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その45・熱しやすい無と冷めやすい氷

・前回のあらすじ

 売られた喧嘩を丁重に断ったのにソルティナが勝手に購入しやがった。貧乏神かコイツ。




「おや、思ってたより来るのが早かったね。感心感心」



 これ以上調べても真新しい発見はなさそうだし、キリもいいのでここで探索を打ち切って、俺達は良さげなものを各自適当に抱えて外へと出ることにした。

 俺は十数枚の金貨と凄い性能の鉄鞭で、ソルティナは魔力の込められている気配がある書物を数冊ほど、そしてナナは宝石のはめられていた杖や剣を選んだ。


『こんなの欲しかねぇんだけどなぁ』


「手元に置くか売り払うかはひとまず置いといて、まずは外に行こう。貴族を待たせるとあとあと根に持たれてうるさそうだ」


「まあそうね。大らかなのもたまにいるけど、大半は見栄で生きてるような人種だもの」


 売る売らないとか、どれを誰のものにするかなどの細かい分配は後から相談して決めることにして、とりあえず持ち去ることにする。

 今頃、外ではあの伯爵家の長男坊が手ぐすね引いてお待ちかねだろうし、さっさと行かないと機嫌を損ねることになるからな。


 で、表に出てみたら、マントも脱いでやる気満々でこう告げてきたわけ。

 木剣でも用意してあるかと思ったが剣抜いてる。あらら、本気じゃないですか坊ちゃん。



「君は乗り気じゃなかったからさ、僕との勝負をためらって、出てくるまでに時間がそこそこかかるんじゃないかと思ってたんだけど……見かけによらないね」


 ほんとに自信満々だな。これまで負け知らずって匂いがプンプンする。


「慎重だけどビビリではないんでね。見かけによらず」


 


「どこからでもかかってくるといいよ」


 心地いい風に金髪回転テールをたなびかせた坊ちゃんが、左手で剣を軽く構え、お姉ちゃんを彷彿とさせる優雅さでこちらに先手を促してくる。

 構えと言ったが、受けや反撃のための姿勢ではない。単に剣を抜いてるだけという感じだ。完全に舐められている。


「そう言われても」


 今の隙だらけのあんたに俺が本当にかかったら、一瞬でケリがつくんだけどな。実力差がわかってないにも程がある。 崖から飛び降りて死にたいから後押しよろしくってお願いしてるに等しい無謀さだ。


「緊張もしてないし、立ち姿も堂に入っていて悪くない。いい勝負が期待できそうだ」


 余裕ぶるのはいいから少しはまじめに構えてくれ。死ぬぞ?

 こうやって向かい合ってんのに、目の前にいる俺の力量を詳しく感じ取れないあたり、脅威を察知する感覚が鈍い。こっちはおたくの実力をだいたい見抜いてるというのに。

 この坊ちゃんは命にかかわるような危険な存在と出会った経験がないんだろう。

 そういう点では俺も同類ではあるが、俺はじっくり見れば敵の力を感じ取れるし、これまでそこそこの強敵と何度か戦っているので場数も違う。


(……英傑やってるお姉ちゃんより、一枚か二枚格落ちって具合かな。この年でそんな腕なら自身があるのもそりゃ納得だ。ソルティナの姉よりだいぶ格上だな)


 人気のないこんな山の中の廃坑まで、一人で護衛もつけずにノコノコやって来たんだから、生半可な実力ではないのは初対面の時点でわかりきっている。

 けれど──その程度だ。

 感じとしては並レベルの天才と見たが、その評価でほぼ合ってるんじゃないかなあ。


「……いい勝負、ねぇ……」


『どーだかなぁ』


 同じく、ソルティナとナナも坊ちゃんの力量を(おおむ)ね見抜いたようだ。

 さっきまで楽しそうにこちらを眺めていた瞳が段々と半目になってきている。


「先手を譲ってもらうのも、心苦しいというか……」


 だから素直に構えてくれないか。

 そしたらササッと済ませて、良くて大ケガ悪くて半殺しくらいで終わらせるから。


「遠慮しなくてもいいって。一度目の攻めのお誘いは断るとか、そんな奥ゆかしい真似は無用だよ。これはれっきとした勝負なんだから、まっすぐ打ち込んでくるといいさ」


「………………」


 あー、なんだこの不毛なやり取り。

 いつまでたってもまともに構えねーし、もうお言葉に甘えてやっちまうかなコイツ。


 こちらは聖女がいるからどんな目にあわせても元通りにできる。

 欠損しようが死亡しようが何とでもなるからあなたの好きにしていいわよ、という血生臭いお墨付きをソルティナから事前にもらってるし、負けた後も食い下がったり逆恨みしたりしそうなら記憶をいじって穏便に済ませるので、なんの後腐れもない。

 つまり、この坊ちゃんがどんな末路をたどるかは俺の胸先三寸なのだ。


「元々そっちが挑んできたんだし、そっちの方から、かかってくるべきじゃないかと」


 ……とはいっても、一方的にボコボコにしてしまうより、向こうの攻め手を全部さばききって戦意喪失させるのがこの場のベストなんじゃないかと思うわけだ。なんで後手に回ることにする。

 それに、後腐れないとはいったものの、神聖魔法による記憶操作だって決して完璧じゃないだろう。何かのはずみで解除されることが無いとは言い切れないはずだ。

 ソルティナが安易に使いたがらないのも、そういう理由込みなのかもしれない。


「難癖を突きつけたお詫びに先手を許したんだけどな。けど、君の意見も一理ある」


 坊ちゃんが一歩踏み込む。

 まだお互いに攻撃の間合いではない。


「お言葉に甘えるとしよう」


 坊ちゃんの体から殺気と共に、白く冷たい空気が漂いだした。ああ、その手の属性ね。

 周囲に生い茂っている草が、霜に覆われ、みるみる凍りついていく。



「シュッ!」



 鋭い呼気を発し、坊ちゃんが剣先を鋭く突き出すと、突風のような冷気が俺へと吹き付けてきた。

 まずは小手調べに凍らせてみて、そのまま負けを認めるならそれでよし、認めないなら近づいて刃を鼻先にでも突きつけて強引に認めさせるって寸法かな。

 ……ところで、俺もこの坊ちゃんもお互いガチの武器使用してんだけどいいのか。


「ま、野次馬いないし、黙ってりゃいいな」


 やられたと思わせてから無造作に氷を割って復活とかカッコイイと思ったが、せっかく新調した冒険用の衣服一式が初日で激しく痛みそうなので、ここはやめとくことにする。


 なので俺は迫りくる白い風を片手で抑え込んだ。



「えっ?」



 どうということのない軽い仕草で初撃を受け止められたのが信じられないのか、さっきまでのクールさとは打って変わった間抜け顔で、坊ちゃんの口から困惑の声がこぼれ落ちた。


「ま、まぐれさ」


 この場の誰かにというよりは、自分を説得するように、再び氷の魔力を俺へと放つ。威力も速度も最初のときとほぼ同じだ。

 それに何の意味がと思うかもしれないが、本気でやると、さっきのがまぐれではないと間接的に認めることになるので、苦肉の策でそうしたんだろう。

 当たり前だが、俺はその二回目もあっさり手で防いだ。なんかさっきより気持ち冷たかった気もしないでもない。


『あれれ、あのお貴族さまよぉ、余裕がなくなってきてねぇか~?』


「こら、ナナったら、冷やかしちゃだめよ。仮にも英傑の血縁である方が、この程度で終わるわけないでしょ」


 おいおい、外野が焚きつけるなよ。




「……いいよ。それならその気でやろう。軽い怪我くらいで終わらせてあげたかったけど……恨むなら、中途半端な己の実力を恨むといいさ」



 坊ちゃんを中心に、これまでとは段違いの冷気が、渦を巻いて吹き荒れ始める。ようやく真面目になってくれたし、ここからはまともな勝負になりそうだ。

 ……実を言うと、同い年くらいの同性とのちゃんとした勝負ってこれが初めてなんで、なんだか嬉しくなってきちゃってるんだよな……

 最初はさ、喧嘩売られてめんどくさいって萎えてたけど、だんだんやる気や熱意が沸いてきて、こういうの楽しいなって思いが芽生えてきたんだ。我ながら年寄り臭い性格だという自覚があったけど、やっぱり俺はまだまだ子供なんだなと思う。


 まあ、対照的に坊ちゃんの方は怖いくらい

冷え切ってきてるけど、それはあっちの問題だから知らん。




「……冷酷なる白に塗りつぶされよ……猛進する氷流!!」


 坊ちゃんが魔力を集中した手を突き出し、魔法の詠唱らしきものを唱えると、雪崩じみた白い激流が地面に無数のツララを生やしながら一直線に突っ込んでくる。


「ふぅーっ……」


 俺はどう対応したかというと、言うまでもなく、いつもの虹色吐息である。

 さっきと違って本腰を入れた魔法攻撃が俺に届くことなく散っていったのを見て、いよいよ坊ちゃんの顔が険しくなってきた。


『なかなか強力な魔法だったんじゃねぇのか、今のあれよぉ』


「そうね。魔法自体は冷気系の中級ランクなんだけど、本人の属性と相まって、威力が中の上くらいまで底上げされてるみたいだわ。それと、魔術師の道を歩んでるわけでもないのに、あの年で真っ当にそのランクの魔法を使いこなせるのも驚きね」


「ふ、ふふん、わかるかい? これでも、僕は『勇者』のクラス持ちなんでね。剣技だけでなく、魔法の研鑽も怠ってないのさ」


 女性陣に褒められて調子を少しは取り戻したのか、自慢げに坊ちゃんが自分のクラスを聞いてもないのに語りだした。

 褒めたといっても、年の割には凄いね~って程度なんだが、当の本人はすっかり気をよくしている。おだてに弱いタイプだな。

 しかし勇者とはね……それは自信家になるはずだわな。


「ところで……手の内を明かしたくないなら別に無理して言わなくてもいいけど……君は何のクラスなんだい? 僕の猛攻を凌げるんだ、並大抵のものではないんだろ?」




「無」




「は?」


「だから、無なんですよ。クラスどころか属性もね。なーんもない、無なんですよ」


 唖然としている坊ちゃんにさらに説明を続ける。


「そんなもんだから、ついたあだ名が『無能のシオン』ってね」


「……冗談も大概にしてほしいね。そんな馬鹿なことがあるはずがない。言いたくないなら最初から黙っていればいいのに、君は性格がかなり悪いようだね」


『ひひっ、バレちまったなぁ…………あ、いけね』



 慌てて自分の口を押さえるナナを横目で睨むと、隣にいるソルティナが、してやったりみたいなニヤけ顔でほくそ笑んでいた。この勝負とかもうどうでもいいんだな君らは。

今週は水曜と金曜の二回になります。どちらも十三時更新です。

もしよければブクマつけたり評価したりしてみてください。するとブクマや評価の数が増えます。

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