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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第二章.クラスメイト編

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20話.捕縛と逃亡の訓練

 クラッドがラファエル1号を呼びに行っている間に、訓練開始となる10分が経過した。

 それと同時に、大空から『始め』というクラッドの声が聞こえてきたため、反射的にみんな動き始めた。


 時間内に戻ってこられなかった時用に、声を録音させたものを置いていったのだろう。空を見た時に光る球が見えたので、多分あれがそうだ。


 結局、10分という短い時間では大した作戦が決まらなかった。

 ティエラたちもとにかく固まって、捕縛チームから距離を取るために走り出す。


「俺たちを追う捕縛チームには、ミルダ嬢がいたな」

「はい。同じく、従者であるメイ殿も一緒のチームです」

「あの二人が相手か……」


 走りながら、シュナクは険しい表情を浮かべる。名前が挙がった二人について、シュナクたちは知っている何かがあるようだ。


「何かあるんですか?」

「強いぞ。彼女たちは」


 真に迫った声でシュナクは言い切る。ティエラはこれを聞いて、呼吸を乱した。

 学園の方針に従い、ティエラは誰であっても区別なく平等に接しているつもりだ。それはシュナクも、ミルダも例外じゃない。


 だが、現実としてシュナクは王子で、ミルダは公爵令嬢だ。

 ティエラがどれだけ学園の方針に従ったと言っても、二人が本気を出せば、ティエラなんて赤子の手をひねるよりも簡単に、どうとでも出来てしまう存在に違いない。


「格が違うなんて言われても、負けませんよ!」


 ――たとえ、強大な力によって妨害されたとしても。

 ココラッテは絶対に守って見せると、ティエラは明後日の方向に話を飛躍させていた。


「言うじゃないか。相手が公爵令嬢であっても引かないその覚悟は、目を見張るものがあるぞ」


 しっかりと目を見ながら、そのように断言されたことでティエラの胸は鼓動を速めた。何だかシュナクに認められたようで、自信が湧いてくる。


 その時、地響きのような音が聞こえた気がした。

 気のせいかと思いながら後ろを見ると、遠くからでもすごい砂煙が上がっているのが肉眼で分かる。そしてそれは、ジグザグに曲がりながらも確実にこちらへ近づいてきていた。


「早速お出ましだ!」

「ソル殿、ティエラ嬢を頼みました」

「分かった」


 ティエラは何が起きているのか理解できないまま、ソルに小脇に抱えられた。完全に足が地面から浮いたため、びっくりして足をばたつかせてしまう。


「見つけましたわ! 今日こそはあの方に、良いところを見せますわよ!」

「もちろんでございます!」


 突っ込んできている相手もこちらを補足しているようだ。砂煙の中から人型のシルエットが二つほど見えた。


「右に行くね」

「了解した」


 それをもろともしないまま、ソルはランドと軽くやり取りをして、宣言通り右の方へ大きく曲がった。

 このまま進むとはぐれると思い、ティエラは慌てて細い魔力の糸をうっすらと残し始めた。


 ティエラよりは大きいと言っても、ソルは男性の中では小柄な方だ。そんな彼に抱え上げられたということは、自分はまたさらに痩せたのかもしれない。

 心の中でガッツポーズをした。


「ティエラ、ちょっと大きくなった?」

「えっ!! 私、太ったかな!?」


 儚い夢は一瞬で打ち砕かれた。むしろ、知りたくない現実を突き付けられ、ティエラの心は大洪水だ。


「ここで会ったが100年目! 今日こそ、打ち負かさせていただきます!」

「相変わらずの暴走っぷりだな!」


 後ろから、メイとシュナクの白熱したやり取りが聞こえてくる。あの砂煙の犯人はメイだったのかと、ティエラはようやく理解した。


「ラ、ランド様……ごきげんよう」

「ミルダ嬢と言えども、今は敵。全力でお相手させていただきます」

「そんな……お、お相手だなんて……」


 あの砂煙の中にいたもう一人は、ミルダだったようだ。彼女はランドと対峙しているらしく、去り際に会話が聞こえてきた。

 いつもの覇気がないようにも聞こえたが、今の彼女は捕縛メンバーの一人なので、構ってはいられない。


 ソルの脇腹を軽く叩くと、意図を理解してくれたようで走る速度を下げてくれた。そのままおろしてもらい、ティエラは自分の足で走り出す。


 遠くで甲高い悲鳴が二つ、ほとんど間を置かずに響いた。思わずティエラが足を止めて振り返った、数秒後。


「お待たせしました。魔力の糸による誘導があり、早く合流できました」

「地味ながら、良い仕事をするじゃないか」


 何事もなかったかのように、シュナクとランドが戻ってきた。

 咄嗟にやったことだったが、思ったよりも好感触でティエラはご満悦だ。


 そして、シュナクが立ち止まるティエラに顎で走れと合図を送ってくるので、慌てて足を動かした。

 あと、魔力の糸も止めた。二人と合流した以上、残していては相手にも場所を教えてしまう。


「メイさんとミルダさんは?」

「適当に炎の壁を出してその中に置いてきた。『次は絶対に負けません!』と叫んでいたぞ」


 これを聞いたランドは、シュナクに労いの視線を送っている。

 ティエラもこれを聞き、逃亡側であっても相手を傷つけなければ魔法を使ってもいいし、それによって妨害をしてもいいんだと閃きを得た。


「ミルダ嬢の方は何故か道を譲ってくださったので、そのまま置いてきました。『ランド様と本気で戦うなんて、とんでもありません』とか、なんとか……」

「相変わらずだな」


 少し間を置いて、二人は同時に後ろを見た。


「今頃には復帰して、もうこちらへ向かってきているだろう」

「あのタフさは、我々も見習わなくてはなりません」


 ミルダの言動は分からないが、メイに至ってはシュナクの魔法で足止めをされているはず。それをもう突破してくるというのは、流石は公爵令嬢の専属従者として選ばれる人物だ。


「……あ! 二人がすごいって、タフさのことを言ってたのね!」

「他に何があると思っていたんだ?」


 再び砂煙を巻き上げてこちらへ突っ込んでくる二人を見て、ティエラはようやくシュナクの言っていた『すごい』の意味を理解したのだった。

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