第61話 隠し要素11
俺の質問の答えを教えるべく冬川は自分の端末を俺に差し出した。
「これは・・・」
冬川の端末に表示されているのはこのビルの全体像が分かる、数にして300以上の監視カメラの映像だった。
ただ、この神殺人殺が始まってこの世界では電気やその他のエネルギーを制御する人間が仕事が出来る状況ではなくなったためほとんどの建物には電気が通ってない。
つまり、この監視カメラは電気を使っていないという事になる。
「これらの監視カメラは暁が寝ている間にptで購入したんだけど、電気が無くても使えるんだよね。」
俺の疑問を察したのか冬川はその答えを教えてくれた。
電気が無くても使えるという事だが、その補填分のエネルギーはあるはずだ。
ただ、神殺人殺がそもそも現代の科学を逸脱したゲームであるため、俺たちが持っている常識で考えるのは早計なのかもしれない。
「一人で全部設置したのか?」
「勿論」
300以上の監視カメラを設置するのはかなり大変な作業だっただろう。
それに、この監視カメラの配置は必要最小限で全ての場所が見れるようになっている。
全く死角がない。
「で、この監視カメラを改造して、私以外の人間が映った瞬間に防犯機能が作動するようにしたんだ。」
ほめて欲しそうにこちらを見る冬川だが、俺はそんな冬川が少し怖くなってきた。
「俺が映っても作動するのか?」
「そうだね。だから・・・」
そう言って冬川はもう一台の端末を取り出し俺の顔を写真で取った。
そのあと、何処からともなくPCを取り出し高速でタイピングを始める。
「これで良し。暁も監視対象から外したからカメラに写っても防犯機能は作動しないよ。」
この防犯機能と言うのが気になるところだが、落ち着いたら聞いてみよう。
そう思ったのだが、偶然にも侵入者が近づいてくるのをカメラが捉えた。
確実に冬川を狙ってやってきている。
その侵入者は端末を見ながら迷いなくこのビル内に侵入する。
冬川もそれに気づいたようで小悪魔の様に笑いながら「見てて」と言ってきた。
侵入者の数は2人。
見た感じどちらもあまり強そうには感じない。
能力を手に入れて自分が強くなったのではないかと錯覚しているのだろう。
そんな2人がビル内に1歩足を踏み入れた瞬間、俺が持っている冬川の端末と冬川の持っている端末の両方にアラートが鳴った。
そのアラートの通知を消し、監視カメラの映像に集中する。
侵入者が少し前進すると1階フロアの扉が全て自動で閉まり、同時に壁から複数のマシンガンが出て来て、侵入者めがけて銃撃を始める。
その精度はかなり良く、銃弾が一直線に侵入者へ放たれている。
ただ、幸いにも侵入者の能力は(視界内にある物質の速度を遅くする能力)だったようで銃弾を容易に回避した。
「大丈夫なのか」
その光景を見てセキュリティへの不信感が募り冬川に質問してみた。
その質問に冬川は「大丈夫大丈夫」と自信満々に答えた。
まあ、冬川が大丈夫と言うからには大丈夫なのだろう。
そう思い再び監視カメラの映像を確認する。
マシンガンは自動で当たらないと判断し、壁の中に戻った。
「助かったー」
「ああ、お前の能力のおかげだ」
侵入者2人は安心の声を漏らすが、その瞬間天井のスプリンクラーからガスが勢いよく噴射された。
そのガスは普通は目に見えないが、俺の目は少し特殊でその透明なガスを視認することが出来た。
「一応聞くが、このガスは何だ?」
「よくガスって分かったね。」
冬川は今日一番の驚きを見せた。
「このガスは一酸化炭素。酸素よりもだいたい200倍強く血液中のヘモグロビンと結合して酸素の運搬を阻害する。だから、かなり即効性があるんだよね。それに、無色の気体で匂いもない。暁も殺し屋だったなら使う事を検討したことくらいあるんじゃない?」
確かに一酸化炭素には様々な利点があるが、俺の場合こんな事せずとも大体の敵はこの肉体で何とかしてたからな。
これは、肉弾戦を得意としない冬川の戦闘スタイルなのだろう。
侵入者は数秒と立たずに気絶した。
恐らく、このまま死ぬだろう。
「じゃあ、私は後処理してくるから暁はここで休んでて」
俺も手伝おうと思ったが、体が動かない。
ここは甘えるとしよう。
「任せた」
俺はそう言って借りていた冬川の端末を返した。
そして、冬川はそのまま1階のフロアへ向かった。
静かな医務室で一人ぼっち。
昔は一人が当たり前で、気楽だったが最近は歩、晴翔、勇人などの友人や雪や冬川なんかの頼れる仲間が近くにいたこともあり、逆に一人だと落ち着かない。
こんな時にふと雷鳴のボスが言っていたアルカディア条約の事を思い出す。
嫌な記憶だ。
ただ、消し去ることの出来ない記憶でもある。
俺が闇影を去ったきっかけ。
裏社会の一部の重役達で秘密裏に行われていた国家、いや世界全体を危機に陥らせる可能性すらあった出来事。
それがアルカディア条約だ。
その結末、過程、きっかけ、それは俺が闇影のボスを殺すときにでも話すとしよう。
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