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その96・避けられぬ衝突・前編

・これまでのあらすじ

 ソルティナが「くふふっ、オーガが出るかナーガが出るか、楽しみね」とか言ってたら、本当に腕が倍もあるオーガみたいなのが出た。

 ……てことはナーガみたいなのもどこかで出番待ちしてるのだろうか……




「とりあえず近づいてみよう」


 話せばわかってくれるって様子でもないが、それでも、一応はまだ友好的なので、あっちの言い分を聞くだけ聞いてみたい。


「生贄持ってこいとか吠えてるけど、連れてきてもここに来る途中で確実に衰弱死するわよね。わかってないのかしら」


『わかってんなら言わねぇだろ』


「勢いだけでまくし立ててる感じですわよね。会話があまり噛み合ってませんわ」


 言いたいことだけ言ってるよな。久しぶりの人間との会話で興奮してるのかもしれないが。


『どーせ相容れ無さそうだしよぉ、こっから魔法や鉄鞭でもドカドカ浴びせたほうがよくねえか? 飛び道具とか持って無さそうだしよ』


「どうしたあ!? もしや、どんな者が生贄に相応しいかわからんのか? そうだな、大人はいかん。いかんぞ! 少年少女も悪くないが……やはり幼児だ! 幼児がいい! 世の中の汚さや醜さを知らぬ無垢なる子供がカロメリアはお気に入りなのだ!!」


 ハッソムさんらしき何かが悪質な助言を大声でこちらに投げつけてくる。

 声を上げる度に、周囲のでかい燭台の炎が、その余波でかき消えてしまいそうなくらい、不安げにゆらめく。


「かなりレベルの高い邪悪なこと言ってんな……」


「やっぱり邪神じゃありませんの?」


「女神本人が求めてるというより、それが一番いいんじゃないかと信徒が勝手に解釈してるだけよ。まあ、捧げられたらそれはそれで、これは上物だと満足するでしょうけどね」


「実質邪神じゃありませんの?」


「自発的じゃないから微妙なところね。来るもの拒まずというところかな。汚れなきものを好むのはどこの神でも普通よ」


 普通なんだ……


『んで、どうすんだぁ? 行くのか、それとも撃ちまくるのか?』


 どうしたものか。

 俺はすぐに判断ができず、頬を掻きながら、目を泳がせることしかできなかった。





「……ども、こんにちは」


 結局、やっぱり接近することにした。


 何十年もこんな穴ぐらにこもってて、ようやく誰か来たかと思ったら一斉射撃で滅ぼされるというのも可哀想だし、何か今後に役立つ情報をペラペラ喋ってくれるかもしれないという淡い期待から、こうして本人の元へと危険を承知で近寄ってみたのだ。


「うむ、まずは挨拶ということだな。よい心掛けだ!」


「あの……」


 俺は手を挙げて、一番聞きたいことを尋ねてみた。


「おじさん、ハッソム……さん、で合ってます?」


「おお、知ってるのか我が名を! もしや、リュムレインの者か? でなければその名を知るはずがない! ようやくこの町の民にも、物事の道理を理解する者が現れたか! 実に喜ばしいことだ!」


 やっぱりそうかあ。

 ……まあ、それはいいとして……どうすっか。

 いちいち細かい事を訂正しないで話を進めさせたほうが、色々聞き出せそうだな。

 それと声量を少しは押さえてほしい。この距離で叫ぶように喋られるのはやかましくて仕方ないぞ。


「いいえ。感極まってるところに水を差して申し訳ないけど、私達、一人残らずよそ者よ」


 などと考えていたらいきなり横槍が味方から入った。


「ソルティナ、お前なぁ……」


「え、なに? どうかしたの?」


 頭を使わない反射じみた会話するのやめてくれないかな頼むから。


「なんと、違うのか! それなのに我が名を知るとは……なるほど、つまりカロメリアの教えに心酔し、各地にかろうじて残されていた情報をかき集めていたときに、偶然、我が名とこの地について知った……どうだ? 当たらずとも遠からずではないか?」


「半分くらいは合ってるわね」


「そうか、やはりな!!」


 何が面白いのか、正体がハッソムさんだと判明した四本腕の怪物はグワッハッハとのけぞって大笑いした。あークソうるせえ。


『……ご機嫌なところ悪りぃけどよ、なんで自分でよぉ、地上まで道を掘りぬいて生贄をさらいに行かなかったんだ? そのガタイなら簡単にやれんだろ?』


「何を言うかと思えば、浅はかなことを言うものだ!」


 ハッソムさんが背後の凶悪なデザインの女神像を見上げる。

 こうして近くで見ると、遠目で見ていたよりも一層迫力があるな。


「偉大なるカロメリアの御声を聴くことで真理に目覚め、信徒を導く立場へと生まれ変わった我がこの場を離れて生贄狩りなど、言語道断にも程があるぞ! そうは思わんか?」


「え、じゃ、そんな理由で、何十年もここで使いっ走りが訪れるまでじっと待ってたんですか?」


「うむ! しかしだ、魔が差して、地上に出ようかと思ったことも何度かある。いつの間にか埋まっていた出入口を掘り進んだこともあるが……やはり、この場を離れる気になれず、然るべき者がこうして現れるまで踏み止まることにしたのだ!」


 それがお前たちだという感じで、満足そうにハッソムさんが俺達を見て頷いた。


「長年の夢がかなってご満悦なところ悪いけど、それは違うのよね」


「待て待て待て」


 こんな場所にずっと引きこもってる奴が何を知ってるとも思えないが、もうちょい聞きたいことがある。敵だとバラすのはまだ早い。


「なら、ここに居座ってるのも、自宅の床下からここまで掘りぬいたのも、そこの神様の声を聴いたからで、誰かからの余計な入れ知恵とか、そういうのは無いと」


「無論である!」


「そっすか……」


 てっきり裏で糸を引いてる何者かがいて、そいつの陰謀の一つかと思ったが、そうでもないのか。

 なら聞く事なくなったな。


「もういいわね?」


 可憐な見た目とは裏腹に本性が乱暴極まりない幼馴染が、ウズウズして我慢できずに聞いてくる。


 そうだな。

 手綱を離してもいい頃合いか。


「………………」


 俺はもう何も言わず、鼻息が荒くなってきたソルティナと目を合わせ、かすかに首を上下させた。

 大皿にてんこ盛りになった甘いお菓子を差し出されたかのように、ソルティナが、舌なめずりしそうなくらい顔をニヤケさせた。


「さて、心配性な彼からお許しが出たことだし、心置きなく言わせてもらうわね。私達って、その像が地上にもたらしてる被害を食い止めるためにここに来たのよ」


「ほぉう? それはまた、なんとも豪気なことだ!」


 こんな少女が宣戦布告にも等しいことを言い出したので、ハッソムさんは目を何度も瞬いて驚いていた。


「しかし……この地まで足を踏み入れ、いまだ平然としている様子からして、やはり、見た目にそぐわぬ強者のようだな。これは侮れん!」


 油断しないか。そりゃそうか。


「だが、それならそれで問題はない。素直に生贄を持ってくる気も、信徒としてカロメリアにひれ伏す気もないのなら、そなたらに生贄となってもらおう!」


「おおっ!?」



 一瞬で和やかムードから敵意まんまんに切り替えたハッソムさんのでかい体から、炎のような猛烈なオーラが立ち昇る。

 オーラは荒れ狂う熱波となり、そして、俺達にまで容赦なく襲い掛かって──!



「よっと」


 呑気そうな掛け声と共にソルティナが片手を突き出すと、その前方に白い光の壁が現れ、熱波をいともたやすく遮断する!


「ふむ、様子見程度だったが、無傷で凌ぐか! 面白い、実に面白い! おお、偉大なるカロメリアよ! この者たちこそ貴女への供物に相応しい!」


「これで様子見か……」


 このおっさん、ひょっとしたら今まで戦ってきた敵の中でも、かなり上位かもしれんぞ。ただの鉱夫のおっさんがこうなるって、破壊の女神パワー、マジでやべえ。そりゃ弾圧されまくっても拝む連中が後を絶たないはずだわ。


『骨が折れそうだぜ、こりゃよぉ』


「ふふっ、ソルティナさんは嬉しそうですけどね」


「当然でしょ。こうでなくっちゃ困るわ。血が騒ぐわねぇ……!」


 軽く上げている両手の指を力強く曲げ、いまにも獣が飛びかかるような前のめりの姿勢で歓喜するソルティナ。


「来るがいい!!」


「言われなくても!!」



 堂々とした売り言葉に同じく堂々とした買い言葉が返される。

 どこか清々しさすら感じるその言葉通り、脳筋二人は俺達などそっちのけで真正面から激突するのだった。後編に続く!

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