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幸せで満たされて。

作者: 雨水 音

皆様どうも。雨水音です。本当はもっと投稿頻度をあげたいです。ほんとマジでごめんなさい。忙しいし体調崩して散々だったんです。お許しを。さておき、何もない休日が久しぶりだったので、書いてみました。いつもの二人の、ある暑い日の日常。作者がアフォガートを食べたかったが為に書かれた小説です。深夜にこれを読んでる人ごめんなさい。それでは本編どうぞ。

 登場人物


夏目(なつめ) (すず)

本好き根暗ド陰キャ。引っ込み思案で気が弱く、人と深くかかわることを恐れている。


冬崎(ふゆざき) (そう)

物静かな読書少年。クラスでは目立つタイプではなく、ひっそりと生きている。

……暑い。ただただ暑い。まだ七月にも入っていないというのに、もう気温は三十度を超えてしまっている。こんな中出歩くのは、本当に失敗だった。

涼は大好きな作家の新刊を手に入れるため、自宅から少し離れたところにある大きな書店に向かい、なんとか売り切れ寸前の新刊を購入。……したはいいのだが。あまりの暑さで書店から出られなくなってしまった。時刻はまだ昼下がり。涼しくなるのと陽が沈むのは、どっちが先だろうか。涼は途方に暮れ、ため息をついた。

このままぼんやりと数時間立ち続けるのはさすがにつらい。お財布の中身を犠牲にし、涼は近くのカフェに入店した。

ややレトロでお洒落な雰囲気のそのカフェは、涼のお気に入りの場所である。例えば、今日みたいに新刊を買って尚且つお金に余裕がある日とか、テストが終わって自分にご褒美をあげたい日だとか、そういう日に涼はこの店に立ち寄るのだ。入り口付近でかつ窓際のお気に入りの席が空いている。今日はなんだか、ラッキーな日かもしれない。

さて、今日は何を頼もうか。普段のお決まりのセットなら、カフェオレとガトーショコラ。でも、こんな暑い日にはすっきりしたものを食べたい気もする。そんな涼の瞳に映ったのは、アフォガートだった。バニラアイスにコーヒーシロップをかけたそれは、とても魅力的で。

「あ、あの!アイスティーとアフォガートお願いします!」

気付けば、いつもの店員さんにアフォガートを注文していた。

ほどなくして運ばれてきたアフォガートにはわずかに金箔が振りかけられていて、きらきらと輝いて見える。思わずスマホを取り出し、写真に収めてしまった。コーヒーとバニラビーンズの香りが涼の鼻腔を擽り、自然と頬が緩む。いただきます、と呟いて薔薇の花が彫られたスプーンでバニラアイスを掬えば、とろりと垂れるシロップが艶めいていた。スプーンを口に運ぶと、得も言われぬ満足感と幸福感が涼を満たす。バニラアイスのほんのりとした甘さとコーヒーシロップの苦みが絶妙である。  

こんなに美味しいものを独り占めできるなんて。と、涼は自身の口角が上がるのも厭わずに極上の甘味を味わった。

幸せな時間は終わりをつげ、涼はごちそうさまでした、と呟く。何となしにスマホを開くと、ほとんど稼働させていないSNSのアイコンが涼の視界をかすめた。

……たまには、ストーリーとか、あげてみようかな。

新刊も買えて、美味しいアフォガートも食べられて。いつもの何倍も幸せな気分に駆られて、ついストーリーをあげてしまった。

【いつものカフェで見つけたアフォガート。美味しかったです。】

すると、即座にぽん、と閲覧表示が付いた。涼が閲覧許可しているのはクラスメイトのうち二人と、兄と従弟と、そして奏だけ。その閲覧者は。

「……奏くん……!」

奏だった。普段あまりスマホを見ずに、本を読んだり課題をして過ごしている奏だから、こんなふうにすぐ閲覧表示がでるのは珍しい。というか、若干の違和感を覚える。

……もしかして、私のストーリー、通知されるようにしてくれてる……?奏くんに、興味を持ってもらえてる。気にしてもらえてる。私のこと、知りたいって思ってもらえてる。 

そんなことを考えると、なんだか嬉しいような、くすぐったいような気がした。涼はスマホを両手で持ったまま、笑みを漏らす。

しばらくして、カフェの入り口の扉が開き、入店を知らせるベルがからん、と鳴った。無意識にそちらに目をやると、見慣れた黒髪が見えた。

「え。……えっ⁉そ、奏くん⁉」

「あ、涼。ストーリー見て、ここかなって思ってきてみたんだ」

ふわり、と微笑んだ奏は涼の席の向かいに座り、店員にアイスコーヒー一つ、と注文をした。ほどなくして運ばれてきたアイスコーヒー。浮かんだ氷が音をたてる。奏の涼し気な雰囲気も相まって、なんだか物語の一節みたいだ。

「涼、もしかしてさっき新刊買った?」

唐突な奏の問いかけに、涼は驚く。

「え、う、うん!……あ、そっか。奏くんもあの小説、読んでたよね!」

「うん。家の近くにも本屋はあったけど、そこはまだ入荷されてなかったからこっちまで来てみたんだ。それに……涼に会えるかと、思って」

少し顔を赤らめて言う奏。自らの顔が爆発したような気すらした涼は、アイスティーを飲んで火照りをごまかした。

「……ふふ」

「……?どうしたの、涼」

「なんでもないよ。ただ、幸せだなって、思っただけ」

初夏、昼下がり。ジャズミュージック。大切な人と過ごす、緩やかな時間。

これを幸せと呼ばずして、なんと呼ぶのだろうか。





雨水音のちょこっと小話

実は奏くん、涼ちゃんのSNSは全て通知オンにしています。本人はまだそんな感情があることに気付いていませんが、独占欲と支配欲の卵ですね。涼ちゃんが何をしているのか、どこにいるのか、誰といるのか。誰よりも早く把握したい。そんな感情です、きっと。将来盗聴器とか小型カメラを使い始めそう。誰か止めてあげて。

ちなみに、本人も気づいてはいませんが、涼ちゃんは被支配欲があるみたいです。奏くんからすぐに閲覧の表示がついたとき、とても心が満たされています。ああ、自分はこの人のものなんだ。って思えるのが幸せみたいです。共依存。あれ?最初はピュアピュアホワイトカップルを書いてたはずだったんだけどなあ……。まあいっか。

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