第74話 勝利?敗北?
———暁視点———
「何で暁がここに居るの?西側の状況は?皆は大丈夫?」
雪は先の戦闘で死を実感し、混乱しているようだ。
平静を装っているが、手足は微かに震え、心拍数が早い。
「とりあえず落ち着け。こういう時は深呼吸するのが効果的だ。俺に合わせて「ヒッ、ヒッ、フー……ヒッ、ヒッ、フー……」」
「「ヒッ、ヒッ」ってこれ出産するときのラマーズ呼吸法じゃない!」
俺のボケに的確にツッコめるほどには落ち着いたようだ。
「落ち着いたな。」
「ええ、おかげさまで。それで、どうして暁がここに居るの?」
雪の問いに俺は自身の端末を見せながら答えた。
「それは、こいつが教えてくれたからだ。」
「そうだよ。私が暁に報告した。」
端末の画面に映っているのは冬川の思考をトレースしたAI(夢羽ちゃん2号)だ。
「なるほど。この周辺にある監視カメラで私のピンチを察知して暁に連絡したということね。」
「その通り。」
「で、西側は大丈夫なの?」
「ああ、予想よりも晴翔と笠原の相性が良かった。歩、白石、勇人も自分の役割を遂行できていたし、俺が居なくとも十分だと判断した。今頃、勝負はついてるだろう。」
「監視カメラの映像を確認したけど無事に勝利したみたい。」
「烏さんたちは?」
「あっちも少数の怪我人が出てるけど数で圧倒してるね。」
今回の襲撃は俺たちの勝利だが、戦いの情報は「犠牲の誓い」の人間に知れ渡っているはず。
次は相手も対策を打つはずだ。
「とりあえず皆と合流するか」
「そうね」
襲撃に勝利しヘルヘイムの人間は初めて会ったときよりも活気づいている。
勝利という経験は自信につながりそれが強さにもつながる。良い傾向だ。
「お前ら本当に強かったんだな。烏さんが推薦したのも納得だ。」
一人の男が俺へ近づきそんなことを言って来た。
「一番の功労者は彼女です。お礼なら彼女に」
俺は隣に居る雪に男の対処を任せすぐにモニタールームに居るであろう冬川と合流する。
「お疲れー」
冬川は、一仕事終えたおじさんのように椅子に深くもたれ、オレンジジュースを飲んでいる。
「被害の具体的な状況は?」
「雪ちゃんがかすり傷程度で、ヘルヘイムの人数人が重傷を負ってるけど愛奈ちゃんの能力と数人回復系の能力者が居るから実質被害ゼロだね。」
「完全勝利だな。」
「捨て駒相手に勝利してもね。」
やはり冬川も気づいていたようだ。
今回襲撃してきた殺し屋はおそらく捨て駒。
雪の元へ行く前に一人倒した殺し屋を拷問したが何も情報を吐かなかった。
いや、吐かなかったというよりは情報を持っていないような感じがする。
「私たちの能力はバレたから実質敗北じゃない?」
「確かにな。」
不謹慎だが実力がある俺達からすれば何の問題もないため2人で笑った。
数分雑談していると突然モニタールームの鍵が開いた。
「お疲れ様です。今回はありがとうございました。おかげで過去一被害を出さずに襲撃を凌ぐことが出来ました。」
やってきたのは烏孝雄だった。
その後ろには雪もいる。
「暁、私に面倒ごとを押し付けるのやめてくれるかしら。」
監視カメラを見ていたが俺が男の対処を雪に押し付けて去ったあと雪は他のメンバーにも質問攻めされていた。
「用事があったからな。」
「用事って夢羽とオレンジジュースを飲みながら雑談する事?」
雪は俺を睨みつけ、その視線には怒りが滲んでいた。しかし、俺は冷静にそれを受け流し、さっと視線を外した。
傍から見れば母親が子供を叱り、子供が不貞腐れている光景に見えるかもしれない。
そんな様子を烏孝雄は微笑ましく見守る。
「本当に仲がよろしいのですね。うらやましい。」
烏孝雄は何処か懐かしむような雰囲気を醸し出しながら言った。
「烏さんも幹部2人と実の親子の様に仲睦まじいと思いますけど。」
「ありがとうございます。あの2人の事は暁さんの言う様に自分の子の様に思ってます。まあ、我が子はもう死にましたけど。」
地雷を踏んでしまったかもしれない。
雰囲気は最悪だ。
「どうして死んだの?」
冬川はこの地獄のような雰囲気で地獄のような質問を烏孝雄に投げかけた。
烏孝雄は渋ることなく語り始める。
「私には妻と娘、息子が居ました。娘と息子はあなた達と同じくらいの年齢で現在高校2年生です。神殺人殺が始まるまでは喧嘩もありましたが他の家庭と比べても家族円満だったと思います。しかし、神殺人殺が始まり、私と家族が合流する前に息子は他の能力者同士の喧嘩に巻き込まれ死にました。運よく娘と妻とは合流出来ましたが、息子の死を受けて妻は鬱状態。娘も初めは落ち込んでいましたが少しづつ前向きになり鬱の妻を連れてLv1のゲームに挑戦しました。そのゲームでは難なく勝利し、少し調子に乗った私たちはLv4のゲームに挑戦しました。その判断が誤りだった。Lv4のゲームで妻が命を落とし娘も私をかばって死にました。」
壮絶な過去を話す烏孝雄に雪は言葉を発さない。
俺と冬川は烏孝雄よりも壮絶な過去を送ってきているため正直何も感じないが、俺はあえて沈黙を貫く。
空気を読むというのは短いながら一般人生活で培ってきた技術の一つだ。
「まあ、ドンマイ。」
冬川は空気を読むのが苦手なのかこの壮絶な話を「ドンマイ」という言葉で締めくくった。
その空気の読めなさに雪は呆れ、烏孝雄は笑っている。
「烏さん、ごめんなさい。この子、本当に空気を読むことが出来ないんです。」
冬川の代わりに雪が頭を下げる。
「気にしないでください。冬川さんのような人が居るから組織は成り立つというものです。」
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