第56話 隠し要素6
俺とファントムの戦いは誰が見ても一方的なものになっている。
ファントムの攻撃を俺が紙一重で受け流している—————と、傍から見たら思うかもしれないが、実際にはそれほどファントムが押しているわけではない。
それは俺とファントムの共通認識だ。
それに、お互いに能力を使っていない。
このレベルの戦いになると能力は初見殺しとして使いたい。
こちらが先に能力を使い不発に終わるとこの拮抗した状況がかなり不利になる。
それはファントムも同じ。
だから、俺もファントムも互いに隙が生まれるのを待っている。
「なかなかやるね。君はどこの部隊に所属していたんだい?」
埒が明かないと判断したファントムは一度攻撃を止めそんなことを聞いてきた。
「どこにも所属してねえよ。俺は普通の高校生だ」
俺が元闇影所属という事を言う必要が無いため伏せておくことにする。
「面白いね君。普通の高校生がこの僕と同程度の実力を持っているのか。世の中広いな」
思ってもないことを口にするファントムトは不敵な笑みを浮かべ再び戦闘態勢を取る。
「僕はね、一度も負けたことが無いんだよ。けど、もしかしたら君なら僕に敗北をくれるかもしれない。」
まるで敗北を望んでいるかのようなセリフに少し動揺しつつも俺も改めて戦闘態勢を取る。
数秒の雑談を終え、俺たちは再び獲物を交えた。
さっきまでの戦闘と違うところはただ一つ、俺がファントムに押されている。
恐らくファントムは能力を発動している。
俺は押されながらも脳を回転させファントムの能力について考える。
先ほどまでと違うところと言えば、ファントムの身体的強度の増加?
いや、違うな。スピード、短剣を握る握力、体幹、そのどれも変わったわけではない。
だが、なぜか俺は押されている。
さっきまで実力は拮抗していたはずなのに。
そこで、俺はある一つの可能性を見出した。
未来予知?
この能力であれば今の状況に説明がつく。
そう、さっきまでの戦闘と違うところと言えば、俺の攻撃をまるで未来が見えているかのようにファントムは容易く避けている。
それに、ファントムの攻撃も俺の避ける先目掛けて飛んできてる。
だが、一つ不可解なことがある。
それは、仮にファントムの能力が未来予知であれば俺はすでに負けていても不思議ではない。
能力に制限がある可能背は大いにあるが、ファントムの能力は〔未来予知に近い何か〕、と仮の結論を出しておく。
「どうしたんだい?君も察しているだろうが、僕は能力を発動している。君はまだ能力を使わないのかい?」
正直な話、雷鳴程度能力を使わずとも壊滅させられると思っていた。
全盛期の俺なら出来たかもしれないが、殺し屋を引退して1年以上の月日が流れ俺の殺し屋としてのスキルは弱体化している。
それも俺が思っている以上に。
帰ったらまた鍛えなおそう。
そう決意し、俺は能力を発動する。
空間操作
俺は自分の今いる座標をファントムの立っている座標のすぐ後ろに移動させ、疑似的な瞬間移動をする。
俺が能力を手に入れて初めて習得した技。
それでも、相手の不意を突くには十分だ。
俺はファントムの背後を取った瞬間に持っているナイフでファントムの首を掻っ切った———————はずだった。
ファントムは俺の攻撃を紙一重で躱し俺から距離を取る。
普通なら確実に命中していた攻撃。
それを避けられてしまった。
これも、奴の能力のせいか。
「今のはヒヤッとしたよ。」
そういったファントムの額からは汗がにじみ出ている。
未来予知、かなり厄介な能力だ。
だが、完璧に未来を読んでいるわけではない。
必ずつけ入る隙があるはずだ。
その後も戦闘が続き、やっと致命的な一撃が入った。
「ぐっ!」
俺の放った空気弾がファントムの左腕見命中した。
「やっぱり君の能力は瞬間移動じゃなかったんだね」
「そういうお前の能力も未来予知じゃないんだろ」
「別に僕は自分の能力が未来予知だなんて言った覚えはないよ」
確かにファントムは一言も自分の能力が未来予知だなんて言ってない。
俺が勝手に予想しただけだ。
だが、それはファントムにも言えることだ。
「俺も自分の能力が瞬間移動だなんて言った覚えねえよ」
「確かに」
ファントムは空気弾によって吹き飛ばさた肩の付け根を抑えながら微笑んだ。
「僕の負けだ。今の僕じゃ君に勝てそうにないや。」
俺はファントムの目を見て嘘はついてないと判断する。
完全に戦意喪失した人間の目だ。
「ちなみにお前の能力はなんだったんだ?」
「僕の能力は聴力の強化。弱いだろ。」
確かに一見弱そうな能力だが、そんな能力をファントムは使いこなしていた。
恐らくファントムは俺の筋肉の軋みを能力で聞き取り、疑似的な未来予知を行っていたのだろう。
普通の人間がやろうとしても絶対に出来ない芸当だ。
筋肉の軋みの音を聞けたとして、それで相手の次の行動を予測するなんて簡単なことではない。
それに、ファントムがやっていたことはそれだけではない。
俺の心拍数や血液の流れの音も聞き取りそれすらも戦いの情報として取り入れていた。
冬川のファントムへの評価が間違っていなかったことを改めて感じる。
面白ければ評価、ブックマークをお願いします。




