その44・英傑の弟、あらわる
「外のちっちゃなゴーレムが教えてくれたよー。みんなでこの中を探索してるってねー」
「ロードスめ……」
馬鹿正直にしゃべりやがって。
後で小言の一つでも……いや、あいつを責めるのは筋違いだな。むしろ変に気を利かせて余計な嘘をついたりしなかったのは賢い判断だ。融通がきかなかったともいえるが。
「にしても……なんでここがわかったんだろ」
『そりゃお前、お外にあんなデケェの突っ立ってたらよぉ、どんなマヌケでも一発で丸わかりってもんだろうが』
「あ」
『お前ってよぉ、いっつも隙のなさそうな物言いしてっけど、どっか抜けてるとこあるよなぁ』
そうだった。サイクロプスゴーレムのこと忘れてた。
「しかも、町を出発してからずっと大きくて深い足跡が続いてるでしょうしね。そこまで豪快に痕跡を残してもらってて、追跡できないほうがどうかしてるわ」
……もしかして、ここまでの道のりで魔物や悪人が出なかったのもあの巨体がのしのしやって来るのを見て、一目散に逃げだした可能性が……?
「とりあえず降りてみるか」
『んだなー』
「頭はきちんと乗せときなさい。そんな姿なんか見られたりしたら、また真実をすっ飛ばさないといけなくなるわ」
『なんだそりゃ? 口封じって意味かぁ?』
「似たようなものね」
「そうかなあ……」
こんな呑気な会話してるのでわかるように、俺もこの二人も、謎の人物に対して警戒心など持ってはいない。
敵対してる感じの口調じゃないしな。してるならそもそも話しかけずに隠れて待ち構えるはずだ。
なお、その場合は俺やソルティナに気配や生命力を感じ取られて、誘い受けからの不意打ちカウンターを喰らう羽目になる。つまり死亡確定だ。
仮に殺したらまずい相手だったとしても、聖女の奇跡で蘇生させればいいので、ためらう必要などない。先にやっちゃってから今後について考えればいいのだ。
今回は素直に話しかけてきたのでこちらも素直に対応することにしよう。
「泥沼に沈んでいくような気分ね」
『せめて舞い降りるって言えや』
俺が壁や天井を歩いて降りていくのは不気味に思われそうだったので、無残に壊された床穴から、ナナの浮遊魔法で三人まとめてゆっくりと落下していくことにした。
階下にいた声の主は、俺やソルティナとほとんど年が変わらなそうな男の子だった。
冒険者風の装いに真っ赤なマントを羽織り、腰から短めの剣をぶらさげている姿が、本人が宙に灯したらしき魔法の光に照らされていた。
風、というのは、じっくり観察してみると、衣服の襟首や袖に細かい刺繍が見えるからだ。そんな凝った装いで探検や魔物討伐に出る冒険者とか聞いたことない。
身だしなみよりも、生きのびることが最優先な職業なのだから。
「あのー、もしかしてウェスター家の関係者さん?」
「そうだよ。よくわかったね」
感心するほどのことじゃない。
念のため聞いといてあれだけど、もしかしなくてもそうだろうなと思ったよ。雰囲気もそうだし、釣り目っぽい顔もあの金髪ロールお嬢様にかなり似てるもん。
あっちはもみあげ部分だったけど、こっちの坊ちゃんは、なぜか首の後ろで縛ってある髪の毛だけがクルクルと螺旋を描いていた。どういう髪質だ。貴族あるあるなのか?
「まずはご挨拶からしておこうか。平民相手でも礼儀は大事だからね」
おっ、一瞬で生意気なのが伝わってきたぞ。
自然に余計な一言を付け加えるセンスは生まれつきのものかそれとも教育の成果なのか、どっちにしても初対面で上から目線なのはいい度胸だ。
「僕はアルマーナ・ウェスター。ウェスター伯爵家の長男であり、六英傑の一人、美麗なるメリエレイスの弟だ。よろしく」
そういえば、そんな名乗りをあの姉ちゃんがあげていたような……
聞いたそばからまた忘れそうだが、まあ他の二人がきっと覚えてくれるだろう。俺は信じてる。
「かの名家のご子息からの丁寧な挨拶、痛み入りますわ」
ソルティナはちょこっとスカートの端を上げて一礼すると、伯爵家の坊ちゃんに上品な語り口で俺達を簡潔に紹介してくれた。擬態ってやつである。
「……砦が崩れてゴーレム狩りができなくなったから、暇つぶしに遺跡荒らしか……」
何を企んでるのかわからない以上、事実をそっくりそのまま教えるのは色々問題が生じそうなので、ソルティナはそんな感じでお茶を濁すことにしたみたいだ。
「元気が有り余ってるんだね」
「それほどでもありませんわ。初めて遠出した地方なので、つい記念にと足を運んだだけですのよ。ただの平民の、つまらない気まぐれとでも思ってくださいな」
「へえ……」
アルマーナと名乗った少年が、怪しげに笑う。
「あの巨大なゴーレムに膝を屈させた君たちが、ただの平民だと?」
「そこを突かれるとこちらとしても困りますが、様々な要因が重なった結果と思っていただければ幸いですね。それに、あのゴーレムは図体が無駄に大きかっただけで、そこまでの強敵ではありませんでしたし……」
「それはそうだろうね。事実、決め手になったのは、君たちが用意していた小型ゴーレムだと聞いたよ。それが、君たちがどうにか動けなくした巨大ゴーレムに術をかけて、大人しくさせたらしいと。……だとしてもだ、並の使い手では太刀打ちできない怪物だったと思うけどね」
「何をおっしゃりたいのです?」
痺れをきらしたのかソルティナが単刀直入に尋ねた。気の長くない彼女にしてはよくもったほうだな。
「僕と一勝負してほしい」
「……遠慮させていただきます。どうなるにせよ、後が怖いので」
ソルティナはきっぱりと断った。
そりゃそうだ。
誰だって貴族の坊ちゃん嬢ちゃんなんぞと一戦交えたいなんて思わない。もし怪我させたりしようもんなら、こちらに非がなくても、向こうの親が黙ってないからだ。
負けた本人に逆恨みされたり、わざとこっちが負けようとしたらあっちが調子に乗って攻撃の手を止めず、大怪我を負わせられるケースだってありえる。
だからこそソルティナは、あの英傑の姉ちゃんやお付きのおっさんの記憶を消したのだ。邪魔だから蹴り飛ばしたなんて知れたら一大事なのだから。
……それで最終的に大変な目に合わされるのは伯爵家のほうだと思うが……
ソルティナも吹っ切れたとはいえ、まだ前世での恨みは残ってるだろうしな。
つまりこの坊ちゃんがやろうとしてることは、消えそうな炎があるのも知らずに油をまくのに等しいんだけど……普通わかるわけないよなそんなの。
「貴女とではないよ」
嫌な予感がする。
「あら、そうでしたの。振られましたわね」
坊ちゃんの視線がこちらに向いている。いよいよヤバい。絶対に狙われてる。
「僕としても、レディの相手というのは気が引けるんでね。手合わせならそこの君としたい」
「嫌っすよ。理由もわからずいきなり勝負とか言われても」
「長女が駆けつけたものの撃退されて終わりましたでは、こちらとしても格好がつかないんだよ。それで君たちに一矢報いるというのも、お門違いな話だとは自分でも思うけどね」
「それって、伯爵家の総意ですか?」
「いや、僕個人の独断だよ」
読めてきたぞ。
あの場に最後まで居合わせなかったということは、こいつは今日リュムレインに到着して事の次第をあらかた知ったんだろう。
で、先に駆けつけたものの、サイクロプスゴーレムに吹っ飛ばされて大負けというとんだ失態をかました姉をどうにかカバーしようと、活躍した俺達に勝負を挑んで勝つことで、
「あの巨大ゴーレムを大人しくさせた連中は大した実力はなかった。英傑が遅れを取ったのは長旅の疲れが溜まってたせいで、後から挽回できてた」
こんな都合いい流れにもっていきたいんじゃないの~?
あと、俺達が強そうな外見じゃないのが、さらに坊ちゃんのやる気に拍車をかけてんだろうな。
搦め手さえなければどうにかなる相手とでも思ってるのかもしれん。ここまで護衛なしで来れたということは、実力だってそれなりにあるのは間違いない。
「いいわ。その勝負、受けて立ちましょう」
「はあっ?」
お前に何で決定権があるんだよ。
「二言はないね?」
「欠片もございませんわ」
いやあの。俺を置いてきぼりにして話を進めるなよ。なんなのこいつら。
「あの様子じゃ引き下がりそうにないし、断ったら断ったで、後から別の方法でちょっかいかけられるよりマシでしょ」
納得顔の坊ちゃんが先に外へ出て行ってから、俺はソルティナに詰め寄った。
「それはそうだがなあ……」
「怪我ならさせてもいいわよ。この辺なら誰も見てないし、なんならやり過ぎて殺しちゃっても私が生き返らせてあげるから、何も問題ないわ」
そのまま素直に負けを認めるならそれでよし、グダグダとしつこいようならオツムを叩いて負けを認める素直さをねじ込めばいい。ソルティナのやつはそんな腹積もりらしい。
「最初からやれよ」
何をどう最初からやれとは具体的には言わない。
あまり核心を喋ると積み木倒しのように真相が判明して、ナナに英傑が飛んできて激突した原因がバレかねないからだ。終わった話をうかつに掘り返さずに最後まで黙っていよう。
「すぐ魔法や奇跡に頼るのってよくないわ。それは行き詰ったときの手段よ」
「暴力ならいいのか」
「一番手っ取り早いからね」
『……なんでこんなのが、俺と同じ聖女なんだろうなぁ……』
心底同感だ。
今週は、水曜、金曜、日曜の同時刻に投稿します。




