第六十九話 スラム街探索 二 受け取る祈り
翌朝、俺達はスラム街へ行くために一階に集まっていた。
食事は済ませてある。
俺はいつもの服装に長剣と短剣をケイロンは細剣を腰につけ、そしてエルベルは精霊弓を背にしている。
「いいか。犯罪組織が出てくる可能性がある」
「気を付けていこう」
「ああ、頑張ろう」
いつもよりもかなり……いや今まで見たことがないくらいに真面目な顔をするエルベル。
いつもこのくらいだと嬉しいのだが、明日になると元に戻るんだろうな。
「本当に探索だけで終わればいいんだが不測の事態もあり得る。エルベル」
「分かっている。最初から使う」
「よし。ケイロンは地図を頼む」
「もちろん」
全員の意思を確認したところでいざ向かおうとしたら――バタンという音がして『銀狼』の扉が開いた。
「お、今から依頼か? 」
「ああ。そうだが……。どうしたんだ? 」
入って来たのはドワーフ族のスミナだった。
小さな体をこちらに近付き睨めつけながらも不貞腐れたように口を開く。
「どうしたって……。今日が休憩日の最後だろ? 」
「ああ~そうだ。そうだった」
「『だった』って……。まぁいい」
ほらよ、と言い一つの腕輪を渡してきた。
所々に銀が施された茶色い革の腕輪で輪っかの中央部分に一つ、小さな魔石が嵌められていた。
何だこれ?
訳も分からずそれをじっくりとみると何やら円のような物が見える。
魔法陣か?
「これは? 」
「言ってたアクセサリーだ。ま、ワタシが作ったんだ。ただのアクセサリーじゃねぇ」
そう言い椅子の一つに飛び乗り座りこちらを向き説明する。
「それはマジックアイテムだ」
「え? マジックアイテム?! そんな大層な物を作ったのか?! 」
「当たり前だろ? 息抜きにしろモノ作りだ。その時に出来る最高の品を作るのがワタシの信念」
得意げに胸を張るスミナ。
息抜きになってねぇ……。いや職人としては正解なのか?
だが、息抜きにここまでやるか?!
と、いうか……お支払いは大丈夫だろうか。
少し冷や汗が流れる。
「あ~別に支払いはいいよ。息抜きだし。が、それを使って一つやってほしい事があるんだ」
「なんだ? 」
「起動実験だ。それには神聖魔法『聖域展開』が施されているんだが、それがきちんと起動するか試して欲しい」
「「「聖域展開?! 」」」
それを聞き全員が驚く。
え? スミナさん。何とんでもないもの刻んでんですか?
神聖魔法『聖域展開』。
その名の通り聖域を展開する物である。これは一定時間邪神の影響下にある物を取り除く魔法だ。ここにいるものは知らないが一般的な護符にも使われているもので、名前ほど効果のある物ではない。
精々低級モンスターを追い払ったり、入れないようにしたりするくらいだ。普通の人ならば。
「ま、と言ってもそんなに大層な物でもねぇ。魔石の大きさも小さいしな」
「いやマジックアイテムってだけで大層なもんだよ。これの名前は? 」
「名前? あぁ~決めてなかったな。そうだな……」
俺が名前に関して指摘すると盲点だったと言わんばかりに目を見開き顎に手をやり、スミナは考える。
「そうだな……。ま、単純かもしれないが聖域の腕輪、だ。異論は認めん」
「聖域の腕輪、か。ありがとうよ」
「おう! 」
お礼を言うとスミナが微笑んだ。
また椅子から降りて俺達から少し離れる。
「今から依頼だろ? 頑張りな。後でワタシも追いつくからよ」
「待ってるぞ。だが……これ本当に起動実験するだけでいいのか? 」
「ああ。また今度打った剣でも見に来てくれや」
言いたいことは言ったという風にスミナは手を振りながら『銀狼』を出ていってしまった。
「何かとんでもない物を持ってきたね」
「ああ……」
「今日から試すの? 」
「マジックアイテムなら大丈夫だろう。それに軽い腕輪だ。邪魔にならない」
そう言いながら俺は腕輪を見て考える。
持ってきてくれたのはいいが俺の手が入るのか?
手の平よりも小さいのだが。
「これ、一回外してもう一回はめるタイプだよ」
「え? そうなのか? 」
ケイロンが留め具に気が付き教えてくれた。
彼の手で一回外され俺の腕をとり装着する。
ぴったしだ。
「ありがとう」
「ふふ、どうしまして」
「なぁオレの分はないのか?! 」
「あれだけ喧嘩してもらえると思ってるエルベルがすごいよ」
「それは言えてるな」
一度張りつめた空気はスミナとエルベルの影響により少し和む。
だがこうしてはいられない。
早速俺達は気を引き締め直し元スラム街へと向かった。
★
元スラム街。
「……何もないな」
「ここまで酷いと本当に人が住んでいたのか分からなくなるよ」
「エルベル、頼めるか? 」
「まかせろ! 」
そう言うとエルベルは背中に背負った精霊弓を体の前に、水平に構え、唱える。
「風の精霊よ」
その一言で精霊弓に纏わりついていた光が一気に拡散する。
小精霊達に元スラム街を探索してもらっているのだ。言わば風探知。
こればかりは詠唱を許可した。
何せ集中力がいる作業らしいからだ。
それを証明するかのようにエルベルの額に汗がにじむ。
「いたぞ」
「「え?! 」」
「二人だ。だが……」
「「だが? 」」
「子供だな。小さい。それに弱ってるな」
「行こう! 」
「ちょ、ケイロン!!! エルベル、場所は?! 」
「こっちだ! 」
子供と聞いて焦ったケイロンが走り出し止めようとするが止まらない。
エルベルに位置を聞き、ケイロンを誘導する。
「そこを右だ」
「ケイロン、回れ」
「こっちだね」
瓦礫の山を走る。
腐食していないが、血の痕と思しきものが見られ生々しい。
本当に何があったんだ?!
「エルベル! 」
「導きよ! 」
エルベルの詠唱により小精霊達が作る光の道が作られた。
小精霊達が俺を誘導する。
それに従いケイロンを引っ張る。
「こっちだ、ケイロン! 」
「わ、ごめん」
手を取り俺とエルベルにしか見えない道を行く。
ケイロンは精霊の加護を得ていないので道は見えない。
足元は比較的綺麗だが所々瓦礫が散乱している。
足元に気を付けながら誘導する。
そして光の道は一軒の家のような瓦礫へと繋がっていた。
この向こうだろう。
「ケイロン、この向こうだ」
「了解。筋力増強! 」
「俺もだ。筋力増強! 」
生存者がいるのなら助けたい。
そう思いながら瓦礫をのけていく。
そして目に入ったのは――怯えて座っている男の子と横になっている女の子だった。
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