第七十八話 報告と訓練
「報告承りました。ではこちらが成功報酬になります」
「「「ありがとうございます! 」」」
山から下りた俺達は早速冒険者ギルドへ行き、東の山でのことを報告した。
元スタミナ草の群生地の更に向こう側に洞窟がある事やそこにモンスターがいることも追加で話す。
ゴブリンと断言しなかったのは中に入っていない俺達がそう報告しても信じないと考えたからだ。
報酬を受け取った俺達はそのまま次の依頼を見て見る。
「次はどうする? 」
「山の後だからな。幾つかFランクの依頼をこなすか? スミナもいるし」
初めてのスミナとの連携だった。
彼女はどうしたこともないような感じだが感じていない所で疲れがたまっているかもしれない。
なるべく討伐や採取の依頼はベストコンディションでやりたいからな。
「ワタシは大丈夫だぞ」
「やっぱFランクを幾つか受けよう。コンディションの事もあるがランクを上げる意味合いもあるからな」
「人数が増えた分、効率が良くなったからね。探し人や動物はエルベルの感知でどうにかなるし」
「ははは、ありがたく思え」
「……お前に言われると癪だが、確かにFランクだと数こなさなきゃならねぇしな。よし、わかった」
スミナの了解も得たことで俺達は幾つかFランクの依頼を受けるのであった。
★
ある日の昼下がり。
今日は低ランクの依頼も多くなく午前中で仕事が終わった。
よって早めに訓練を受けている。
「おらおら! どうした! 息継ぎなんてしてるとモンスターにやられちまうぞ! 」
「くっ! 」
「強っ! 」
ガルムさんの剣撃が俺達を襲っている。
ケイロンもガルムさんの訓練に興味があるらしく今月から一緒になって受けることになった。もちろん代金は上乗せだ。
ゴン! ゴン!
ガルムさんの大きな木剣と俺達の木剣がぶつかり合う。
お、重い!!! 俺は身体強化に筋力増強も使ってんだぞ!
押し負ける……!
「ハハッ!!! 」
上段から振り下ろされる剣を先読みで受け止め反撃しようとするが――
「相方がお留守だぜ! 」
「くっ! 」
ドゴン!!!
ぶつかった瞬間、俺に乗っかかるような形で体を預け、ケイロンに回し蹴りを繰り出した。
見事に吹き飛ばされたケイロンは壁にぶつかりノックアウトになった。
その様子に気を盗られた瞬間、俺も吹き飛ばされたのであった。
「二人掛りで戦ってるのに傷一つ付けられないなんて」
「なんで強化された俺達よりも素のガルムさんの方が力強いんですか……」
「ははは、年季が違うぜ。兄ちゃん達よ」
傷だらけになった俺達は巨大な木剣を肩に担いでこちらを見下ろすガルムさんをジト目で見た。
強すぎるだろ。絶対にヒュージ・スケルトンより強い。
ガルムさんもフェルーナさんも前はランクいくらだったんだ?
「だが、そうだな。見てる感じの見込みがはやい。アンデリックの兄ちゃんはそろそろ重撃とか覚えれるんじゃないか? 」
「重撃、ですか」
「ああ。ま、渾身の一撃ってやつだ。今の所はな」
「今の所、と言う言い方をするところからその先があるのですね」
「鋭いな、ケイロンの兄ちゃんは」
笑いながらケイロンの方を向く。
「斬撃なら斬撃の先がある。重撃なら重撃の先があるってもんだ。武技は極めていくと最終的に独自武技を使えるようになるから面白れぇ。理論だって組まなきゃならねぇ魔法とは全く違う。訓練すればするほど強くなれる! 」
「独自武技ですか」
「因みにガルムさんも使えるのですか? 」
「……使える」
ニタァっと笑い、自慢したげな顔だ。
これは……地雷ふんだか?
「さ、見せてや「今さっき魔法を蔑ろにするような言葉が聞こえたのですが」……」
木剣をトントンと肩で叩き俺達の方へ向かって来ようとすると、宿の方からフェルーナさんの声が聞こえた。
恐る恐ると言った感じでガルムさんが声の方向を見ると顔が硬直していた。
「フェ、フェルーナ、これは違うんだ……」
「何が違うというのですか? 」
一歩一歩ガルムさんに近付いている。
俺達はガルムさんの後ろにいる為にその顔が見えた。
笑ってるのに目が笑ってねぇ……。
こっちはこっちで地雷だったようだ。
「夫はこれから用事がありますのでまた後程。オホホホ」
「やめろー! 」
顔面にフェルーナさんの手をめり込ませ悲鳴を上げながらガルムさんは宿の方へ旅立ってしまった。
生きて……帰ってきてくださいね。
★
「で、どう申し開きを? 」
ここはとある領地のとある貴族の屋敷。
若々しい声の主の前には五十代くらいの貴族服を着た少し肉付きの良い男性とその隣に執事服を着た細めな男性がいた。
そして声の主の隣には服がはち切れんばかりの筋肉をもつ男性と細身な、如何にも文官と思える男性が控えている。
「今回の件は我が息子の独断でございます。我々は全く何が何やら……」
「ほう。ならその親である貴様には責任がないと? 」
「ぐぅ。しかし……」
両者が言い争っていると執事服を着た男性が手を上げ発言の許可を聞いてきた。
ん? とそちらへ不機嫌な顔を向け、睨みつける。
執事は少したじろぎながらも手を降ろさない。
「……発言を許す」
「ありがとうございます。今回の件、旦那様は本当にご存じでありません。私達家臣一同このような計画全く知りませんでしたので」
「家臣が知らなくとも貴様の主君が一計を案じていることくらいあるだろ? 」
「あるかもしれませんが……今回のような婚約に関することはまず書面をもって複数の文官で確認いたします。我々も寝耳に水でございました」
「かと言い、今回の騒動。どう治めるつもりだ? 無論僕達も火消しに回った。だがそれで完全に鎮圧できるものではないだろ? 噂とはそういうものだ」
その言葉を受けてか、放たれる殺気のせいか顔色を青くしている貴族と執事。
が、それでも執事は諦めない。
「せめてお時間をください。精一杯、噂を消しに回りますので。何卒、何卒……」
「……これが付き合いのない者ならば良かったのだが、今回だけだ。だが、時間はないと思えよ? 」
「「ありがとうございます!!! 」
こうして貴族と執事は早々にこの屋敷を出ていった。
「で、どうするよ。親父」
「ケルマ、いつも言葉使いを直すよう言っているでしょう? しかし本当にどうするのですか? 父上」
「う~ん。どうしよう」
さっきとは打って変わって言葉使いが崩れる若い声の持ち主。
二人の言葉が意味するようにこの若く見える男性は二人の実の父親だ。
「僕としてはケイロンに戻ってきてほしいけど」
「メイド隊の手紙によるとケイロンは意中の相手を見つけたそうですね」
「アドレノ! それは本当か?! 」
「嘘と言ってくれ!!! 」
アドレノの呼ばれた青年はいつの間にか手に一枚の手紙を取り出して、読んでいた。
「なんともラブラブの様で」
「なんだよぉぉぉ!!! ケイロンに近付く虫が増えたのか! 」
「僕のケイロンちゃんに手を出そうとしている愚かな虫はどこの誰かな!!! 」
「待ってください二人共。それだけで判断しないでください。何やら手紙によるとその者と一緒にいるとトラウマが発動しないとの事。これは良い事では」
それを聞き今にも怒りを爆発させそうな二人がふと止まる。
「それは本当かな? 」
恐る恐ると言った感じで、アドレノを見る父。
アドレノのも信じがたいといった感じだが、それを肯定する。
「……そうか。ああ……どうしよう」
「親父、なら行くしかねぇんじゃねぇか? 」
「それは私も同意ですね」
「……そうだね。この際だ。皆で見極めようじゃないか!!! 将来の僕達の家族を!!! 」
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