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従者が猫すぎて入学式が崩壊しました  作者: おかかむすび
第二章.クラスメイト編

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13話.月光柑橘

 ソルは学園に来る前も普通の人間だし、そもそも生まれた時から人間なのは間違いない。


 しかし、ここ数日に起きた出来事を振り返れば、こう思ってしまうのも仕方がないことだ。ティエラは入学式当日に起きた数々の悲劇を、頭から追い出した。

 見なくていい現実もあるはずだ。あると思いたい。あってほしい。


 ティエラが現実逃避している間に、オジェは自分の席を持ってきて、弁当箱を開いていた。

 ミニトマトやブロッコリーなどの野菜と、珍海獣型のお肉詰めなどが綺麗に並べられていて、彩りが良い。


「で、えっと、月光柑橘はなんだって話だったね」


 月光柑橘というのは、オジェの実家が営んでいる老舗で取り扱っている香水の名称だと、彼は説明してくれた。


 ソルが今まで感じていたとおり、ミカンをメインにした香りで、数年前にオジェの姉が新しく開発したものだという。

 王都で大流行したことで、オジェのお店は盛り返したのだと話してくれた。


「聞いたことないなあ」


 ティエラも正直に言うと、聞いたことはない。ソルほどはっきりと口にはしなかったが、顔には出てしまっていたらしく、オジェが苦笑いしていた。


「顧客相手のほどんとは上位の貴族だし、王都周辺でしか流行ってないからね。少し離れるだけでこういうのが話題になりにくいってのは、実感してるよ」

「ごめんね。その、香水には疎くて……」

「ああ、いいんだよ。ティエラさんはパンとお菓子を取り扱っているお店でしょ? なかなか、食べ物に匂いはね」


 自分のお店の話をしたことないのに、オジェが知っていることにティエラは驚いた。


 今まで軽く話してきた会話の中で、いつの間にかポロッと言ったことがあったかなと、脳内で過去に遡り始める。

 それも顔に出ていたのか、オジェに笑われた。


「あはは。話してもらったことはないけど、ちょっと見てればすぐ分かるよ。ほら、いつも同じお店のパンを持ってきてるし、紙袋のロゴを必ず見えるように置いてるからね。宣伝の仕方が押しつけがましくなくていいなって、勝手にだけど思ってたんだ」


 そういえば、初めてお昼が始まった時からそういう風においていた。いつの間にか癖みたいになっていて意識すらしていなかったが、ちゃんと見ている人はいるんだと、ちょっと感動した。


 嬉しくてニコニコ顔でティエラがパンを頬張る横で、お弁当箱自体が小さかったオジェは一番最初に食べ終わった。

 この時、カタカタと弁当箱が独りでに小さく震えはじめた。


「え、なに?」


 オジェも知らなかったらしく、何事だと弁当箱を覗き込む。同じく、気になったティエラとソルも見てみると、お弁当箱の底にはピンク色のお花が一つ、ど真ん中に描かれていた。

 そして、お花がピカッと光った。


「わわっ!」

「お花が光った!」


 お弁当を綺麗に食べるとこんな粋な計らいが出てくるとは思っていなかったので、ティエラは大はしゃぎだ。ソルも目をキラキラさせている。

 オジェも少しびっくりしていたが、すぐに笑顔を浮かべていた。


「この弁当箱、アルケイア工房の新作だったのか。カスタム弁当箱シリーズって言ってさ、小さい子が残さずお弁当を食べてくるようにっていう、親の気持ちを想って作られたんだって」

「へええ! 確かにこれなら、頑張って食べたら光るお花が見れて楽しいね!」

「最近はオプションとして、自分の付けてほしいデザインを描いてもらうことも出来るようにしてるって聞いた」


 オプションの方もとても人気らしく、今では一か月以上予定が埋まっているとオジェから聞いたので、流石にオプションは諦めることにした。

 それはそれとして、このお弁当箱は欲しい。出来るなら、猫柄が描いてあるものが欲しい。


「こういう、商売への嗅覚は大事にしたいよね。俺も見習わないと」

「うん……うん?」


 ずっと弁当箱に感動していたティエラは、オジェが一貫して商売の視点に立って弁当箱を褒めていることに、ようやく気づいた。


 花が光ったことに喜んでいた自分を思い出し、先ほどまでの自分があまりにも子供っぽ過ぎて頬に熱がたまる。


「ティエラさんって、素直な人だよね」


 お弁当箱を片付けながら、オジェはどこか楽しそうに笑っていた。

 その横で、ソルもこくりと頷く。


「うん。ティエラはすごく真面目で正直。一緒にいて楽しい」

「そこでのらないでよっ!」


 ソルの追撃に、ティエラは撃沈した。

 しばらくの間、視線をあちこちに向けては突然笑ったりと挙動不審だった。

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