こうして僕は学校をやめて引きこもりになった
今回ヒロイン出ません
「本当に大丈夫?」
「無理はするなよ」
「大丈夫だって」
母さんとお父さんの心配の言葉を僕は笑って流す。今日から三週間ぶりの学校だ。今からでも真面目に登校してやっていればある程度の学力は周りに追いつける筈だ。
因みに学校には親が理由をきちんと説明したらしい。だから周りから変な目で見られることはない。まあそもそも僕は学校で目立つタイプでもないからそこまで変に浮いたりすることは無いだろう。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「気を付けてな」
二人の送り出しの言葉を受けて僕は学校へと向かった。
おかしい。僕は学校に向かうためにバスを乗って今の停留所から五つ渡った先が学校付近の場所に出る。したがって今僕はバスの中にいるんだけど、僕と同じ高校の指定の服を着てる生徒何人かがチラチラと僕を見てくる。その顔には怖いものを見るかのような感覚を覚えた。
なんでそんな顔をして僕を見るんだ? 僕は疑問に思いながら目的の停留所で降りた。降りてもなお周りから刺すような視線が向けられる。僕はそれを我慢して学校に向かって歩いた。すると
「お、裕司〜」
「もっちゃん、久しぶり」
「つっても三週間ぶりだけどな。身体は大丈夫か?」
目の前に見覚えのある人間が寄ってきた。小学校からずっと一緒だった松本和樹。僕は昔からもっちゃんと呼んでいる。
「なら良かった。お前がいないと学校も退屈ばかりで辛かったぜ」
もっちゃんは自身の腹回りについた脂肪を揉みながらそんな事をいう。因みにもっちゃんは僕より少し背が高くぽっちゃりとした体型をしている。
「大丈夫だよ。ところでさ」
僕は周りを見回す。
「なんかさっきからチラチラ周りから見られてるんだけど」
と言ってもっちゃんの顔を見ると気まずそうにもっちゃんは僕から目をそらす。
「あー実はさ」
僕はもっちゃんから話を聞いた。実は警察沙汰になったあの現場に僕の通ってる高校の生徒が何人かいたらしい。しかも喧嘩をしてるところを撮影されていたとのこと。そしてそれは翌日その動画は校内でばらまかれた。その結果すぐに広まって僕、高橋裕司は危険人物という認識になったのだと言う。
「でも全部撮られてたんなら、事情を理解してくれるんじゃ」
「俺もその動画見たけどお前が男の顔目掛けて頭突きして殴ってるシーンだけ流れてた」
なんだよそれ。めちゃくちゃ最初の部分じゃないか。その後僕が一方的に殴られてたってのに。
「学校は……そんなのが校内に出回れば教師が注意とかするんじゃないの?」
「それがさなんにもしないんだよね」
なんもしないってそんな事あるのか? いや今はそれよりも
「もっちゃん、その動画はたしかに事実だけど」
「みなまで言うな。お前がなんの理由もなくあんな事するわけないってことは分かってんよ。何年の付き合いだと思ってんだよ」
笑って答える親友の顔を見て僕は安堵する。本心から言ってるって長年の付き合いから良くわかる。そういえばいつも特段目立ちもしない僕のことを信頼してくれていたっけ。
「ありがとう」
「今更水臭いこと言うなっての、ほら行くぞ」
こうして僕はもっちゃんと一緒に高校へと向かう。三週間ぶりの高校に。
久しぶりに入った高校。校門を潜った瞬間、周囲の目が好奇の目蔑む畏怖の目と多種多様に向けられてくる。
「人気者だな裕司」
「こんな人気、誰も求めてないよ」
静かに目立つことなく安全な生活を送りたかった。僕は内心そう思った。もっちゃんとは同じクラスで二人して同じ教室へと入った瞬間中で騒がしかった生徒が一瞬で静まり返って一斉に僕へと視線が向けられた。そして皆が固まった。
「ほら裕司席に着くぞ」
「う、うん」
その場に立ち止まって動けない僕にもっちゃんは僕の肩を叩くと後ろからグイグイと前へ押し出し僕を教室の中へと強引に入らせた。そして適当に空いている席に二人腰掛け雑談をする。この高校では自分の座席というものが決まっておらず自由席だ。
僕ともっちゃんは席についてそれぞれの科目がどこまで進んだのか範囲をもっちゃんに教えてもらった。周りの連中はその光景を暫くじっと見てたかと思うとすぐに興味を無くしそれぞれ雑談に入る。この調子ならすぐにでも僕の悪印象は風化してくれるだろう。そう思っていた。
「なぁもっちゃん」
「どうした?」
「もうあれから一ヶ月経ったじゃん」
「そうだな」
そう。僕が再び学校に通うようになって一ヶ月が経った。周りの僕に向ける目が少しでも緩和されるかと思って我慢して耐えてきたけどどうやらそれは無駄だったみたいだ。
来る日も来る日も周囲が僕に向ける目は依然としてむしろ逆に強くなっていった。それに加えて
「見てよ」
「あいつまた来たのかよ」
「ヤダ怖い」
「いつまでこの学校にいる気?」
僕を見かける度に陰口や悪口が増えていった。最初のうちは気にしないように流していた。だけどそれがだんだんエスカレートして
「あいつ居なくなっちまえばいいのに」
「一緒にいるあいつも気持ち悪いよね」
「あぁやっぱ町中で喧嘩をするような奴にはろくでもないのしか寄り付かないんだな」
最近では俺だけじゃなく唯一の親友であるもっちゃんまで悪く言われるようになっていた。
「もっちゃん、ごめんな」
「突然どうしたんだよ?」
「僕のせいで」
「やめろ。お前のせいなんかじゃねえよ」
もっちゃんは周りの心ないの言葉を気にせずなお笑っている。もっちゃん自身も悪く言われるにも関わらず。
「ごめん」
それがシンプルに辛かった。もっちゃんの優しさが。この現状を変えられないことが。一番辛いのは親友が悪く言われているのにそれすら今の僕にそれを止めることも出来ないことだ。
これまで僕は担任に僕が知った事をそのまま伝えて今の現状の改善を求めた。でも担任は僕の言葉に一切取り合わずあろうことか、気にし過ぎだそんなことよりも勉学の遅れを取り戻すよう努力しろと言われた。
なんでだ。なんでこんなに今困っているのに。助けを求めているのに。なんで助けてくれるどころか。話も聞いてくれないんだ。僕は絶望した。頼みの綱である担任があてにならないから。
「ねえ裕司大丈夫?」
「顔色が悪いな体調でも悪いのか?」
ある時父さんと母さんに僕の様子がおかしい事を指摘された。どうやら顔に出ていたらしい。でも僕は無理に笑って大丈夫だよと答えた。その時は自分ひとりでなんとか出来ると思っていたし、こんなことで親に迷惑を掛けたくなかったから。今となっては頼るべきだったと思う。本当今更だけど。
「そういえばさ高橋って小学生から悪さばかりしていたって」
「うそ、あぁでも私も聞いたことある万引きとか当たり前の感覚で」
「本当なんでそんな奴が学校通ってるんだろうな」
「一緒につるんでる松本もどうせロクでもねえんだろうな」
「本当あいつ等」
――いなくなればいいのに。
日に日にエスカレートしていく暴言の数々に僕の心の中の何かがプツンと音を立てて切れた。
「うるせぇよっ!!」
気付けば僕は教室で机を思い切り蹴飛ばして吠えていた。蹴飛ばした机は前にいた生徒に勢いよくぶつかり、近くにいた生徒が驚いた表情を浮かべる。誰もこの展開は予想していなかったみたいだ。
「あることないこと言いやがってっ。百歩譲って僕はまだいい。もっちゃんへの誹謗中傷はやめろよっ!!」
それまで溜まっていた鬱憤もあって僕は自分の意志で叫びを止めることが出来なかった。周囲に心が求めるまま喚き散らす。
そして自分の近くにあった椅子を持ち上げる。その光景を見てクラスメイト達から悲鳴が上がる。
「裕司やめろっ!!」
もっちゃんが僕が振り下ろそうとする椅子を必死に止める。なんでだよ。なんで止めようとするんだよ。僕はもっちゃんの顔を睨みつけるように見た。その顔は今にも泣き出しそうな顔をしていた。僕にそんな事をしてほしくないと言っているようだ。
「くそっ」
僕はその椅子を前ではなく後ろに思いっきりぶん投げた。椅子はすぐ近くにある壁にぶつかりカタンカタンと何度か地面にバウンドして止まった。
「先生こっちですっ」
「お前何やってるんだっ」
騒ぎを聞きつけた教師が僕に詰め寄ってくる。その表情は怒りに満ちて自分はこれから正義の行動をするんだぞと周りに見せつけているかのようだ。熱血教師かよ。ならなんで。なんで。それを僕やもっちゃんのためにしなかったんだよっ!!
「僕は……僕は間違ってない」
「何を言ってるんだお前は」
もう誰も信用できない。大人も、僕と同じ未成年も誰も、誰も信用なんかできない。僕は右手を強く握りしめる。
教師が僕の肩に手をかける。僕はその肩を左手で払い除けると勢いよく握りしめた拳を教師の顔面に叩き込んだ。
「ぐあっ」
殴られた教師は殴られた勢いそのままに後方へと倒れた。そして僕はその教師を蔑むように見たあと、周りに目を向ける。そこには泣きじゃくっていたもっちゃん。そして恐怖に染まった顔をしたクラスメイト達がいた。
「こんな学校、やめてやるよ」
僕はそう言って教室を静かな足取りで去り学校を出ていく。こうして僕は学校やめて引きこもりになった。