第八十四話 新たな武技と龍人族
「お、やるようになったなっと! 」
「連撃! 連撃! 連撃! 重撃!!! 」
「そうはいかねぇ! ハッ! 」
「ぐぉ!!! 」
何十連撃も繰り返したのち重撃でガルムさんの体本体に切りかかる。
だがそれをあたかも予見していたかのように紙一重で躱し、俺の腹に一撃を加えた。
そして俺は今グロッキーな状態である。
次の獲物と言わんばかりに横で見ていたケイロンを見つけ、勝負を挑み始めるガルムさん。
ここまでくるともはや戦闘狂である。
ギランギランとした目がケイロンを襲い、また木剣が交差する音が鳴り響いた。
「ラララララァァァァ! 」
「くっ! 」
「……武技を使ってないのにあの速度ってどういうことですか」
ガルムさんの剣撃の速さと重さにドン引く。
外から見るとあそこまで早いのか。
良く俺は受けれてたな。遠い目で二人の剣捌きを見ながら考える。
以前は一方的にやられていたが日々の訓練により使用できる武技の範囲が広まった。
連撃と重撃そして跳躍である。
文字通り連続で攻撃する武技と渾身の一撃を与える武技そしてジャンプをする武技である。
連撃の場合、普通の連続した攻撃と違うのはその切り返しの速さが異常に速いことで、重撃の場合は最大限以上の力を籠めることが出来るという点である。また跳躍は通常のジャンプの数倍以上跳ねることが出来、また着地の時に衝撃が緩和されているようだ。
今回連撃から最後の重撃で一矢報いようと思ったのだがだめだったようだ。
「負けませんよ! 」
ケイロンが細剣を模した木剣でガルムさんの木剣を弾く。
が、ガルムさんの方が一枚上手だったようだ。
すぐさま剣を戻し高速で剣で攻撃を始めた。
「くぅ」
「あめぇ!!! 」
ケイロンの剣を弾き飛ばしたと思うと蹴りを入れて壁の方向へ吹き飛ばした。
「跳躍! 」
俺はグロッキーから回復し、足をしならせてケイロンの所へ行きキャッチした。
「ナイスキャッチ! 」
「ナイスキャッチじゃないですよ。ガルムさん。何ケイロンを吹き飛ばしてるんですか」
「わりぃわりぃ。だがよ、仕方ないのかもしれねぇが一撃が軽すぎるぜ、ケイロンの嬢ちゃん」
「嬢ちゃん? 」
「あ。これ秘密だったんだっけ? 」
「……ばらしましたので大丈夫ですよ。それよりデリク。降ろしてくれないかな? 」
顔を赤らめケイロンがこちらを見上げた。
おっと、これはいけない。所謂お姫様抱っこ状態だった。
一旦彼女を降ろし、服を整えガルムさんの方を見る。
「ガルムさん、気付いていたのですか? 」
「……むしろ良く今まで気付かなかったな。俺達獣人族は人族よりも鼻がいい。多分獣人族なら誰でも気付いてるんじゃないか? 」
ガルムさんの一言で俺は打ちひしがれた。
マジですか。俺だけですか。気付かかなかったのは。
と、言うことはフェルーナさんとフェナも気付いているのか。
エルベルも気付いていたようだし、スミナはどうだ? 気付いてそうだな。
はずっ! 俺だけかよ……。
「パパ! お客さんよ! 久しぶりのお客さんよ! 」
「お、ホントか! 今行く! 」
フェナが元気いっぱいにガルムさんを呼びにきた。
新しいお客さんのようである。
フェナは嬉しさのあまりかはち切れんばかりに尻尾を揺らしている。
ガルムさんはこちらを振り返り瞳を向けた。
「すまねぇ。今日はここまでだ。また明日だ」
「「はい!! 」」
ガルムさんは木剣を倉庫に戻すとすぐさま宿の方へ行ってしまった。
「僕達どうしようか」
「お客さんってのも気になるな」
「行ってみるの? でも仕事の邪魔はいけないよ? 」
「見るだけだって。さ」
そう言い俺は立ちケイロンに手を差し出す。
ケイロンもそれをとり手を繋ぎ二人で宿の中へ入っていくのであった。
★
宿に入った俺は即座に後悔した。
これはないだろ……。
俺の頭の中で今の状況を笑うエルベルとそれにつかかって喧嘩するスミナが思い浮かぶ。そして目の前の人物——執事服を着た男性だ。騒動しか起こらない。
「執事だね」
「執事だな。貴族様か? 」
「みたいだね。でもなんでこの店にきたのか……あ」
「ケイロンを連れに来たんじゃないか? 」
「いや多分違うよ。あの執事の頭の方を見てごらん」
「頭? 」
「角があるでしょ。鹿のような角。あれ、龍人族の特徴だよ」
裏口から入った俺達は受付の方をそーっと見て、分かったことをケイロンが指摘する。それを聞きパッと執事の方を見る。
龍人族ですと?! この前の吸血鬼族もそうだけどなんでこの国にはそんな希少種が多くいるんだよ!!!
しかも龍人族の貴族?!
「角が青だから水龍人だね。正確には龍人族水龍人ってとこかな。水龍人で貴族と言うと……まさか?! 」
「え? まさか知り合い? そんなことないよね? 」
「い、いやぁ……この時期だし。ドラゴニカ王国から来たという可能性もあるし。うん。多分違う」
水龍人の執事が台帳にササっと記載すると扉を開けにその場を離れた。
その隙にこそこそっと腰を低くしてガルムさんの下まで移動する。
ガルムさんもかなり緊張したようだ。今俺達が下にいることに気が付いてない。
「ガルムさん、ガルムさん。どうなってるんですか」
「うぉっ! なんて所にいるんだ?! 」
「しー!!! で、誰かわかりますか」
「……言えるはずねぇだろ」
俺達は小声でやり取りする。
今はフェナはいないようだ。多分失礼があってはいけないと思いフェルーナさんが事前にどこか移動させたのだろう。
「さっきのって水龍人ですよね? まさかとは思いますが……」
そう言い切る前に扉がゆっくりと開いた。
最初に現れたのは帯剣している騎士だった。彼らが中に入り安全を確認し扉を支える。
次はメイドや執事のような使用人だった。彼らはそれぞれ横に並び主人が入ってくるのを背筋を伸ばして、待つ。
そして一人の水龍人が現れた。
机の下からそーっと見て最初に気が付いたのはその角であった。鹿の角のような形状に水色で透き通った角。扉の向こうから差し込む太陽の光を浴びて輝いている。まるで宝石のようだ。そして何より周りにいる他の龍人よりも二回りも三周りも大きい。
次はエルベルと同じくらいの高い身長だろうか。一歩一歩前に進むにつれてその身長の高さが分かる。体つきは比較的スマートで肌白いくあまり特徴的ではない。
しかしそれを弱点としないほどの、いやむしろそれを存分に生かした顔をした女性であった。
『麗人』
この一言が最も適切だと思う。
が、纏っている雰囲気は冷たいものそのものだ。
服の影響もあるかもしれない。青を基調とした服に金色の刺繍が施されている長いドレス。
種族のせいか原因が他にあるのかは分からないが、少なくともここからは冷たさが伝わってくる。
そしてぼーっと見ていた俺達に気が付いたのだろう。
ゆっくりと顔を俺達の方へ向け、金色の瞳が俺達を射貫いた。
やべっ!
「あら? ケイロンじゃない」
「……やっぱりティナだったんだね」
ケイロンは――いつも俺の期待を裏切らない。
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