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その8・ボロ儲け

 公的な文書に偽名でサインするというなかなかの罪を犯した転生聖女ソルティナ。彼女の未来は果たしてどうなるのか。

 ……まあ、どうなろうと前世よりマシだろうが、巡り巡ってまた処刑とかなったら不謹慎ではあるが笑わない自信がない。とばっちりで俺まで焼かれたくないのでこらえるつもりだが。



 途中で足止めもあったが、マードラッドでありったけのポーション(といってもたった七個)を兵舎に納品し、ホクホク顔のソルティナと俺は、自分たちの町であるグラッドへの帰途についていた。




 あの英傑さんはマードラッドに着くと、すぐさま町で唯一の錬金術師に聖女の手作りポーションの鑑定と分析を依頼し、小一時間後に、


『中身は薬草と水だけの簡素なポーションですな。ただし、どのような作り方をしたものか……純度や濃度が上級ポーション並です、いやはや……』


 という、驚きを隠せない分析結果を聞くと、すぐさま金貨の詰まった袋をソルティナの目の前に差し出してきた。




 こ  ん  な  に。




 ポーション七個売り払ってこの報酬はちょっとボロすぎる。


「……思ってたよりも儲かってびっくりです」


「いや、これを他国に持っていって売りさばいたら、もっと高値がつくと思うよ。……言うまでもないけど、そんなことやったら駄目だからね? さっきの契約文書にも書いてある通り、あくまで僕らの間だけの取引であって、君が他者へ売買することは認められないからね」


「その代わり、私の素性を公にしないのと、何かあった時の後ろ盾になってくれる……ということも、忘れないでくださいね」


「もちろん。蒼風の異名とアルドルークの家名にかけて誓うよ」


「くふふふっ」


「あははは」


 なんだろう。真っ当な取引の話なのにどことなく腹黒さを感じる。

 勇者と聖女が手をとって笑いあってる大団円みたいなシーンなのに。女の子ってコワイ。




 とまあそんな訳で、俺達は実演用に用意していたが使い道がなくなった蛇をかば焼きにしておやつ代わりに食べながら、森の中のあの秘密基地へと向かっていた。

 この後は金貨袋や露店販売で使うはずだった品物をしまいこみ、外のコークスと荷馬車に魔物除けの神聖魔法をソルティナがかけて、しれっと帰宅する予定だ。

 祈りの飼い葉を食わせていた副作用なのか、コークスは最近こっちの言うことをよく理解してくれて助かる。馬という存在を逸脱している気もするが。

 マードラッドを出発する前に、ギムおじさんやフレスさんが心配そうに「護衛でついていこうか?」と聞いてきたが、安全なルートがあるしコークスもいるから大丈夫と、強引に遠慮しといた。ついて来られたら秘密基地の場所バレるしな。

 それにコークスがいれば雑魚モンスターなんぞ本当にどうにでもなるわけで嘘はついてない。



「明日は空いてるか?」


「基本的にスケジュールなんてないけど……どうしたの? 二人でつるむなんていつもの事でしょ?」


「ならちょっと俺に付き合ってくれ」


「あら、もしかしてデートのお誘い? 急に距離を詰めてくるのね? けど、そういう強引なのも嫌いじゃないわよ。あなたも年頃の男の子だもんね。私みたいな愛らしい子がそばにいて、これまで手を出さなかったのが不思議なくらいよ、くふふっ」


「ガワだけ若い年増がなんか言ってらぁ」




「ぬぐぐぐぐぐぐ」


「ふぬううううう」


 正面から向き合って、頭の高さまで上げた互いの手と手を握りあう、一種の力比べのような対決が夕方の秘密基地で開催されていた。

 せめてファングでもいれば仲裁してくれただろうが、ここには二人しかいない。

 どちらも引かぬ五分の押し合いはしばらく続き、このゼロ距離激突ともいえる一戦の影響でしまいには大地が揺れだしたが、ソルティナは気にも留めないので俺が謝って事なきを得た。



「照れくさくなってあんなこと言っちゃった。悪かった。だから機嫌直してくれ」



 という趣旨の発言を『可愛い』というワードを所々に織り交ぜながら語ることで、ソルティナからの好感度を俺が吐いた正論いや暴言の以前にまで持ち直すことに成功した。

 したのだが。


「……反省してるんで、もう放していいか」


「まだダメ」


「ほんの軽い冗談だろ……本心じゃなかったんだから許してくれよ。茶目っ気だって」


「そういう事を悪びれずにまだ言えるんだ…………延長ね」


「おぉい」


 ソルティナが満足するまで俺は後ろから彼女を抱きしめ続けなければならなかった。

 布越しの柔らかな感触と甘い匂いにドキドキしながらも俺は、コイツ本当に合計年齢はタブーなんだなと実感したのだった。




 翌日。

 昨日の一悶着はどこへやら、ソルティナはいつもの屈託ない笑みを浮かべている。俺はまだ照れくささが残ってるんだが。


「出かけるにはいい天気ねー……って、それで今日の目的地はどこなの?」


「古代遺跡」


「?」


「だから、蒼風の姉ちゃんが言ってた話に出てきた遺跡ダンジョンに潜ろうと思ってさ。あの英傑さんがどうにかできる程度かどうか、直に確かめようかなと」


「あの力量ならよっぽどのことがない限り大丈夫だと思うけど……まあ、面白そうだし乗ったわ。それに、手つかずの遺跡なら、まだ未発見のお宝とかあるかもしれないしね」


「とっくにスッカラカンということもあるけどな」


「夢くらいもたせなさい。……で、場所の目星はついてるの?」




「ウォウッ、ワウウッ…………ウォオンッ」


 地面に鼻をこすりつけ、何かを確認しては、俺達を正しい方向へと誘導するファング。


「なるほど、クレセントウルフの鼻に頼るという事ね。名案だわ」


「だろう?」


 つい得意げになった俺の手には、固い破片が握られていた。


 俺はファングを連れて猛ダッシュで昨日の戦場跡に向かうと、そこに残されていたニードルスドラゴンのトゲの欠片を拾い上げ、ファングに嗅がせることでどこからこいつらが来たのか追跡させようとしたのだ。

 ファングは魔物だけあって普通の犬や狼より嗅覚も優れているのか、ほとんど迷いなく臭いが指し示す次の場所へと進んでいく。


 そうしているうちに、


「……もうファングに頼らなくてもどうにかなりそうね。澱んだ邪悪な気配が漂ってるのを感じるわ。あっちよ」


 いつものように一人で駆け出していくソルティナに俺は何も言わなかった。行け行け。



「──ここか。またでかい入口だな。ドラゴンが何匹も出てくるわけだわ」


 ほとんど崩れることなく原形をとどめている石造りの建物、その奥に真っ暗な大穴じみた、地下への入口が広がっていた。入口でこのサイズなら中身はそうとう広いんじゃないのか……?



「さぁて、久しぶりのダンジョン探索ね。胸が躍るわ~~」


 十三歳の少女がポキポキと指を鳴らし不敵に笑った。

 ……聖女なら探索が無事に終わるように祈るところじゃないのか。

精神年齢高くても、シオン君もやっぱり男の子。

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