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その40・禍福はあざなえる縄の如し

 激戦とまではいかないがなかなか歯応えのあった一戦を終え、ねぎらいの大歓迎をこれでもかと受けまくり、装備品の一新まで無償でしてもらって、もうこれで帰ってもいいんじゃないかと思ってしまった、そんな一日だった。



 そして清々しいくらい空の晴れ渡った翌日。


「……わあ」


「思ったより一通り揃ってるのね。及第点は余裕で超えてるわ」


 前世がいいとこの令嬢だったせいか、生意気なことにソルティナは食い物とかに意外とうるさい。それでいて虫や魔物も平気で食ったりするそうだから何でもありだ。

 そんな舌の肥えた聖女から見ても申し分ないという朝の献立が、こちらになります。


 搾りたてのミルク。

 カリカリのベーコンと目玉焼き。

 みずみずしい果物。

 新鮮な野菜のサラダ。

 ふわっふわのクロワッサン。

 具の多いスープ。


 こんなに隙の無いメニューを平らげたら朝から満腹になってしまいそうだ。



「邪魔するぞい」


「あら、ドワーフの人じゃない。こんな朝からどうしたの?」


「それがのう、ちと面倒なことが起きたんで、早いうちに伝えようと思ってな」


 十三年の人生で一番豪華な朝食を堪能していたところに、一日の初っ端からがっかりさせてくれるお知らせが飛び込んできた。

 良いことと悪いことってね、二本の紐を捩り合わせて作った縄みたいなものだから交互にやってくるんだよ。なんかそんな諺があったなと思った。



「……ゴーレムの湧き出てくる砦が半壊した!?」


「そうなんじゃい」


 頭をポリポリ掻いて、お知らせを届けてくれたモンバムおじさんが申し訳なさそうな顔をしていた。


「お前さんたちが手下にしたあの一つ目が、どうやら砦から無理やり出てこようとして入口をぶっ壊してしまったみたいでな。調査に行ってきた奴らいわく、どこが入口だったのかわからんくらい崩れ去ってたとさ」


「そうなると、ゴーレム狩って魔石取り放題は……」


「無理じゃろな。それに半壊といっても、あくまで見える範囲だけで仮定した話で、中がどのくらい崩落してるかに至っては想像すらできんわい」


 がーん。


「もれもが、もごひほふめもーもごをもいもいひへ」


『何言ってんだかわかんねーぞ』


「あのなソルティナ、まずは口の中のものを一掃してから言ってくれ」


「ごくごく…………ぷはー! 冷たい水で喉を潤すのは最高ね。ミルクや果実酒ではこうはいかないわ。……で、何て言ってたかだけど、それなら、あの一つ目ゴーレムを解体しちゃえばいいって言おうとしたのよ」


「お前とはもう二度と口きかない」


「えっちょっと待って冗談だって。ねえって。そんなにヘソ曲げなくても……ってナナったらなにガッツポーズしてんの! ねえちょっとシオンってばぁ!」


『ひひ、とんだ失言だったなぁ。いやぁ、手強いライバルが勝手に大コケしてくれやがったぜぇ。ふひひひぃ』



 こうして、前々から乗り気だった荒稼ぎ計画は幕を閉じた。

 ソルティナの言うように、あのサイクロプスゴーレムを打ち壊せば相当大きい魔石が見つかるのは間違いないだろう。

 しかしだ。

 あんな高性能な巨大ゴーレムを潰すほど、今すぐ金に切羽詰まっているわけではない。なにより、地元の秘密基地にはまだまだ魔石の在庫があるのだ。

 まずは不死の王の隠れ拠点を調べ尽くして、噂の鉄鞭があればよし。なければ、その時はもう仕方ないので、この町にいるドワーフの総力を結集してもらうしかない。

 前金だけでも払っておいて、完成の一報が届き次第、魔石を売り払って工面した残りの代金を持って、リュムレインへと再び駆けつければいいのだ。




「ねえ、まだ怒ってる?」


「もう怒ってない」


 食事をかき込んでさっさと切り上げ、機嫌取りで俺の肩を揉んでいたソルティナが、その言葉に安心して、気が抜けた溜め息をついた。


「それにしてもわからない」


「えっ、何が?」


「サイクロプスゴーレムのことさ」


『それなら結論出たろ。あのデケェのが、器用にも保護色のスキルなんぞ使って、姿を隠してたってなぁ。それでもあの体格と重さだ。歩くときの音や振動でバレちまうはずが、他のゴーレムどもの出す音とかに混ざって、わかりにくくなってたんだろうってよぉ。それで町の連中も油断して出撃したのが運の尽きってこったろ』


 そう。


 朝食のあと、全員で宿から出て、確認のためロードスに命令させたら、本当にあの威圧感あふれる巨体が周囲に溶け込むように消えていったのである。

 ……なんだけど、まあ、俺の目までは誤魔化しきれなかったみたいで、他の面子が本当に見えないマジで見えないって騒いでる間も、ぼんやり見えてたんだが。

 それでも遠目ならわからんなこれ。


「それじゃない。今まで砦の中でさまよってた連中が、何で今回この町を狙ったかってことだ」


「スタンピードってそういうものよ? 理屈じゃなくて、とにかく人間が多くいる場所めがけて一斉に突っ込んでくるものと、相場が決まってるわ」


「わざわざ自分の巣をぶっ壊してまでやることか?」


「それはそうね」


『確かに、腑に落ちないっちゃ腑に落ちないわな』


 ナナがサイクロプスゴーレムの足を、拳でコンコンと叩く。


『魔物ってのはよ、基本的に、生息地に見合ったデカさで収まるもんなのに、ねぐらの入口から出れねぇくらいこんな膨れ上がるってのは、まあ、育ちすぎだよなぁ』


「つまり、突然変異? だとするなら……いや、それってまさか」


 ソルティナが何かに気づいて、ハッと顔を上げた。


「今回の一件も、地脈に流された汚れがもたらした災害のせい……そう言いたいのね?」


『あくまで予想さ。けどよぉ、当たらずとも遠からずってとこじゃねぇか?』




<ちょいちょい>


「んぅ?」


 ロードスにズボンの脛辺りを引っ張られ、そちらを見ると、耳を貸せというような手招きの仕草をしたので、俺はしゃがみこんで顔を近づけた。


<先程の件だが、該当する者は、恐らく自分である>


「なんだって?」


<自分が自我を確立した際、つまり、自分が現世に発生した時、極めて不浄な大地の霊気を大量に感知。よって、自分が支配下に置いたこのゴーレムは、単なる自然発生の模様>


「……そうなんだ」


 黙ってた方がいいな。


 鎮まったとはいえ、ソルティナの中でこいつへの怒りがまだ炭火みたいにくすぶってるかもしれない。こんなこと教えたら、絶好の理由ができたとばかりに意気揚々とこいつを破壊しそうだ。改名で済むかもしれないが。


「黙っとけ。俺も聞かなかったことにするから。お前も改名したくないだろ?」


<激しく了解>



 という感じで、毎日のように内緒事が増えていく中、俺達一行は、不死の王の研究施設である蛇っぽい名前のところにいよいよ向かうのだった。

今週は火曜、木曜、土曜の同時刻に投稿します。

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