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日々の楽しみ。

改稿終了。盛り上がりはありませんでしたが、一旦の完結です。短編的に、続きを書くかもしれませんが、お読み頂き、ありがとうございます。


 労働や訓練をしていない時でも、ユウ=ナルミは忙しい。趣味の為である。元々日本でもしていた創作活動に加えて、術式を学ぶ事や、街を出歩く事が増えたのだから、当然だった。

 術式を学ぶのは実益を兼ねてであるものの、純粋な好奇心からでもある。だが、街での散策には、多少なりとも邪な思惑がない訳ではない。


「同志よ。ロリショタは良いねぇ。私達人類種の文化の極みだよ……」

「見てて飽きないよね。楽園は、ここにある」


 ユウは安息日の公園にて、ベンチへと座りながら日向ぼっこをしている。

 隣に腰掛けるのは若い女性。この公園で知り合った、同志であった。お互いに名乗りはせず、またその必要もない。人は通じあえるものなのだ。特に同好の士であれば。


「おっ。あの子、かなり動きが良いね。三人に囲まれても、ボールをキープしてるよ」


 ユウが口にすれば、隣の女性はボールキープをする少女へ向けて、頑張れーと、声援を送っている。

 二人が見ているのはユウの認識の中では、子供サッカーの試合であった。十歳程の年代の、男女混合でのものだ。

 ここビタロサではサッカーの事をカルチョと呼ぶらしい。人名や単語の響きから薄々感じていたのだが、とてもイタリアっぽかった。漢字っぽいものとか、平仮名や片仮名っぽいモノも平気である癖に。


「抜け出したーっ!」


 隣の女性も大興奮だ。少女がスルーパスを通したからである。このピッコラ・カルチョ。五対五で行われている。一人が三人で囲まれれば、フィールド上では数的優位が取れた。お互いにキーパーを置いているので、少女側には三つの選択肢がある。対して相手守備は一人だけ。三人はフィールドを広く上手に使っている。抜け出した一人の少女が、キーパーを務める少女と一対一となった。シュートコースを狭める為に、キーパーが飛び出す。


「「ごーーーるぅーーー!」」


 はしゃぐ成人女性二人であった。

 抜け出した少女のゴールではない。彼女は冷静に、手足を拡げ、防ごうとするキーパーを見て、ボールを横へとはたいた。走り込んで来た少年が、ガラ空きとなったゴールネットへ、ボールを突き刺している。

 ユウはサッカーにもカルチョにも、然程に造嗜が深い訳ではない。

 サッカールールなどの仕入元は、主に漫画やアニメであった。その手の作品は大体が魅力的な少年達が多数いて、腐った創作の元ネタに有用だったからである。今でもオフサイドとかは理解していない。それでも、この試合は見応えがあるものだった。

 カターニアの公園は大体がかなり広く、運動場やグラウンドなども置かれている。治安も良いので、秘されるべき、主と国家の間の愛し子と呼ばれる十二歳未満の子供達とて、昼日中では遊びに出ているものだった。見護る市井の大人達だけでなく、護衛団と呼ばれる警察官にも似た治安維持集団もあって、あまり子供達に表向きの危険はなかった。


「同志よ。見てください。あれは絶対に、百合ん百合んですよ」


 試合が終われば、決勝点を決めた少年に、アシストとスルーパスを通した少女達は祝福を送るもそこそこに、二人して抱き合いながら喜びあっている。同志はその姿に百合の花を見出した。


「そちらも尊いのですが、もう少し視野を広げてみましょう。あちらの悔しがる少年達の姿も、また乙なものですよ。咲き乱れる薔薇の花弁が幻視えませんか」


 三人で一人を囲んだ事により、数的不利を作り出してしまった事に悔しがる少年達へ、ユウは言葉通りのものを見出した。意地っ張り系生意気ショタ達が、涙目で仲良く喧嘩をしているのだ。シチュエーション的には大好物である。

 ロリ、ショタは、共有語であって、ユウのいた日本と同じ意味だった。

 ロリは、かつて放送された大人気アニメ番組である、『聖地へ舞い降りし麗しの戦乙女ヴァルキリー』の主人公にして、ヒロインでもある、ヴィーラ=ロリーヤ嬢の姓からのものだ。

 またショタは、そのある意味では後継番組でありながら、多くの女性を狂わしたとされるアニメ、『巨神兵ヴェントット』の主人公であるショタリオ=オーロの名からだった。

 ヴァルキリーでのヴィーラは、当て馬ヒーローである幼女へ愛を囁く王子様からロリーヤ嬢と呼ばれており、ヴェントットでのオーロ少年は多くの登場人物から、ショタリオと呼ばれていた為だと識者は分析している。


「大変、大変に素晴らしいです。共に高め合いましょう。同志よ。私も、冬の祭典には必ずや薔薇の花咲き乱れる新刊を……」

「私も、ヨ✖️サと陛下✖️サのみでなく、必ずやおねロリ物も仕上げるつもりです。同志よ。共に、辿り着きましょう。新たなる楽園は、すぐそこです」


 同志には素質があった。彼女は既に沼へと沈み始めている。同様に、ユウにもどうやら素質があったらしい。理解こそあったが、あまり深入りしなかった百合物にハマってしまい、今では百合とは尊いものだと気付いている。


「世界って、素晴らしいものですね……」

「ええ。とても美しく、面白いものです……」


 麗らかな午後の日差しを浴びて、少年少女達を腐った視線で眺めつつも恍惚として語り合う邪悪な二人であった。観察対象者達に警戒はない。時折こちらへも手などを振ってくれている。見守っていてくれて、ありがとうと。可愛いものである。二人して、声援と共に手を振り返す。

 同志は身形良く、とても可愛らしい、ほんわかとしたお嬢さんである。ユウとて身嗜みには気を遣っていた。それに二人共、歴戦の変質者である。不審を与える様な、ど素人ではないのだ。

 当たり前の話だが、人は通じ合ったり、すれ違ったりするものである。淑女達は通じ合い、少年少女達とはすれ違っている。それは偶然の、あるいは必然の幸運。そんな幸福が、二人の変態には福音だった。無垢な子供達が思うより、大人達とはとてもしょうもないものなのである。



「唯一神教会について、ですか?」


 ユウの今更ながらの質問に、そう問い返したのはクラウディアである。この日もユウ宅にて、カドオナとの三人で、いつものお泊まり会をしている。週に一度程度の割合で、二人は泊まりに来ていた。

 連絡は『網信』にて付けている。これは放送端末に備わったメール機能などと似たもので、個人宛に文書などを送れた。他にも掲示板などのSNS的な機能もあり、元日本人であるユウであっても不便を覚えなかった。残念ながら通話機能だけはない。この世界には遠隔会話の手段としての『交信』があって、知人同士であれば会話に不自由がないからだ。ユウはまだ、最も遠距離での連絡手段として有効な『交信』を、身に付け切れてはいなかった。


「ええ。教典などには一通り目を通しましたけど、実際の所は、どういった組織なのか。知りたいですけれのど、どうも畏れ多くて」

「良い所ですよ。皆様素敵な方達ですし、大変に慈悲深く、いたく寛大であらせられる主は、全てを受け入れますからね。気軽に見学してみられては?」


 悩ましげに言葉を探している様子のクラウディアと違い、カドオナは気軽に応える。そうですね。と同意はしておく。まぁ、確かに何名か出会った聖職者達は善良で親切な人達だった。最初から『交信』も通じたし、その気持ちも、お困り事があれば、力になりますよ。という、単純で純粋なものだった。

 だが、やはり無宗教とか多宗教とか言われた一般的な元日本人としては、受け入れるには中々の抵抗があった。


「カドオナちゃん。多分、ユウさんの聞きたい事はそういった一般的な事でなく。……うーん」


 困り顔のクラウディアには申し訳ない気持ちが湧いて、別の話題へ転換しようとした時だった。


「嗚呼。ユウさんは組織や権力の腐敗をご心配されているのですかね? 御使もおりますし、心配はありませんよ。不良聖職者くらいならまだしも、悪辣な者が権力を握れる程、教会も甘い組織ではありません」


 カドオナがそう笑う。かなり鋭い娘で、その指摘は正しいものだった。そういった事も、勿論心配している。だが、ユウの疑問はその先にもあった。そして、クラウディアがゆっくりと、確かめる様に口を開く。


「ユウさんは、調停者であり象徴でもある、強大な御使達による暴走や煽動、情報操作などを恐れておいでなのですね?」


 その通りであった。現実に存在し、実際の脅威ともなり得る上位者である『超越者』達。それらが野心を持ったり、はたまた暴走したりすれば、碌でもない事にしかならない。過去に親しんだ物語の中には、そういう作品もあったのだ。


「そういう事ですか。まぁ、なる様になるのでは? そういった大事で、私達になんとかなる様な問題なんて殆どありませんし。出たとこ勝負で良いでしょう」

「そうなんですよね。なので、私のこの、モヤモヤとした抵抗感を、なんとかしたくって」


 そんなに深刻な問題ではなかった。カドオナの言葉の通りであるからだ。みすみす犠牲になるつもりこそないが、精一杯に『生きて』やると決めたのだ。

 知識と見聞を深める中で、教会における秘蹟、『洗礼』というものを知った。生命さえ失われてないならば、どの様な状態からでも快癒するという、奇跡の御技だ。洗礼は生涯に一回しか授かれぬものだそうであるが、『生きる』には有益な術だった。


「遠慮など、なさらなくても良いですよ。間に合いさえするならば、彼等は全力を尽くします」


 結構、というか、かなり癖の強い聖職者達は善行に盲目で、助けとなれるならばと張り切る。救うだけの技術があり、気概もあった。謝礼なぞ求めぬし、恩を着せる事などもないのだろう。


「まぁ、こんな事言ったら贅沢ですけど、すぐに命がどうこうとはならないと思うんで、いずれは折り合いを付けるつもりですよ」


 無難に話題を打ち切る言葉を返した。

 異世界ぶりを散々に見せられて、数々のとんでもを目にしているユウであるが、宗教的なものへは疑いが残っている。

 洗礼には本人の同意さえ必要がなかった。

 無理矢理にでも、生命や肉体を、健康な状態へと回復させるものなのだ。それによる精神や思想への影響力は無視出来るものではないだろう。

 影響されて盲目的な信仰を捧げるかもしれず、その様な強大な術式であるからして、洗脳の恐れもあるなどとも考えてしまう。

 それが、ユウには宗教法人の起こしてきた様々な犯罪や醜聞からか、はたまた物語の影響からかも判らない。だが、御使や神々などという超越者達が、この世界には実際に存在している。そういった者達へ向き合うには、とても勇気や覚悟がいるものだった。


「これまで、まったく信じてもいなかった存在を受け入れるには、まだまだ何もかもが足りていません」

「本当に、ユウさんは真面目ですよねぇ。科学者みたいな事を言っちゃって」

「向こうじゃ、平凡な腐の者だったんですけどね。というよりも、此方の方々が、ちょっと欲求に忠実過ぎるというか、何というか……」


 唯一神教には、教えを広める為に請願を立てる修道士や、敬虔な信徒などがいる。教えに則り清く過ごすのだから、そう悪い性質は表れない。一見には教えを護り善行を好む、善人なのだろう。だが、彼等が人格的に聖人君子ばかりでないのは明らかであった。


「今日、偶々ですが、ガブちゃんの顕現の場に居合わせましてね……」

「ああ。公園の。帰り道は大変だったでしょう」


 ガブちゃんこと、救いのラッパを吹く幼女。受胎告知を齎す者。神意の啓示者ガブリエラとは、主の最も近きに侍る偉大なる御使の一人である。そして、世界の理を司りし五つの超越者である御使達こそが、唯一神教の調停者にして、象徴でもあった。


「真面目に信仰している人達よりも、アイドルの追っかけみたいな人の方が多い様な気がするんですよね」


 ガブリエラは可憐な幼女である。なおかつ心優しく愛情深く、一生懸命だ。純粋な永遠の偶像に、性癖を拗らせた者は数多い。少なくとも二千年を生きる合法ロリでもあった。特に、彼女の権能でも癒せぬ病、ロリコンを患う者達が篤く信仰している。抑圧された彼等にとって、触れ合いの許された幼女は格別だった。


「それは、当然ですよ。御使や神仏なんかの超越者は偶像【アイドル】ですからね。救世主の偉業で特に重要なのが、彼等と我等の心を繋いだ事ですし」


 その結果が推し活である。ユウとて言えた事ではないが、彼等は控えめに言っても変態紳士や変態淑女であった。当然、教えに帰依する敬虔な者もいるのだろうが、ちょっと一部の変態どもが悪目立ちし過ぎているので、唯一神教会への不信感が拭えないでいる。


「理屈の上では難しい事ではないのに、なんともかんともです」

「まぁ、ユウさんの居た世界では、宗教による争いが絶えなかったとの事ですし、仕方がありませんよ。思うが儘にゆっくりと、自分のお心に向き合ってくださいね」


 ユウはあの公園で、初めてガブリエラの顕現に立ち会った。

 同志の彼女は狂喜乱舞しており、偶々居合わせた人達も、大人も子供も大盛り上がりであった。のみならす、沢山の人達が顕現の場である公園に駆け付けて、大騒ぎとなっていた。ユウだって、初めて見た彼女に惹かれている。

 それは洗脳とも言える強烈な魅了であった。彼女はあまりにも美しく、可憐にして尊くて、思考をする余裕さえなかった。

 平静を取り戻したユウ本人は、厄介オタクとしての性質を如何なく発揮し、当時の自分の状態を、魅了や洗脳の術式からのものではないかと考察している。それが、先程の問い掛けの理由でもあった。

 だが、それは事実であっても、真実ではない。

 ガブリエラも周囲の者も、術式など使用はしていない。単に、ガブリエラがユウの性癖に突き刺さっただけである。組合で幼女に出会い芽生え、同志によって啓蒙されたロリ百合性癖のせいだった。ユウ=ナルミもまた、立派な変態淑女の一人である。

 

 若木の芽である冒険者、ユウ=ナルミは忙しい。やりたい事が山程あるからだ。

 生活水準は最低限のものだが、心を殺して仕事に打ち込む必要もなかった。仕事は望み、そして望まれたものである。人との関わりが苦痛でない。訓練や勉学も、好きだからやっている。単なる街歩きすらもが楽しかった。美味しいネタの宝庫であるし、顔見知りと挨拶を交わせば、それだけでも気分は良かった。

 だから彼女は、心の儘に、思うが儘に。異世界での日常を過ごしている。この世界の全てに良き日々を。そうあれかしと。


 ご拝読。ありがとうございました。

 お気付きの方もおられると思いますが、本作主人公の物語は、王道や正道ではありません。元々、別の物語を書いていて、補足説明とする為に書いた短編であります。その為、説明不足や物語への投入感を妨げる要素が多かったかと思います。

 それでも、僅かにでも楽しんでいただけたのなら。

 お時間を割いていただいた読者様方、発表の場を提供してくださる、運営様方へ感謝を。良い毎日を。そうありますように。


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