第八十三話 フォレスト・ウルフを討伐せよ! 四 報告と反省会
「こ、これは……。コホン。依頼完了を確認しました。今日からアンデリック様とケイロン様の冒険者ランクはD、エルベル様とスミナ様はEとなります。これにより種族の輪は護衛依頼を受けることが出来るようになりました。これからもよろしくお願いします」
「ちょっと待ってくれよ! なんで俺とちびっこドワーフが同じランクなんだ! 」
「へへ、わかってるじゃねぇか。受付のねぇちゃん」
咳払いをして依頼書を確認した金髪の受付嬢は俺達のランクアップを伝えた。
意外だったのはエルベルとスミナのランクが並んだところだ。
まぁ依頼の達成数を見ると意外でもないか。
が、エルベルが不服と言わんばかりに受付台に双丘を押し付けながら訴えた。
「エルベル様に関しては順調にランクアップとなります。またスミナ様に関しましてはこれまでの達成依頼数とゴブリン討伐、ウルフ討伐を考慮した上でのランクアップでございます」
受付嬢が目線を下げながら解説する。
エルベルは数の問題があったからな。それに対してスミナは入った直後から人数に物を言わせた方法で依頼をこなしていったから……まぁ妥当と言えば妥当なのだろう。
しかし受付嬢の目線が気になる。その先にはエルベルの巨大パンがあるが、どこか虚ろな目だ。
「ははは、これで追いついたぞ。駄乳エルフ! これからもよろしくな」
「くぅぅぅぅ! 覚えておけよぉ」
悔し涙を流すエルベルを引っ張り俺達は一礼して冒険者ギルドの建物を出るのであった。
★
「で、今日の反省会です! 」
「おー! 」
「くぅぅぅ」
「いっぺん引き締め直さないとな」
昼を過ぎた頃、軽いものを頼み昼食の代わりを食べた後俺達は机を囲んでいた。
やることはもちろん今日の反省会だ。
能力を制限していたといえ苦戦してしまった。
フォレスト・ウルフ相手にこれはいただけない。
「まずは、足場だ」
「山場だったからね。正直少しヒヤッとしたよ」
俺が最初の問題を言うとケイロンが苦々しい顔を浮かべた。
ケイロンが後ろから迫る相手に対処しようとした時、ぬかるみで足を盗られてしまい危なかった。
「踏み込みにくい場所はこれからも気を付けないとな」
「後は霧とかもだね。朝とかによく出るらしいから」
「霧を出すモンスターもいるぞ? 」
「どんな奴だ、エルベル? 」
「確か沼地にいる巨大なカエルのようなモンスターだったと思う」
「あったことがあるのか? 」
「遠目でな。それこそちびっこドワーフが飲まれるくらいの大きさはあったな」
それを聞き大きさを思い浮かべる。
スミナが巨大カエルに飲まれる絵面が浮かび上がり、少し笑えた。笑ってはいけないが。
が、沼地も気を付けないといけないな。あれもかなり行動が制限されそうだ。
「何か道具でカバーできない、スミナ」
「手っ取り早いのがやっぱりブーツだな。それぞれの環境に合わせた道具を事前に用意して対処する。これが一番だ」
「慣れようにも行くところによって微妙に違ってくるからね。確かに道具でカバーするのは一手だね」
「だがこれにも欠点がある。まず金がかかる」
「それは痛い。まだ俺とケイロンはDランクに上がったばっかりだ。特別報酬やお詫びで潤ってはいるが、無限じゃない」
「ああ。それに次の欠点にもなるんだが、その場所に合わせて買ってるとブーツだけで山のようになってしまう。つまり置き場所に困るってもんだ」
椅子に乗ったまま顎に手をやりそれぞれの欠点を言う。
お金に場所か。今の所、無理だな。それこそケイロンのように小袋が人数分あれば別なのだろうがそうはいかない。
解消すべき点だ。
「ま、素材がありゃ俺が幾つか作ってやるよ。場所だけ気にしてな」
「助かる」
「ありがと」
「……感謝する」
「「「エ、エルベルがスミナに感謝しただと?! 」」
「オレだって感謝することくらいある! 」
俺達が驚いた顔をすると彼女が反論した。
いや、今まで何かとスミナと言い争ってたからな。
今回もいちゃもんをつけると思ってたから、つい思わず。
スミナやケイロンを見るとどうやら俺と同じようだ。顔が驚きに満ちている。
まぁそれはともかく次だな。
「能力縛りでの作戦とは言えかなりきつかったな」
「ああ。だがよ。なんで最初から俺は戦士の咆哮を使ったら行けなかったんだ? アンやケイのように身体強化を最初から使わないのは何となく理由は分かるんだが」
「それは素の状態でどこまで戦えるか確かめていたんだよ」
「武技も最小限にして前衛と後衛の連携だけでどこまでやれるか。実際素の状態でもフォレスト・ウルフとそれなりに戦えただろう? ならこれから先もEからDランクの依頼を受けても大丈夫ということが証明されたわけだ。指揮官がいたのは予想外だったが」
頭に疑問符を浮かべるスミナにケイロンと俺が説明する。
が、指揮官は予想外だったな。勝ててよかったけど。
群れ同士を繋げる相手、か。厄介極まりない。
そう言えば……
「なぁケイロン。フォレスト・ウルフの時は指導者と指揮官が統率してたが他のモンスターだとどうなるんだ? やっぱり上位統率者のようなモンスターがいるのか? 」
「そうだね。種類によって呼び方が変わったりするけど一般的なのは将軍と王かな。後はヴァンパイアの下位や上位もそうだけど……やっぱりフォレスト・ウルフのような魔獣型モンスターと魔人型モンスターとでは役割が違うと思うよ」
ケイロンが説明し、全員が「なるほど」と言う顔をして頷く。
厄介だな。フォレスト・ウルフの指揮官でこれだったんだぞ。正直これ以上の脅威に会いたくない。
「何だらしない顔してんだ、リーダー」
「デリクならやってけるよ」
「何ならオレが変わってやろうか?」
「「「それだけはダメ!!! 」」」
そうだな。気を引き締めていかないとな。
顔を叩き、気合を入れる。
「よし! これからも頼む! 」
「「「おう (うん) !!! 」」」
★
冒険者ギルドサブマスターの部屋。
ミッシェルとアンデリック達の応対している受付嬢が対峙していた。
「何故アンデリック君達のランクを上げないんですか?! 実績は十分だと思うのですが」
「それに関しては以前に話した通りです。規約を違えることは出来ない、と」
「ですが! 」
アンデリック達の討伐実績に対して評価が低すぎることに異議を申し立てにきた受付嬢。だがそれも虚しく規律を重んじるミッシェルには届かない。
「言わんとしていることは分かります。討伐難易度Bランクであるデビルグリズリーやとヒュージ・スケルトンの討伐。実力だけならAまで行かずともBやCはあるでしょう」
「なら! 」
「しかしだからと言って規定を超えてのランクアップは認められません。まだ死なないように経験が出来る期間なのです。じっくりと経験を積み、順当に上がればその時盛大にお祝いしてあげれば」
それを聞きこれ以上は無駄だと感じたのだろう。受付嬢は一礼して部屋から出ていってしまった。
「久しぶりに現れた『Sの壁』を超える可能性を持った者達なのです。金銀夫婦の元で修業しているようですし……そう易々と死なれてはいけませんからね」
机の上にあったコップで喉を潤し、ミッシェルはまた書類の山に塗れるのであった。
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