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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「サプライズ忍者理論」

作者: 結晶蜘蛛


 ハスケル=クルーガーは貧弱な少年である。

 平均より低い背丈、つかんでしまえば掌の中に包み込めてしまう前腕。

 丸っこい目の可愛らしい顔立ち、金色の髪に2本のぴょこんと伸びた髪が上方にのびて垂れている。

 見た目通り線が細く力が弱い。

 体育の授業でバスケットボールなどをしていると滅多にボールが回されず、ボールを取りに行こうとしても簡単に吹き飛ばされてしまう。

 ハスケルはそんな自分が悔しくて仕方がない。

 自分を見て「カマ野郎」だの「スカートはいてるほうが似合う」だの言われて心が傷つくよりも、言い返せない自分の情けなさこそが彼にとって許せないことだった。


「僕は強くなって見せる――!」


 だからこそ、彼は自分を鍛えるために武術の門をたたいた。



 ハルケルは逃げていた。

 なりふり構わず、荷物も置いたまま、モーテルの廊下を走っていく。

 いつの間にかモーテルの窓や扉には鉄格子がおりて、「welcome」と刻印されたフルフェイスのマスクをつけた怪人に追いかけられているからだ。

 怪人は鍵を束ねるような輪がついたスレッジハンマーを持っており、それを肩に構えながら追いかけてくる。

 

「なんで、どうして、どういうことなの、あいつなに!?」


 成長したハルケルはフォード・マスタング車に乗り遠出していたのだが、帰りに唐突にパンクし、仕方なく近くにあったモーテルに泊まることにした。

 周辺にあったモーテルは看板に「マーロン」と書かれたモーテルしかなかった。

 すでに陽が沈みかけており、レッカーサービスなどを呼ぶとしても明日でないと話にならない。

 なので、不愛想な従業員から鍵をもらいモーテルの部屋を取り、休んでいた。

 日が完全に沈み込んだところでいきなり、扉が開けられ、先ほどの怪人が現れた、のであった。

 

「やばいやばいやばい……どうしよう!」


 廊下の端に追い詰められたところで、ゆらりと怪人が近づいてくる。

 ハンマーを振り上げ、ハルケルへと振り下ろそうとしてくる。

 ハルケルはとっさに持っていた、鍵を投げつける。

 怪人の顔にたまたま鍵が当たり、ひるんだところを脇をすり抜けて逃げる。

 小柄な体格であることが功を奏した。


「しまった……!」


 ハルケルがさっき投げたのは車の鍵だった。

 もっていれば脱出したあとに無理にでも車を走らせて逃げれたかもしれない。

 それに気づいたがすでに後の祭りだ。

 

「どうにかしないと、僕はまだ弱いままだ……でも、やっぱり怖い」


 なんとか部屋にまで戻るハルケル。

 脱出できないところはないか窓をあげようとしたり、扉を激しく揺らすがびくともしない。

 怪人の足音が聞こえてくる。

 なら、荷物に手を伸ばす。


「あれだ、あれさえあれば――あれあれあれあれ……!」


 そうして、ハスケルはまとめていた荷物をひっくり返した。

 本、ノート、カメラ、下着が部屋の中を散乱していく……。



 ――ヴィンセント・クロウは子のモーテルの唯一の従業員である。

 そして、今は「welcome」とついたマスクをかぶり新たな獲物を追っていた。

 ヴィンセントは子供のころ家族がモーテルを経営していた。

 あの頃は良かった。

 好景気だったためだろうか、ひっきりなしに客が入り、家族も和気あいあいとしていた。

 しかし、ハイウェイのルート変更が起きモーテルがあった道の需要が激減してからは客が来なくなり、借金がかさんだ末に父親は首を吊り、母親もどこかへと去っていった。

 なぜ、オレの家族がひどい目にあったのか、それは客が来なくなったからだ。

 だから、成長したヴィンセントは客に復讐するために子のモーテルを作ったのであった。


「うぇひひひひ……オレのサービスを受けてみろ」


 初めは怒りをぶつけるために客を撲殺していたヴィンセントだが、いまでは殺しを楽しんでいた。

 一方的に命を握れる優越感、命乞いをさせたうえで、手足をスレッジハンマーでつぶしていき、どうにもならないと絶望に表情が消えていく様を見るのがの楽しみになっていた。


「お嬢ちゃーん、どこにいるのかな?」


 今回の客は特にむかつく相手であった。

 小柄で可愛らしい顔の男、きっと周囲からさぞ愛されていたの違いない。 

 自分はよくなぐられたりしてたというのに不公平だ。

 だから、あの顔をハンマーでたたきつぶすのは爽快だろう、とヴィンセントは思った。

  

「お?」


 そして、自分の客室にいるハルケルを見つけた。

 ハルケルはシャワールームのカーテンの背後にいる。

 隠れたつもりだろうか? シルエットがくっきりと見えた。

 このままスレッジハンマーで叩き潰してもいいが、しかし、おびえた顔が見れないのはつまらない。


「それがお前の選択かー?」


 ヴィンセントがシャワーカーテンへと近づきを、一気にカーテンをまくり上げた。

 忍者がいた。


「は?」

「どーも、ウェルカムさん。ハルケルです。お主を殺します」


 茶色の忍び頭巾を着用し、忍び衣装に着替えたハルケルがいた。

 彼は両手を合わせ、お辞儀する。

 あまりに場違いぶりに殺人鬼ですらも思考が止まってしまう。


「いやーっ!」


 その瞬間、ハルケルの拳がヴィンセントの顔面へとめり込んだ。



 ――ハルケルは弱い自分を恥じ、強くなろうと考えた。

 そして、それと同時期に見たのが「影の執行者」という日本の映画であった。

 大都市東京を牛耳る巨大企業や犯罪組織を相手に戦っていく忍者カイトの活躍を見てドはまりし、忍術の門をたたいたのだった。

 その当時、ハルケルを初め「影の執行者」の影響を受けて多数の入門者がいた忍術の修行であるが、映画の中の派手な活躍とは別の地味で単調な鍛錬に一人、また一人と道場生はやめていっていた。

 しかし、ハルケルは人一倍、道場に通いつめ、地味な反復練習をこなし、体を鍛え上げ続けた。

 それを見た道場主やほかの道場生からも一目置かれるのだが、しかし、組み手をすると将来の気の弱さがでてしまい、負け続けてしまう。


「いやー!」

「ぐへ!」

「いやー!」

「げぶっ!」

「いやー!」

「ひ、ひぃ……! もうやめっ!」


 だが、しかし、忍び頭巾を着用してみるとハルケルの動きは大きく変わった。

 忍び頭巾を着用したハルケルは自分をあこがれたカイトだと思い込んでいる。

 そう、自分は「影の執行者」のカイトだ。

 カイトがひるむわけにはいかない、カイトのごとく目の前の悪を打たねばならない。

 その一心が淀みなく拳を繰り出させ、振り下ろさせたハンマーの横をくぐると、腕をからませ、見事な投げを成功させる。


「やめてください! じ、自首しますから……!」

「お主は何度、似たような言葉を聞いた? そして、それをいままで聞き入れたことはあったか?」


 ハルケルにさんざん殴られ、ヴィンセントの顔はどこもかしこも赤く腫れあがっていた。

 すでに立ち上がることすらできないようで、へたりこんだまま後ずさりしていく。

 ハルケルが、落ちたスレッジハンマー


「成敗!」

「ひぃぃぃぃっ!」


 スレッジハンマーが振り下ろされ、鈍い轟音が響いた。

 ヴィンセントの顔の横にハンマーが振り下ろされ、床に深いへこみを作っている。

 ヴィンセントは白目をむき、泡を吹いて気を失っていた。


「……命を取りはせん、警察で罪を償うがいい」


 カイトならきっとそうする。

 そう確信するハルケルはヴィンセントにとどめを刺すことはしなかった。

 そして、ハルケルはヴィンセントを縛り上げると、フロントへ行き、警察へと電話をかけるのだった。

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