第八十二話 フォレスト・ウルフを討伐せよ! 三 依頼完了
「うりゃ! 」
「この! 」
最早素材など気にしていない。
出来る限りの力を振り絞り茶色い脅威を切り刻む。
「セ……この! 」
「引いた?! 」
「ここは任せろ! こっちこいやぁぁぁぁ!!! 」
挑発を使ったスミナの影響で強制的にスミナの方に惹きつけられるフォレスト・ウルフ達。
そして彼女を大盾ごと食いちぎろうと飛びかかるも……
「ははは! 狙撃!!! 」
いくつもの精霊魔法が矢となってウルフ達を貫き地面に穴をあけていた。
俺とケイロンはそれに驚く暇もなく次の獲物に取り掛かる。
牙で攻撃しようとしてくるウルフの動きが――ぶれた。
先読みの発動だ。訓練により徐々に発動をコントロール出来るようになっている。
次は、跳んでくる!
ジャンプした直後にウルフの下に滑り込み下から上に一閃。
だが三メルほどある巨大なフォレスト・ウルフが俺を踏みつぶそうと移動していた。
「そうはさせんぞ! ほら!!! 」
エルベルが威嚇射撃を行い注意をアンデリックから逸らす。
ドゴン! Gyurururu! ドゴン! ……
その間に態勢を立て直し、もう一体切り刻んだ。
「ワタシも受けてばかりじゃいけねぇよな。少しくらい減らさねぇと」
スミナが独り言ちると腰にかけていた大きなハンマーを片手で取り出す。
ゴン!!!
また一体大盾にぶつかったようだ。
ゴン!!!
「へ! 受けて見な、ワタシ特製の双魔の大槌をっ! 」
ゴン! と音が鳴った瞬間大盾をずらしフォレスト・ウルフの脳天に一撃振りかざす。
するとフォレスト・ウルフの頭蓋ごと地面が陥没し、絶命した。
地面が揺れ、相手が足場を崩す。
事前に知らされていた通りに動きアンデリックとケイロンは強化された体で移動し、次々と首を落としていった。
指揮官がエルベルとスミナを脅威認定したのだろう。
頭をスミナ達の方へ振り配下にある主導者に攻撃するように指示を出し、残りのウルフを差し向かわせた。
一体一体とエルベルの精霊弓の餌食になる中、数体のウルフ達がスミナに辿り着いたと思うと、ニヤリとスミナが笑う。
「まだまだだ! ほらよ! 連撃!!! 」
スミナが持っている大槌が赤くなり炎を纏う。
それをぶんぶんと振りかざしながら一体ウルフを焼き潰す。
炎に恐れたのかその威力に恐れたのか後退するとそこにはアンデリックとケイロンがおり――二人の刃の餌食となった。
★
「最後は指揮官だね……はぁはぁ」
「ああ。だがあと一体だ」
俺はちらっと地面を見た。
死屍累々とはこの事だろう。
ケイロンもかなり消耗しているようだ。
慣れない山での戦闘。これほどにきついとは。
どんな場所でも実力を発揮できるようにするのが冒険者と言うのは分かるが……正直たかがフォレスト・ウルフと侮っていた。
上位種が連携することでこれほどに違いが出るとは。
スミナがいたから何とかなったが、いなかったことを思うと背筋が凍る。
「中々硬いな、こいつ」
ドッ! ドッ!
と、俺の体の二倍以上あるフォレスト・ウルフに容赦なく風の矢を打ち込むエルベル。
今のエルベルの風の矢でも相手をよろめかせ、移動を阻害する程度か。
が、いけるな!
「よし! これから全力で行こう!!! 」
「よし来た! 」
「了解!」
「待ってたぜその言葉を! じゃ、ワタシからだな! うぉぉぉぉぉぉ! 戦士の咆哮!!! 」
スミナの武技の発動により俺とケイロンの体に力がみなぎる。
「次はオレだな! 受けてみよ! この風の矢を!!! 」
一気に小精霊達がエルベルの弓に集まり複数の光球を作り出す。
そして一斉にそこから解き放たれ四つの光球は矢となり的確にフォレスト・ウルフの膝を貫いた。
「Garururururururu!!! 」
悲鳴ともとれる音を放ちながら指揮官は崩れ落ちようとしている。
俺とケイロンは並走しながら剣を構えた。
「跳躍! 」
ケイロンが武技で青い残像を残しながら巨大なウルフの上をとる。
俺は剣を構えたまま膝をつこうとしている茶色いウルフの下をとり――
「「斬撃!! 」」
ケイロンが上から剣を振り下ろし、俺は下から剣を振り上げ、指揮官の首がポロリと落ちた。
もう村を脅かすウルフはいない。
★
「おお……ご無事で! 」
俺達が戻ると村長達村人が出迎えてくれた。
総出で出迎えられ照れくさい。
話を聞くところによると山の方からウルフの咆哮が聞こえて何事かと思ったと。
それでもしかしたら俺達に何かあったのかもと心配してくれ、外で待ってたみたいだ。
あれだな。他の群れを呼んだ時のあの咆哮だな。
「お兄ちゃんありがとう! 」
「すげー! あのウルフ倒すのすげー!!! 」
村人達が群がってくる。
大人からはお礼が、子供からは称賛が送られて来た。
恥ずかしながらも無事なことを伝え、お礼と称賛の言葉を受け取る。
横を見ると子供達に無垢な目で称賛されてたじろぐエルベルがいた。
いつもなら調子に乗りそうなのに珍しい。
っと、村長に頼み事をしないと。
「あー、コホン。村長、いいですか? 」
「何でしょうか? 」
笑顔でこちらを見てくる村長。
五年くらい若返った感じがするのは気のせいだろうか?
余程フォレスト・ウルフ達が悩みの種だったと見た。
「俺達はこの後の便で帰ろうと思います」
「ええー! なんでだよ! とまってけよ! 」
「坊や、いけません。まだお話の途中です! 」
「だがよ。このまま返しちゃ、村の名折れじゃねぇか? 」
「あら、この村に名前なんてあったかしら」
「……今から考えんだよ」
子供達とは別に夫婦漫才が繰り広げられていた。
そして小さい子が目を輝かせこちらを見てくる。
その期待を裏切るようで心が痛い。
「フォレスト・ウルフの討伐証明部位である牙と魔石、そして取り切れるだけの毛皮はとっているのですが……」
「ほほほ、その後処理の事ですな」
「はい。申し訳ありません。採取できたウルフは燃やしたのですが、まだ素材として残せるウルフもいました」
「なのでまだ売れる個体は残しています。後処理の対価としてまだ残っているウルフの毛皮を差し出せれば、と」
俺とケイロンがそう言い切る前に村の男衆がリアカーを持ってきた。
その手早さに驚きながらも「構いませんよ」と言うと「ありがとよ! 」と早速山へ向かって行ってしまった。
「騒がしくて済みませぬな。復興の事もあってのあの張り切りようなのでしょう」
「ははは! 持ってくがいい! 」
「ま、いいんじゃねぇか。俺達も採り切れなかったんだしな」
「魔石だけでもかなりの物になるね」
「と、いうわけであとはよろしくお願いします」
「任されましたぞ」
そう言い村長は依頼完了のサインを書き依頼書をこちらに渡してきた。
それを受け取り手を振りながら、次にこの村を通る馬車の便で俺達はバジルの町へ戻るのであった。
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