第七十四話 騒がしい日々
「なるほど。そのようなことが」
「は、はい」
「ふふふ。オレにかかれば造作のない事」
「エルベル! 黙ってて! 」
冷たい雰囲気を醸し出しているバジルの町の冒険者ギルドサブマスター『ミッシェル』さんを前にエルベルが大きく出た。
心の中で「やめてくれ! 」と叫びながらも読めない表情を作るミッシェルさんに目を向けた。
「……状況は把握しました。まさか町中でヒュージ・スケルトンが出るとは思いませんでしたが何よりその魔石が証拠です。信じましょう」
ケイロンが持つ手のひら大の魔石を見てそう言った。
信じてくれなかったらどうしようと考えていたが、確かにこの大きさの魔石となるとモンスターの種類はともかく高ランクモンスターが出たことの証明になるんだなと思った。
ケイロンもケイロンでほっと一息ついている。
「何故出たのかは不明ですが後は行政側の仕事になります。貴方達はいつも通り依頼を受けてください」
「「「了解しました」」」
暗に深入りするなと言い、俺達は頷きながら了解する。
「さて、そちらの魔石ですがどうしますか? 」
「どうするとは? 」
「すでにモンスター出現の確認は私の方でとりました。冒険者ギルドで買い取るか、それとも自分達で使うか……」
青い瞳をこちらに向けそう言う。
自分達で使うという選択肢があったか。
「どうする、ケイロン」
「僕は売ってもいいと思うけど」
「オレはデリクに任せる! 」
「俺達が持ってても仕方ないしな。売るか」
「いいよ。それで」
「了解だ! 」
小さな声で相談し、ミッシェルさんに売却することを伝えた。
「売却ということで。下の受付で手続きをしてください」
「「「はい! 」」」
「ではこれからの検討を祈ります」
サブマスの激励の言葉を背に俺達は部屋を出るのであった。
★
売却が済んだ後、売った魔石のお金を商業ギルドの銀行に預け今度は武器防具店『ドルゴ』へと向かっていた。
売却金額が大金ですぐに預けたかった。
金貨十二枚。一人頭四枚の計算である。
こんな大金持っていられない。早く預けないと心臓が張り裂けそう、とケイロンに訴えすぐに銀行へ向かい預けた。
『ドルゴ』へ行くのは起動実験が成功したことを報告しないといけないからである。
道行く途中ふと気になったことをケイロンに聞く。
「そう言えばあの二人はこれからどうするんだ? 」
「ドラグ家で使用人見習いとして雇うよ」
「へぇ。粋なことをするな」
「保護するといった手前放り出すわけにもいかないしね。それに今頃別荘で可愛がられていると思うよ」
ふふ、と笑いケイロンがこちらを見たが猛烈に嫌な予感がした。
何をされているんだ?
気になるが、何も聞かないのが一番だろう。
「別に悪い意味じゃないよ。文字通り可愛がられていると思うから。新しい人が入るのは久しぶりのようだし」
俺の心中を察したのかそう付け加える。
いじめとか受けないといいだが、と心配しながらも暗い道を通り、目的地へと着いた。
★
「たのもー!!! 」
「今回は早いな」
「お世話になります」
「よろしくお願いします」
扉を破らんばかりの勢いでエルベルが入り、ドルゴさんが何ともないような感じで返す。
俺とケイロンも挨拶し中に入った。
「来たか、来たか。どうだった? 」
声がする方を見ると受付に座っているドルゴさんの隣にスミナを発見。
起動実験の結果が気になるようだ。
そわそわしている。
「あれ物凄い性能だったな。助けられたぞ」
「なんだ、そんなヤバい状況に追い込まれたのか? 」
「一応の守秘義務があるから言えないけど危険だったね」
「あの巨体! オレ達がいないと……ムグッ! 」
「こら馬鹿! しゃべるな! 」
俺とケイロンの二人でエルベルの口を塞いだ。
その様子を見てドルゴさんとスミナは苦笑いしている。
全く下手に喋って前の憲兵さんのお世話になってしまったらどうするんだ……。
「ま、成功だよ。成功」
「そりゃよかった」
「作ってたやつは出来たのか? 」
「ああ、勿論だ」
「そうか……。ちょっと待ってな」
そう言うとドルゴさんは店の奥へ行ってしまった。
「父ちゃんどうしたんだ? 」
「さぁ? 」
「でもすごかったよ、あれ。どうやって作ったの? 」
「内緒だ、内緒。しっかし「すごかった」とはどういうことだ? そんなに強力な魔法陣じゃなかったはずなんだが……」
「え? そうなのか? 相手の一部が溶けてたぞ? 」
「溶ける?! 精々追い払う程度のはずなんだが」
ケイロンの言葉に俺が何が起こったかを説明するとスミナが悩み始めた。
そしてトトトと店の奥からドルゴさんがやってくる音が聞こえ、悩む時間が終わった。
「ほら。今から試験だ」
「「「試験?! 」」」
「俺が用意するのはこれだ」
と言いドルゴさんは一つの腕輪を出した。
革製で所々刺繍のような物が見える。
だが……。
「ほら。スミナ。おめえの作品を出せ」
「え? え?? 作品? 」
「この前の腕輪はこのために作ったんじゃないのか? 」
「え??? 」
今も混乱するスミナに呆れた顔を見せ、俺達の方に瞳を向け少しにやけた。
なるほど。『送り出したい』の方だったか。
きっとあの腕輪もドルゴさんの中では良くできたものなのだろう。
だが『アクセサリー』ではスミナに勝てないのが分かっていた。
だから何回でも挑戦権があったりわざわざ同じ土俵で戦うって言ってたんだ。
剣ばっかしに目が行ってる娘に視野を広めろってところだろうか?
「スミナの作品はこれですよ」
と、ドルゴさんに腕を見せた。
鋭い目つきでそれをみて腕を組み唸る。
スミナはまだ混乱中だ。
「お前さんはどう見る? 」
「申し訳ありませんが、スミナの作品の方がよりできていると思います」
「ほう。俺の作品を選ばねぇんだ。きちんと理由を言えるんだよな? 」
「ええ。まずスミナの作品ですが素朴ながらも所々施されている紋様が細かくドルゴさんの場合は――言い方は悪いですが大雑把です」
「次に刻印の有無です。かなりの技術を使ったのでしょう。この小さな魔石に複雑な魔法陣を描き、よく見ないとわからないレベルで保護膜のような物が張られています。よってスミナの作品を選びました」
俺とケイロンが交互に言うと組んでいた両腕を解除し上に挙げ降参のポーズをとった。
「俺の負けだ。スミナ行ってこい」
「ちょ、どういうことだよ?! 」
「あー多分な」
口を挟むべきか悩んだが一歩前にでて俺が説明する。
説明が進むにつれてスミナの顔が混乱から驚きに変わった。
それと同時にドルゴさんの顔が苦々しくなる。
「正解だ……」
「なっ! ならアンデリック達が来た時に行ってもいいって言ってくれよ! 」
「阿保んだら! なんの試練もなしに出来るか、そんなこと! 」
「素直に見送りすらできねぇのかよ」
「親としての意地だ! 」
「なによぉ! 」
「このがぁ! 」
二人が取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。
どうしたものかとケイロンとエルベルを見たが二人共我関せずのようだ。
せめて武器の置いていない店の外でやってくれ、と思いながらもその様子を見届け最終的にスミナが仲間になるのであった。
★
宿屋『銀狼』一階。
「コホン。改めて。ワタシはスミナだ。見ての通りドワーフ族。武器は大槌と大盾だ。よろしく! 」
「よろしくな! 」
「よろしく! 」
「ちびっこドワーフ! 俺が先輩だからな! 敬え! 」
「お前のそういう所が気に入らねぇんだ! この駄乳エルフが! 」
エルベルが胸を張り威張り、スミナの額に青筋が浮き立った。
早速エルベルとスミナが喧嘩を始める。
騒がしい日々が更に騒がしくなる予感がした。
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