第七十九話 フォレスト・ウルフを討伐せよ! 一 準備
「なぁケイロン。後何が必要だっけ」
「ええ~っと食料と薬関係かな」
「オレはパンがいいぞ! 」
「ワタシは食えりゃぁなんでもいいや」
俺達は今混雑した市場にいた。
午前中にFランクの依頼をいくつか受けて明日の依頼の準備をしている。
今回の依頼は俺達に合わせる形となった。
「明日はフォレストウルフの討伐か」
「ちびっこドワーフ、ビビってんのか? 大丈夫だ! 俺が後ろから叩き潰してやろう! 」
「この駄乳エルフ。ワタシがビビるわけねぇだろが! まだ鉱山の方がよっぽど危険だ! 」
「鉱山か。いつかは依頼があると思うから行かないといけないけど、そんなに危険? 」
「ああケイロン。危険だ。まず武器が限られる。それに暗闇に慣れるまできついかもな」
「俺は短剣の練習でもしていた方がいいのか」
「そうだな。長剣はきついかもな。長すぎる」
「……今の内にドルゴさんの所へ行って短剣をもう一本増やしておくか」
「ま、待ってくれ。出ていった手前すぐに戻るのは……恥い。もう少し、もう少し時間をくれ」
「ハハハ、いざと言う時は精霊様の加護でどうにかしてやる。頼るがいい」
「「「不安しかない……」」」
話しながら混雑を分けていくとドライフルーツを売っている店があった。
茶色い屋根の簡素なテント。店と言うよりかは野営のようだ。
恐らく時々こうやってくる行商か近隣の村から来ている人だろう。
「この干しベリーを……いくつ? 」
「いえ、私に聞かれても」
個数が分からずつい店員さんに聞く形になってしまった。相手は少し溜息をついた。
ケイロンの方を向き、確認する。
「四人だから……そうだね。百あればいいんじゃないかな? 」
「じゃぁ百で」
「はいよ」
店員がベリーが入った袋を一つこちらに渡してきたので手を伸ばし受け取ろうとするがケイロンと手が触れてしまった。
が、それを気にせず受け取りケイロンの小袋に入れてもらう。
ふぅ。中々にきついぜ。女の子とわかってから意識をしないようにしているが、こう接触があるとどうしても意識してしまう。討伐依頼よりも厳しい……。
まぁケイロンも気にしていないようだし、そのまま行くか。
こうして順調に買い進めていくのであった。
★
デリクは少し僕の事を女の子として扱ってもいいんじゃないかな?
次の依頼の必需品を買いながらケイロンは一人そう思っていた。
大体さ。こんなに女の子に囲まれて何ヘラヘラしてるのさ。
僕だって……。
歩きながらエルベルを見る。
そして手を胸に当て、絶望する。
あれは、仕方ない。そう。仕方ないんだ。
緑のジャケットの下のパツンパツンになった黒いインナーにほっそりとした足。
武器を通り越して凶器だよ。
「ケイロン。どうした? 」
「いや、なんでもないよ」
「オレの方を向いてたがなにかあったのか? 」
「……現実の理不尽に打ちのめされてただけだよ」
「なんじゃそりゃ」
「気にしないで、デリク」
「おや、アンデリックとケイロンじゃないか。久しぶりだね」
声がする方を見るとそこにはクマツさんとベアおばさんが仲良く蜂蜜を売っていた。
売っている物は蜂蜜だけでなく柑橘系の保存食全般なのだがどうしても蜂蜜のイメージが頭からはなれない。
僕達は道を行っている間にどうやらこの店の前を通りすがろうとしていたようだ。
「「お久しぶりです! 」」
「ああ、久しぶりだ。お、スミナちゃんじゃないか。冒険者になれたのか? 」
「そっちのエルフの嬢ちゃんは初めてだね。私はこの店のベアよ」
「俺はクマツだよろしく」
「久しぶりだ」
「オレはエルベルだ! 」
自己紹介をして二人に手を振るクマツさんとベアおばさん。
そっか。スミナはこの町で暮らしていたからこの二人と顔見知りなんだ。
「何か買っていくかい? 」
「お、いい匂いがするぞ! 蜂蜜か! 」
「店自慢の蜂蜜だ。一瓶どうだい? 」
「買った! 」
匂いに釣れられエルベルが速攻で蜂蜜 (小)の瓶を買ってしまった。
お金と同時に瓶を受け取る彼女。
瓶から漂ってくる良い匂いを堪能しているのかご満悦な顔をしている。
「では俺達はこれから行くところがあるので」
「すみませんが」
「いいよ、いいよ。また今度依頼を受けてくれよ」
「「「はい!!! 」」」
こうして僕達は次の目的地である商業区の薬屋へ向かった。
★
薬屋『アルケミナ』。そう看板には書かれていた。
そう看板には『薬屋』と書かれている。
「なんだ……。この禍々しい店は」
「え? あれ人骨? 本物じゃないよね? 」
目の前には人の頭の骨を模したであろう飾りが置いてある。
更に横にはカラスの羽に骨を組み合わせたオブジェ。
極めつけは――
ドゴン!!!
「うぉっ! 」「きゃっ! 」「「わっ!!! 」
奥からしてきた爆発音だった。
急に鳴った音に吃驚したのかケイロンが俺にくっつく。
甘い香りがするが、目の前の光景が全部台無しにしている。
「は、入って……見るか? 」
「この中に入るの?! 」
信じられない、といった顔をしてケイロンが聞いてくる。
だがやっと見つけた薬屋だったんだ。
「幾つかあたってもなかったからな。これが最後のチャンスかもしれないし」
「で、でもぉ」
「お、お、おいデリク。本当に行くのか? 」
「ん? 中から鉄の臭いがするぞ? 」
「鉄? 」
スミナの言葉に全員が彼女の方を見る。
薬屋からしたらいけないような臭いだろ!
そう心の中で呟きながらも「このままでは埒が明かない」と思い、意を決し扉を開けた。
ギギギという音を立て中に入る。
木製の壁と床に薬草の青臭いにおい。
ぱっと見誰もいないようだ。
恐る恐る奥へ行き一先ず店員を呼んでみる。
「すみません。どなたかいませんか? 」
反応がない。どうしたものか。
俺の腕をぎゅっとする感じがした。
腕の方を見るとケイロンがかなり震えている。
そして俺の方を見ると首を振り「帰ろうよ」と無言で伝えてくる。
が、これが最後かもしれないんだ。行くしかない。
薬関係は持っていないとまずいからな。
「すみません!!! 」
今度は少し大きめに声を上げた。
さっき爆発音がしたんだ、誰かはいるはずだ。
「はぁぁぁい」
奥から女性の間延びしたような声が聞こえてきた。
良かった。いたようだ。一先ず胸を撫でおろす。
奥からゆっくりとした足音が聞こえてくる。
それと同時に異臭が漂ってきた。
こ、これ、本当に大丈夫なんだよな!
薬屋なんだよな!
「うう。この臭い」
「オ、オレも嗅いだことないぞ! こんな臭い! 」
「すげぇ臭いだ。だが何故か鉄の臭いが混じってんのは気のせいか? 」
メンバーの方を見ると鼻をつまみだしていた。
あのエルベルでさえ顔をしかめている。
確かに顔をしかめたくなるような嗅いだことのない臭いだ。
「おまたせしました~本日はどのようなご用件でぇ? 」
出てきたのは女性魔法使いが被るようなとんがり帽子に黒い服。そしてなぜか服が濡れている。
「く、薬を買いに来たのですが……。大丈夫ですか? 」
「何がですかぁ? 」
「さっき爆発音が聞こえたのですが」
「あ~あれですかぁ。大丈夫ですよぉ~。ちょっと配合に失敗してしまって薬品が爆発しただけなのでぇ」
「「「それは大丈夫じゃない!!! 」」」
腑抜けた店員に全員でツッコミを入れた。
「ふぇ~? 」
この店員はどうやらどこかおかしいらしい。
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