act.14「珠々奈って呼んでも良い?」
少女の背中は思っていたよりも簡単に見つかった。
「おーい、待ってよー!」
俺が声を掛けると、その背中は一瞬ビクッと揺れて、その場に静止した。
そして、振り向くことなく、一言。
「何の用ですか?」
その声色には、明らかに負の感情が篭っていた。
めちゃくちゃ嫌われてますやん。
「いやぁ、実はまだこっちに同年代の知り合いがいなくて、心細かったんだよね」
「そうですか。それは大変ですね。それじゃ」
少女はスタスタと先に行こうとする。
「ちょっとちょーっと!」
「……まだ何か?」
うわ、なんだよその面倒臭そーな顔は。
「速水珠々奈さんだよね? なんて呼べば良いかな? 珠々奈とか?」
「そんなの勝手にしたら良いじゃないですか」
だったら勝手にしますけども。
「珠々奈はさ――」
「――ちょっと馴れ馴れしくないですか?」
いやたった今、勝手に呼べば良いって言ったやろがい。
俺は珠々奈の言葉を無視して続ける。
「――珠々奈はさ、何年生なの?」
「……高等部1年ですけど」
珠々奈は渋々ながらも答える。
1年生か……。
千景さんから聞いた話だと、確か俺は、2年生として編入するらしいから……。
「じゃあ、私の方が一年先輩だ」
「魔法少女歴で言えば圧倒的に私の方が先輩ですけどね」
いや、確かにそーかも知れないけど。
「あなたなんかより、私の方がずっと、先輩なんですから……」
珠々奈は悔しさを滲ませながら、独り言ちる。
「……やっぱり、さっき勝手に怪異を倒して手柄を横取りしたこと怒ってる?」
まぁ、確かにあれは良くなかったかもしれない。
でも、楠木さんも悪いのだ。
珠々奈1人では倒せないなんて不安を煽るようなこと言うから、急いで助けに向かった挙句あんなことになってしまったけど……あんなに簡単に倒せてしまうなら、俺がわざわざ出しゃばるべきではなかった。
俺が出向かなくても、もしかしたら珠々奈1人で倒せていたかもしれないし。
「私もさ、初めての実戦でテンパってたっていうか……」
そう言うと、珠々奈がこちらに振り向いて、こっちを睨んだ。
「あのチカラが、テンパってた人間のものだって言うんですか?」
「で、でも……マグレだよ、きっと! 珠々奈もさっきそう言ってたじゃない? きっとそうだよ!」
「そんな心にもないことを言って……これだからSランクは嫌いなんです」
「……Sランク?」
耳慣れない言葉が出てきて、聞き返す。
すると珠々奈は、信じられないものを見るように俺を見た?
「冗談ですよね……? まさかランクのことも知らないんですか?」
「えっと……うん」
俺は一瞬迷ったものの、ここは素直に頷く。
正直、魔法少女のことについてはほとんど何も教えて貰ってない。
今日までが怒涛すぎて教わる時間がなかっただけかもしれないが、それにしても知らなすぎる気もする。
俺の反応に本当に知らないことを悟ったのか、珠々奈は大きくため息を吐いた。
「……なるほど。要は学院長の傀儡って訳ですね」
そして珠々奈は、前に向き直りまた歩き始める。
「これ以上話していてもあなたと話していても無駄なので、お先に失礼します」
「あっ、ちょっ……」
新たに声を掛ける間も無く、珠々奈は去って行ってしまっていた。
正直言って、何も進展していない。
千景さんは、珠々奈の心を開けって言っていたけど……ちょっと無理ゲーすぎないか、これ?
「……はぁ、部屋に戻るか」
こんなところでひとりで落ち込んでいても仕方がない。
珠々奈のことが若干心残りではあるものの、俺は大人しく自分の部屋へと戻ったのだった。
◇◇◇
部屋に戻った俺を、支給品のシンプルなベッドと机、それから唯一元の部屋から持ってきた写真立てが出迎えた。
俺は、机の上に置いていたその写真立てを手に取る。
写真立ての中に入っているのは、見慣れた写真――少女2人が映った写真だ。
少女のうちの1人は、珠々奈をそのまま小さくしたみたいな子だ。
「やっぱこれ、珠々奈なのかなぁ……」
だとしたら、なんで俺は、こんなものを持っていたんだろうか?
そして、写真の中の……もう1人の少女。
そちらも当然、俺に心当たりはなかった。
――誰なんだろう、この少女は。
分からない。
だけど、この写真を――俺は絶対に捨てたりしちゃいけない。
それだけは、何となく分かってしまうのだった。
「……あぁ、やめだやめ」
俺は写真立てを机に置き直し、そのまま背中からベッドにダイブした。
「……疲れた」
性転換してから、今日まで2、3日しか経ってないのに、怒涛の展開すぎて物凄く長く感じた。
珠々奈のこととか、正直問題はまだ山積みだけど。
急いだってしょうがないからな。疲れも取りたいし、今日は早めに休むか――。
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