第37話 実家2
「では、一つ賭けをしませんか?」
「賭けとは?」
「お父様のボディーガードと彼を勝負させて彼が勝ったら彼との結婚をお許しください。もし彼が負けたらお父様が選んだ方と結婚することを誓います。」
雪の提案に雪の父は再び深いため息を付く。
「さっきも言ったが強さなんてどうでもいい。それよりも重要なのはTHSを存続、発展させていくことのできる能力だ。個人の強さなんて、このよくわからん神殺人殺でしか役に立たない」
雪の父が言っていることは正しい。
経営に俺の殺しの技術なんて必要ない。
「会社の発展は私がやります。それに、おそらく彼にはお父様が望んでいる能力があります」
どうやら雪は俺を過大評価しているらしい。
確かに戦闘面では頭が切れる方だが経営となると素人も同然。
「とりあえず頭を冷やせ。今のお前は冷静じゃない。」
ひどく冷たい父からの言葉。
雪は下を向き部屋の外に出る。
「失礼しました」
長い廊下を歩き二人で俺の家に帰る。
「悪かったわね。こんなことに付き合わせちゃって。」
「いや、別に」
俺はふと下を向いてる雪の顔を横目に見ると今にも泣きだしそうだ。
「結婚の事なんだが、雪は知らない人と結婚したくないという事だな。」
「そうね。」
「だから、俺を使って結婚を阻止しようとしたのか」
雪は無言で頷く。
「そのことなら多分大丈夫だぞ。」
「いや、お父様は本気で私と何処かの社長息子を結婚させようとしているはずよ。」
「分かった、俺が何とかしてやるよ。その代わりもう泣くな。」
そう言って俺は一人で雪の父の部屋に戻る。
ここから先の話は雪には聞かせられない。
雪の父の書斎に到着する。
コンコンと軽くノックするが返事がない。
無礼だと分かっていながらも「失礼します」と言って扉を開ける。
扉の先には先ほどと同様に雪の父が堂々と座っている。
「お父さん」
俺がそう声を掛けると雪の父が「お前のお父さんではない」というテンプレートな返事を返してきた。
俺は人を見る目には自信がある。
雪とこの人との会話を聞いてて確信した。
雪の父は雪の事を嫌っていない。
むしろ好きな方だ。
つまり、重度なほどツンデレという事が分かる。
「お父さん雪さんとの結婚を許してください」
「だから、お前のお父さんではないと言っておるだろ。それに結婚は許さん」
「雪さん泣いてましたよ」
俺がそう言うと雪の父は石の様に固まった。
数秒の沈黙。
その沈黙を打ち破るように俺は追い打ちをかける。
「お父さんなんか嫌いとも言っていました」
実際は言ってないが娘が好きな父には効果抜群だろう。
雪の父は椅子から崩れ落ちそうになる。
「本当か?嘘だったら許さんぞ。」
「残念ながら本当の事です。」
雪の父は魂が抜けたかのようにその場に倒れこむ。
それを黒服の人たちが支え再び椅子に戻した。
まるでコントを見ているようだ。
「とりあえず、そっちに座れ。話を聞こう」
雪の父に案内され俺はソファーに腰を掛ける。
その対面のソファーに雪の父も腰を掛ける。
ようやく客として話を聞いてくれるのだろう。
「お父さん。今から話す内容は雪さんに言わないことを誓います。」
そう一言添えて核心に触れる。
「お父さんは、雪さんのこと超が付くほど好きですよね。」
雪の父は一度考えこみ答えを出す。
「お前のお父さんではないが、娘の事は好きだ。」
「じゃあ、なぜあのような対応を取ったんですか?さっきも言いましたけど泣いてましたよ」
「娘の前で好き好きなんて言ったら恥ずかしいだろ。」
真面目な顔で真実を言う。
その光景に黒服が笑ったが雪の父が黒服を睨むと笑いが収まった。
これが俗にいうアットホームな職場というやつか。
黒服の人たちもこの人が娘ファーストという事に気づいていそうだな。
「では、なぜ俺との結婚を許してくれないんですか?雪さんが望んだ事なのに」
「だって、結婚したら娘が遠くに行ってしまうような気がして」
どんどんと雪の父の口調が崩れてきた。
これがこの人の素か。
娘とは大違いだな。
いや、もしかしたら雪にもこのような一面があるのかもしれない。
「では、会社の事は本当の理由ではないと?」
「そんなの当たり前だろ。この神殺人殺が始まって世界情勢がおかしくなっている現状で会社なんてほぼ無くなったようなもんだろ。」
俺も思っていたことを雪の父が言った。
雪の父は雪に俺との結婚を否定する理由として会社を使っていたが、ほとんどの企業はもう機能していない。
国家機関ですら機能していないのだから当然ともいえる。
雪もこのことに気づいていると思ったが家族の事となると冷静にはいられないようだ。
「では、結論は雪さんをだれとも結婚させるつもりはないと。」
「分かりました。私も雪さんと結婚するつもりもなかったので良かったです。」
一件落着。
誰とも結婚しなくてよいという事を伝えると雪も安心するだろう。
俺は席を立ち部屋を後にする。
だが、腕を掴まれ止められた。
「まて、お前たちの事は何となく分かっていた。どうせ雪が結婚したくないからお前という身代わりを用意したんだろ。」
「まあ、そうなりますね」
「俺のこの性格を知っているお前は扱いやすい。やはり、雪と結婚しろ」
話が逆転してしまった。
始めは結婚させてくださいとお願いする立場だったはずが今度は結婚を断らなければならなくなった。
「いやです。それに雪さんだって俺の事好きじゃないと思いますよ」
「悔しいが雪はお前に好意を持っている。」
「なぜ分かるんですか?」
「娘は冗談でも俺の前に男を連れてくるなんてことはしない。それにこの人と結婚するなんて絶対しないと言い切れる。親の経験というやつだ。」
面白ければ評価、ブックマークをお願いします。




