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その16・なんで聖女ってすぐ処刑されるん?

 俺のマントで裸体を隠している聖女ナナには、アヴァニース王国の連中によってたかって首を刎ねられて心臓まで抜き取られる惨殺という名の過去があった。

 王国の滅亡と伝説の一人歩きによって殉教の聖女として認知されたが、恨みはまだ忘れてはおらず、機会さえあればあのクソ国王ぶっ殺してやんよというスタンスをとっている。




『あ~~、どっから話せばいいかな…………ま、俺がどこの何者かってとこから教えてやるべきだろうなぁ』



 ナナは、仇が既にこの世にいないと知って拍子抜けしたのか、初対面のときのならず者みたいな態度とはうって変わって友好的に語り始めた。その仇を滅ぼした本人がここにいるというのも軟化した理由の一つなのだと思う。


『王国と隣り合ってる、どこの国の領土でもないデカい草原があったんだが、俺はそこを縄張りにしてる大部族の長の娘でさ、ルネーナって名前だったんだ。そん時はまだな』


 過去をじっくり噛みしめるように振り返っているのか、ナナが遠い目をしていた。まあ片方の目は空洞が赤く光ってるだけだが。


『で、八歳のときに、部族の儀式でマイアナって女神さまの祝福を受けて『大地』という力の導き手になったわけよ』


「導き手……ああ、私たちが言うところの属性ね。古い呼び名でそういうのがあったって聞いたことがあるわ。今は廃れたみたいだけど」


『そーなのか? 呼び方なんてどうでもいいけどな。……んで、そっから、狩りで下手こいた仲間の傷とか治したり、作物がよく育つよう畑に祈ったり、枯れ木をまた果物が実るように元気を与えたりしてたら、なんか知らんが聖女って呼ばれて、名前にナーディマがつくようになったんだよな』


 妙に長い名前だと思ったらそういうことか。疑問が一つ解けた。


「その、ナーディマって言葉はどういう意味なの?」


『悪いモノを追い払う聖なる霊とか獣とか、そんなのを、まとめてそう呼ぶんだとさ』


 ついでに言うと、ルネーナってのは丈夫な樹とか枯れない花とかそんな意味らしいぜ、とナナは補足してくれた。


「王国の王女にして聖女とか、適当なそれっぽい後付けだったってことだな」


「そっちのほうが受けがいいってことでしょうね。高貴な血筋の女性がその身を捨てて国と民を守った……とか、清廉な美談すぎて聞いててむず痒くなってくるけど」


『その身を使い潰させて国と民を守らせたじゃ、耳が痛いだろうしなぁ』


「民衆なんてそんなものよ。何もしなくても優れた誰かがどうにかしてくれる、そうやって自分を騙してダラダラ生きている連中が大多数だもの。そのくせ助けてあげたら感謝もそこそこに腫れ物扱いや陰口を叩くようになるから、ホントに笑えないわね」


 経験者は語るってやつだな。

 平和のためにどれだけ尽力しようと、とどのつまり「自分たちの危機を救ってくれてありがとう! でも怖いし邪魔だから消えてね!」というのが『民』という生き物の本質だと死ぬほどわからされただけのことはある。

 けどよくこんな怪力女どもを迫害できるな……ドラゴンの顔に唾を吐きかけるよりやばいだろ。



「それ以後の展開は想像がつくわ。王国……というより国王が強引に軍隊でも派遣して部族の人々を人質に取り、悪魔の軍勢をどうにかできたら解放してやるとか言われたんでしょ?」


『ああ』


「そして、実際にどうにかした結果………………あんたはそうなったと」


『信じた俺が馬鹿だったってことさ。あの腐れヒゲは、約束通り部族の連中は助けてやるわいとか偉そうにほざいていたが、今となってはそれも疑わしいモンだぜ。だいたいよぉ、悪魔どもが国に溢れかえったってのも、クソ国王がやらかしたせいだしな』


「あら、そうなの?」


『悪魔どもを地獄に追い返す儀式でヘトヘトになった俺の首を刎ねる前に、堂々と言いやがったんだよ。不死の儀式とかいうのをやるための呪法を知るために大悪魔と取引したが、交渉が上手くいかず決裂しかけたんで、仕方ないから国民の命と魂で賄おうとしたってなぁ』


 おいおい。


「それはクソね」


「国の私物化が酷すぎる」


 どこの国の暗君が一番ひどいかって議論したら真っ先に候補になりそうだな。


『俺にもクソ国王にも予想外だったのは、俺が死んですぐさま、アンデッドとして動き出したことだろうなぁ。あの野郎の取り巻きの魔術師どもが騒いでよ。聖女の力が暴走したとか、いや反転だとか、この神殿の霊気がどうだとかゴチャゴチャとよぉ』


「神殿? えっ、ここって神殿だったの? 確かに財宝の類が全くないのはおかしいなと思っていたんだけど………………あっ」


 キョロキョロと辺りを見回したソルティナの視線が一ヶ所で止まった。

 その方向、つまり封印されていた門から入って正面の一番奥に、半身が崩れた女性の像らしきものが台座に座っていた。きっと女神マイアナの像だろう。


『マイアナって女神さまは地母神だからな。神殿は地下ってのがお決まりなんだとよ。しっかし、敵対する奴には容赦のない一面もある女神さまのお膝元で、聖女の俺を殺して心臓抉り出すとか、そりゃ何かしらの祟りはあるよなぁ、ひひひ』


「封じられていたってことは、国王と取り巻きはあんたをどうにか抑えられたわけか」


『ああ、クソ国王の側近にやけに強えぇ魔族がいてよ。今みてえに本調子ならよかったが、くたばってすぐに動き出したばかりで、しかも恨みで頭が煮えたぎってた俺には手に余ってな、眠らされてあの寝床に突っ込まれたってわけよ。あのビリビリ野郎、強かったなぁ。……なあ、あいつってまだこの世にいるか? あいつが実はクソ国王を操ってた黒幕だったとか、そんなことはないよなぁ?』


「いるというか、いたわ。黒幕ではなかったけど確かに強かったわよ、あの雷雨の属性の魔族。もしかしたら、不死の王に大悪魔の召喚方法を教えたのは奴だったのかもね」


『そっか』


 過去形ってことはそういうことですねわかります。




「それで、あんたはこの先どうするんだ?」


 ナナは下唇を突き出し、右に行ってはまた左に……というように意味なくウロウロしながら悩みだした。


『どーしたらいいのかなぁ……。復讐したい相手も国もなくなっちまったし、二百年も経ってたら、家族や仲間もみんな墓の下だろうしなぁ。だからってここでふて寝すんのも、それもどーなのかって話だけどよ』




「……………………ひらめいた」




 ソルティナが右の拳で左の掌をポンと叩いて、不穏なことを言った。


「嫌な予感しかしないが、まあ言ってみてくれ。聞くだけは聞く」


『え、そんなにやべー提案しかしないのか、この嬢ちゃん』


「聖女だからな」


『俺もだぞ』


 いつもの調子で軽口を叩いていたら口が滑った。

 これからは聖女って単語を変人の代名詞として安易に使えないな。二人同時に敵に回すことになる。


「それはそれ、これはこれだ。それより何を閃いたのか教えてくれ」


『強引に話を反らしやがった…………ソルティナっていったか、お前よぉ、普段どんな無茶をこの坊主に押し付けてんだ?』


「この子はちょっと心配性なのよ」


「心配性にもなるだろ。手綱なしで怪物に散歩させてるような生活送ってるんだからな」




 関節技対決の第二ラウンドの鐘が地下神殿に鳴り響いた。

火曜日から金曜日まで、毎日同時刻に一話ずつ投稿予定です。

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