金魚すくい師が金魚に!?呪われたポイの恐怖!
人気の無い神社の境内に金魚すくい屋だけががぽつんとあった。
そこだけ夏の縁日を切り取ってきたかのような異質さに少しばかり恐怖を覚えたが、
それ以上に金魚を掬いたいという欲求が勝り、水槽の前に立っていた。
店主と思しき老婆が値踏みするように俺を眺め、少し楽しそうに言った。
「お前さん、腕に覚えがありそうだねぇ…」
俺は金魚を凝視しつつ頷いた。
「ならお手並み拝見と行こうかねぇ。なぁに、お代はいらないよ」
そういって渡されたのは、なにやら禍々しいポイだった。
まず手始めに小さい奴から狙うか…
いつも通りに掬ったつもりだった。
寒さで手がかじかんでミスがでたのか、ポイはあっけなく破れてしまった。
「おや、残念だったねぇ」
老婆は嬉しそうに言葉を続ける。
「実はそのポイには呪いがかかっていてねぇ」
そう言うと同時に破れたポイが怪しく光りだし、気を失ってしまった。
意識を取り戻したとき、視界の端に店主の姿が見えた。
状況を確認するため周りを見回そうとしたが、なにやら視界がおかしい。
魚眼レンズのような視界になっていた。
何かおかしい、そう思い尾ヒレを動かして振り返って体の確認を
…尾ヒレ?
どうやら…俺は金魚になってしまったようだ。
「おや、気が付いたかい」
老婆が水槽を覗き込んで来ていた。
「かわいい金魚になったじゃないか、じゃあ力をいただくとしようかねぇ」
そういって俺を呪いのポイで掬おうとしてきた!
慣れない体でポイから必死に逃れる!
興が乗ってきたのか、老婆は饒舌に解説を始めた。
「このポイには二つの呪いがかかっていてね。一つはポイの使用者が紙を破ってしまうと金魚になってしまう呪い、そしてもう一つは金魚になってしまった者は掬われるとKSP(金魚すくいパワー)を奪われてしまうという呪いがね!」
知らない単語が急に出てきた、なんだよKSPって。
「一人ずつしか金魚にできないのは少し不便だけど逆に目立ちにくいからいいさ」
「少しお喋りが過ぎたようだね、これで終わりだよ!」
振りかぶった老婆のポイは、手荒に扱いすぎたのか無残に破れていた。
老婆は金魚になった。
入れ替わりで俺は人間に戻れた。
折角なので老婆を掬ってKSPを溜めておいた。
金魚すくい世界チャンピオンがここを通るのは調査済みだし水槽も用意した。
大丈夫、俺ならやれる。
目の前を通り過ぎるチャンピオンに声をかける
「あンた、金魚すくい上手そうだね、無料でいいからやっていかないかい?」
※ポイとは金魚すくい用の掬い網の事です
どうして毎年締め切りギリギリになっちゃうんでしょうね…
来年こそは余裕のある投稿を心掛けたいものです…