の消耗が激しい。


「二手に分かれようよ。相手の残り三人が全然来ないのも、怪しい感じがする」

「俺もソル殿の意見に賛成です。気にすべき相手は、ミルダ嬢とメイ嬢だけではありません」


 二人の従者から進言を受け、シュナクが頷く。

 問題は、誰が何を担当するかだ。ティエラとしては、リーダーの交代も提案していいタイミングではないかと思っている。


 明らかに体力切れを起こしている自分が、一番捕まる確率が高いと感じているからだ。ただ、喋ろうにも息を吐きだして吸うことしかまだ出来ない。

 その間にも、三人が話を進めていってしまう。


「よし、俺とランドはここに残り、目下の悩みである二人を足止めする」

「じゃあ、僕はティエラを連れてどこかに隠れるね」

「ああ、リーダーの札はそちらに任せるぞ」


 逃亡側なのに捕縛側を足止めしないといけないという事態になるなんて、夢にも思わなかった。

 あまりにも分が悪いことに二人を送り出すことになってしまった、自分の体力のなさをティエラは悔やんだ。


「その……ごめん、なさい……」

「勘違いするな。別に、ティエラのせいではない。走っているよりはその場でいなし続ける方が楽だから、この場に残るだけだ」

「殿下は、走るのが得意ではありませんので」

「おい! 俺が格好悪いみたいに言うな!」


 また、遠くの方から砂煙が舞い上がっているのが見えた。休憩もここまでと、二人がティエラに背を向けた。


「行け。ソルが兄上の刺客としてどう動くのかを見定めるのは、また今度だ」

「だから違いますって!」


 そこだけは頑固な人だなと、意見を曲げないシュナクにティエラも背を向けた。

 ソルをいまだに刺客だと思い込んでいる彼に、私が残るから札を持って行ってと言っても聞き入れてもらえないだろう。


 ここは、二人を信じてソルと一緒に逃げるべきだ。


「背中は任せます!」

「ご武運を!」

「必ず札を守り抜け!」

「ティエラ、行こう」


 ソルに手を握られ、ティエラは走り出す。後ろは、振り返らなかった。


 * * *


 二手に分かれてから、5分は経っただろうか。時間を把握できる物は一切禁止されているため、体内時計だけが頼りだ。

 あれから、ソルに連れられて林の中をジグザグに移動した。もう、自分の正確な位置も把握できていない。


 一応、行動可能範囲は魔法で区切ってあるらしく、端には見えない壁を作ってあるという注意書きはあった。

 今のところ、そのようなものに当たった感覚はなかったので、指定されている区画内にはいるはずだ。


「呼吸、整ってきた?」

「うん、もう大丈夫。ソルも、休めるうちに休んでおいて」


 少し大きめの木の根元に、いい感じのくぼみが出来ていたので、ティエラたちはここに身を寄せている。

 真正面から来られたらどうにもならないが、角度次第では見落とされる可能性もある、いい場所だ。


 先にティエラが休ませてもらったので、今まで周囲を警戒してくれていたソルに交代を申し出た。


「うん、そうしようかな。なんかちょっと、鼻が利かなくて……」

「匂いで敵感知してるの?」


 ひくひくと鼻先を動かしながら、ソルは自分と交代するように木の根元にある空洞に入っていった。


 体力が戻ったことで余裕が出てきたティエラは、気合を入れて監視役を務めた。ただ、林の中は視界が悪く、肉眼だけでは心もとない。


 ――そうだ、匂いだ!

 ここで、ティエラはソルの真似をした。スンスンと鼻を動かせば、新鮮な空気が肺をいっぱいにした。

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