第71話 夢羽ちゃん2号
「なるほど、それで次の襲撃のタイミングを把握出来たわけですか。」
「そうです。恥ずかしながら我々がまだ生きているのは殆どスパイとして侵入してる彼のおかげです。」
裏世界の人間で構成された「犠牲の誓い」にスパイとして侵入して未だにバレていないという事はその人物も裏世界の人間の可能性が高いな。
「じゃあ、5日後に向けて作戦を立てます。とりあえずヘルヘイムのメンバー全員の能力と烏さんから見た各個人の戦闘能力をまとめて持ってきてください。出来るだけ早めに。」
「分かりました。今すぐにとりかかります。それとこれがこの部屋の鍵です。くれぐれも無くさないように」
そう言って烏孝雄はPCルームを後にした。
「5日後の防衛は暁一人で何とかなるんじゃないの?」
雪の言う様に正直俺と冬川そして雪の力だけで対処した方が楽に防衛できる。
しかし、俺の実力を知られるわけにはいかない。
雪もかなり実力を付けてきたが、一人で対処できるかと言われれば、まだ難しい。
つまり、ヘルヘイムにいる人間を上手く利用し、とりあえずは5日後の襲撃を対処する。
「冬川、一応確認なんだが犠牲の誓いには名のある殺し屋は居ないんだよな?」
「そうだね。無名の殺し屋やハッカーが束になってるだけ。そもそも、実力のある殺し屋は連合なんて組まない方が自分のためでしょ。」
「てか、夢羽は何をやってるの?」
雪の問いかけに冬川はニヤリとセルフ効果音を付け、PCのエンターキーを強く叩いた。
モニターの全画面がよく分からないプログラミングで埋め尽くされる。
「何だこれ?」
「これはね、私の技術を持った無限に進化する自己完了型AI。名付けて夢羽ちゃん2号」
「ネーミングセンスは無視するとして冬川が一人増えたと思っていいのか?」
「まあ、今の段階ではさすがに私に劣るけど、その辺のハッカーに比べたら優秀だよ」
「まさか夢羽、今の数分でこれを作ったわけ。」
「Yes。少し前から作ろうと思ってたんだけど、私のノートPCじゃスペック不足で落ちるんだよね。だけど、ここのPCのスペックならまだ余裕がある。何なら雪ちゃんのAIも作ろうか?」
「それは面白そうだな」
「やめなさい」
俺たちの悪乗りが気に入らなかったのか雪に後頭部を殴られた。
「とりあえず、2人の端末にこのAI入れとくから私が居ないときは頼ってね。」
冬川のプログラミングも一段落したところで作戦会議を始める。
「5日後の襲撃は主に雪を主力として対処する。それでいいか?」
「私は良いけど、あなた達みたいな殺し屋相手に勝てる?」
雪がこれまで見てきた殺し屋は俺と冬川という殺し屋の中でも異端の存在であるため指標がおかしい。
殺し屋に対する認識を正さなければならないな。
「正直、名のある殺し屋以外はそんなに強くない。今回の敵である犠牲の誓いの殺し屋は殆ど雪より弱いから大丈夫だ。それに、俺と冬川がサポートするから万が一にも負けることは無い。」
「そうそう、あんまり気負い過ぎず頑張ろう!」
俺たちの言葉で少し雪の不安が溶けた気がした。
数時間後、烏孝雄がメンバー全ての能力と強さの指標をまとめたレポートを届けてくれたのでそれを参考にさらに具体的な作戦を立てる。
5日後 時刻23時40分
犠牲の誓いにスパイがいることがバレないようにあえて防御陣形を取ることはしなった。
その代わり見張りと言う体で雪を襲撃予定の方角に配置している。
この5日間でホテル外にも監視カメラを設置したことにより事前に敵の人数や配置を知ることが出来る。
監視カメラは冬川が設置したため恐らくバレることは無い。
「来た]
イヤホンから聞こえる冬川の報告で俺たちは作戦通り動き出す。
「烏さん、来ました。戦闘員に知らせてください」
ちなみにこのイヤホンは俺と雪しか装着していない。
烏孝雄にも渡そうと思ったが、内密な話をしやすいようにあえて渡さない選択をした。
「敵は16人、東西南北に4人ずつ分かれた。多分囲んで攻撃するつもり。」
俺も寝ている歩、勇人、晴翔、白石、笠原を起こして雪のいる方へ向かう。
今後、雪の負担が減るようにこいつらにも戦闘経験を積ませておきたい。
5人で雪のいる場所へ向かいながら端末を用いて烏孝雄に連絡を入れる。
「烏さん、俺たちが北と西を担当するのであなた達は戦闘員全員で南と東を担当してください。敵は8人です。数で押せば勝てます。」
「分かりました。如月さんたちも気を付けて。」
烏孝雄へ指示を出し、丁度雪の元へ到着した。
「冬川、こっちは俺が見るからお前は周辺の警戒と烏さんたちの状況を確認してくれ。」
「了解」
俺の役目はこれで終わりだ。
後は雪に全て任せる。
——————雪視点——————
相手は暁や夢羽と同じ殺し屋。
2人は自分たちと比べるなと言っていたが殺し屋という存在は普段関わることが無い。
強さの指標があの2人しかない分どうしても警戒してしまう。
暁に鍛えてもらったけど彼みたいに人間離れした身体能力を手にしたわけではない。
考えれば考えるほど自信が無くなっていく。
気が付くと足が震えていた。
もうすぐ相手の殺し屋が到着するだろう。
時間が無い、早くこの震えを止めないと。
けど、意識すればするほど震えは増していく。
呼吸も荒くなり、脳への酸素供給が足りていないのが実感できる。
そんな時、私の首元に強い刺激が走った。
実際には指先で軽く触れられた程度だが、緊張状態の私にとっては大きな刺激。
その刺激を与えたのは他でもない暁だ。
「大丈夫だ、俺がついてる。それに、雪は強い」
たったそれだけの言葉なのに私の不安は消しとんだ。
それだけ私は暁を信用していたのだろう。
もう震えは収まった。
私がこの襲撃を食い止める。
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