第七十二話 町役場への報告
「そのようなことが……」
「はい。残念ながら」
「ならば再度調査隊を編成することにしましょう」
俺達はカイルとアリスを連れて町役場に来ていた。
ここは前に通された応接室。目の前には前と同じ文官と憲兵。
恐らくこの二人が実質的なこの案件の責任者なのだろう。
「しかし驚きました。スラム街の方から大きな音が聞こえると通報が来た時は」
「私は頭痛の予感がしましたけどね……」
俺達が戦っている時スラム街から離れた所にいる住人が近くにいた憲兵に通報したようだ。
通常『音』程度、しかも発生源がスラム街となるとそこまで真面目に話を聞かない。
が、今日に限っては話が違った。
「事情を知る私がそこにいて良かったです」
「ああ……。また予算の再編成が……」
憲兵が何故か誇らしげにいい、文官が項垂れる。
恐らくもう組んでいる予算を再編成しないといけないのだろう。
肉体労働もきついがこの文官の人を見ると頭を使うのもしんどそうだ。
「あんな巨大なスケルトンは初めて見ました。あれについて知っていることはありますか? 」
「出来るだけ記録に残しておきたいのです。発生したという事実を伯爵閣下にお伝えしないといけませんし」
「見た目の通りですよ。討伐難易度Bのモンスター『ヒュージ・スケルトン』です」
ケイロンがそいうと「何と……」「被害が無くてよかった」等と言っている。
いや元スラム街が被害受けていますけど?!
スラム街が解体されているからいいのか?
が、彼らの言葉が気に入らなかったのかケイロンが付け加えた。
「ヒュージ・スケルトンはそのランクに見合った能力を持っていますよ。斬撃耐性に高い魔法耐性。通常のスケルトンの弱点である殴打にも若干の耐性があります。倒すには瞬間的に高火力をぶつけるしかないのですが……本当に良かったですね。討伐できて」
ニコリと微笑みを浮かべて二人にそう告げた。
彼女の怒りに触れてしまっていると感じたのだろう。彼らの顔に汗がにじんでいるようだ。
「「ほ、本当にありがとうございます!!! 」」
ケイロンの一言でいっぺんに頭を下げる二人の役場職員。
何というか……すまん。助けれない!
俺は心の中で二人に謝りながらも、俺達の後ろに隠れているカイルとアリスについて聞いてみる。
ケイロンは保護するといったがどういう扱いになるのだろうか?
役場で保護か?
「こっちの二人なのですが……」
俺がそう言うと少しカイルとアリスが身を寄せ合う。
アリスの咳は今収まっている。
あの不衛生な場所も悪かったのかもしれないが油断は禁物だ。
体も弱っているようだし。
「はい。お聞きしております」
「通常ならば教会——クレア教の教会が運営している孤児院で預かることになっております」
「しかしこれは保護者がいない場合になります」
「失礼ながらケイロン様が保護されるとお聞きしておりますが、如何いたしましょうか? 」
文官と憲兵が交互にそれぞれ補うように言葉をつなげていき、そしてケイロンを見る。
なるほど。所謂通常の手続きはそうなるのか。
だが今回は『通常』から外れると。
「僕の家で預かろうと思います。それでいいでしょうか? 」
「はい。大丈夫です」
「今回はまさかのモンスター発生となりました。後は報告書を提出していただければ達成となります」
文官の男が机の上に置いてあった一枚の紙を三枚取り上げ、俺達に渡してきた。
「こちらが雛形になります。よろしくお願いします」
ペコリと二人が頭を下げ俺達はこの部屋を出た。
★
バジルの町の教会。
ガラス張りの窓から光が入ってきている。その光は少し蒼くどこか神聖感を出しているようだ。
清浄な雰囲気の中俺達はケイロン先導の元、移動する。
奥には司祭様が使っていた教壇のような物と木でできた遮蔽物があり更にその奥へ行くのを阻んでいる。
「へぇ。町の教会ってこうなってるのか」
「不思議な感じだ! 」
「騒ぐなよ、エルベル。頼むからな」
「分かった」
エルベルが素直に声のトーンを落としてくれた。
少し進むと横に長く広がる木の椅子がいくつも並んでいる。
そこで休んでいる人もいれば祈りを捧げている人もいる。
本当にここは教会なんだな。村の教会とは規模も雰囲気も違うから少し違和感を感じる。
だが祈っている姿を見ればここも教会なんだなと思う。
「じゃ、まずカイルとアリスの身分証を作ろう」
「「身分証??? 」」
ある程度進んだところでケイロンが口を開いた。
この町、いや他の町でもだが滞在したり職に就いたりするには身分証が必要となる。
一般的な物だと各ギルドが発行しているギルドカードにクレア教の会員証だ。
「うん。多分だけどこんなカードをもってないよね? 」
もぞもぞと小袋から一枚のカードを出し二人に見せた。
俺も持っているクレア教の会員証だ。よく身分証として使われる。
「「持ってません」」
「ならここで発行してもらおう」
その言葉に二人が驚く。
身分証を発行するのに何を驚いているのだろうか?
「お、おれたちお金が……」
「大丈夫だよ。発行は無料だから」
無料と聞いて少し安堵したようだ。
「じゃ行こう! 」
こうしてカイルとアリスは身分証を手に入れた。
★
「じゃ、僕はこれからバジルの町の別荘にこの子達を届けに行くから先に帰ってて」
「分かったが……どうするんだ? 」
「まさか、ケイロン! 貴族の享楽に?! 」
「違う! エルベルがそんなこと言うから二人が少しおびえてるじゃないか! 」
色々なことがあったため昼も過ぎた頃、教会から出た俺達は一旦帰ろうということになった。
が、ケイロンが二人を別荘に連れて行くといいエルベルが悪乗りをする。
そのせいか子供達が怯えている。
「全く。一度アリスの病気をきちんと見て治して家で雇おうと思うんだ」
「おれたちを雇ってくれるのか?! 」
「ほ、本当?! こほっ! こほっ! 」
「アリス! 大丈夫かアリス! 」
ケイロンの言葉に驚き聞きなおす二人。
だが刺激が強すぎたようだ。
アリスがせき込む。
そして背中をさすり少しでも良くなるように声掛けするカイル。
「なぁケイロン。保護してもらう手前こういったらなんだが本当に治せるのか? 」
「大丈夫だよ。見たことのある症状だ。それにいざとなったら『医療都市』と言われる領都に行って治してもらうように連絡するよ」
小声で聞くとどうやら大丈夫なようだ。
それにしても領都は医療都市って呼ばれてるんだな。初耳だ。
「じゃ行こう。早めに治すに越したことないからね」
「「はい! 」」
こうして俺達は分かれ、俺とエルベルは『銀狼』へケイロンは別荘へ向かうのであった。
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