第六十八話 スラム街探索 一 準備
「今回は依頼を受けてくださりありがとうございます」
俺達は町役場に着き受付に依頼を受けてきたというと一階の応接室に通された。
質素ながらも普通の家とは一線を画すような部屋でありどことなく気品を感じがする。
そして後から入ってきた男性二人がこちらに向かって挨拶と自己紹介、そしてお礼を言っきた。
どうやらこの町の文官と憲兵らしい。
お世話にならないようにしないとな。
「で、今回の依頼の件なのですが」
「はい。が、その前に。まず本件なのですが一時的に緘口令が敷かれることになります。これは無駄にこのバジルの町の住人に不安を与えないためです。よろしいでしょうか? 」
「おう! 」
「「はい」」
「ご了承していただけたということで。ではこれは……」
エルベル、俺はお前が一番心配だよ。
俺の心配を他所にケイロンが切り出すと、緊張した顔で文官の男が詳細を話し出す。
……普通緊張するのってこっちじゃないか?
と、思いながらも耳を貸した。
「二週間ほど前の事になるのですがスラム街の住人が突如として消えました」
「「「は??? 」」」
「この地に我々も殆ど立ち入りません。精々定期的に見回りをする程度。これはそこに住む者との間で無駄な諍いを起こさないためです」
「その日の担当憲兵曰く、突如として、まるでいなかったかのように消えていたとの事」
「残っていたのは崩れ去った建物と……血だまりのみ。その日探索をしても骨一つ見つかりませんでした」
二人の男が一旦話を区切った。前の文官と武官は少し青ざめていた。
彼らの話を聞いたら頭痛がしてくる感じがする。
俺は額を抑えながらも上を向いた。
事件だよ。これ。俺達の出る幕じゃないよ。
隣のケイロンを見ると顔を少し青くしているのが分かる。スラム街住人の大量失踪、いやこれは大量殺人か?
けど何も残っていないというのが気になるが……。俺達が関わっていい物じゃないだろ……。
エルベルの方を向くと……何を考えているのか分からない。
うんうんと頷いているが絶対に変な方向に頭を働かせているだろ。
そして正面の二人が再度口を開いた。
「他の国ではこのような現象——集団移動があったということは聞いたことがあります」
「しかしそれはその地域でやっていけなくなり仕方なく町の外にでたり、国による強制的な徴兵があったりと移動する時には何かしら、そう例えば住民の誰かが見ていたなど形跡が残るのですが……ないのです。集団移動のような形跡が」
最早状況に追いつけない俺は頭をオーバーヒートさせていた。
これは冒険者ギルドに出したらいかん依頼だろ。せめてランクを設定して指名依頼にすべきだ。
これをどうしろと? 解決しろと? 無理だろ……。
俺達には完全に場違いな依頼だ。速攻で断った方が良い。違約金を払っても。
「すみま……」
「で、そこで今回の依頼になるのですがそのスラム街の探索をお願いしたいのです」
「一人生存者を保護いしましたが他に見つけることが出来ませんでした。我々も何があったのかくまなく探索しましたが何も出てきません」
「よってその後詰めを行って欲しいのです」
「要は何も見つからなかったことの証明です。これ以上何もないと思いますが、見回って報告書を作成していただきたいのです」
「現在ドラグ伯爵閣下に上げる報告書を作成中で」
「我々行政の者に加え第三者の確認をしておくと、より伯爵閣下に上げる報告書の信憑性も増すので」
「任せておけ!!! 」
勢い良く声を上げたエルベルに俺とケイロンは同時に厳しい目線を向けた。
何を考えているエルベル。ここは断るべきだろに……。
「ではよろしくお願いしましたぞ! 」
「おう! 」
「「……はい」」
エルベルに引っ張られた感じで話が終わり俺達は『銀狼』へと戻った。
依頼を安請け合いするな!!! これはお説教が必要だな。
★
昼過ぎ宿屋『銀狼』の二階、アンデリックの部屋にて。
「さてエルベル。言い訳はあるか? 」
「お、俺は何も悪い事なんかしてない! 」
「ほぅ。ならその体に聞いてみようか」
「やめろ! 近付くなケイロン!!! 」
「ケイロンさん。やっておしまい!!! 」
「へい、デリクさん! 」
今日の一件について話があるということでエルベルとケイロンを俺の部屋に呼びまず説教。
断る前に勝手に依頼を安請け合いしたエルベルにケイロンが迫る。
そしてエルベルはケイロンの「ワキくすぐり攻撃」により悶絶した。
「うひゃっひゃひゃひゃ! やめてくれケイロン! そこはダメだ! 」
「これは反省してないね。どうするデリク」
「もちろん追加攻撃だ! 」
「やめろーひゃっひゃっひゃっ!!! 」
ケイロンの攻撃により倒れ込んだエルベル。
真っ赤で笑った固まったままの顔を俺は一生忘れない。
少しは反省したか?
「何してるのよぉ……。少しうるさいわ」
「トトトトトッキー様ぁぁぁぁぁあ!!! 」
倒れた状態から復活し、倒れたまま転がりトッキーの前まで高速でゴロゴロと移動した。
「ひぃえ!!! 」
顔の筋肉が固まった状態のエルベルを見たのだろう。トッキーは悲鳴を上げ「来ないでぇ! 」と叫びながら違う部屋にすり抜けていった。
「トォキィィィ様ぁぁぁ! どちらへ!!! 」
トッキーが向かった部屋へ行こうとするのを俺とケイロンが必死で止め、正座させた。
閑話休題。
「これ本当にどうするんだ? 」
「明日行くしかないね。スラム街に」
「依頼自体は単なる探索なんだが」
「不吉だよね。全員が痕跡なくいなくなったのは」
俺とケイロンは真面目に明日の依頼について考えていた。
エルベルは俺達の前で縄でくくられた状態で正座だ。
知らない間に抜け出されても困る。
「一番考えられるのは犯罪組織の関与」
「でも出来るのか? そんなこと」
そう言うとケイロンは首を横に振った。
「住民の誰にも見つからずというのは無理だと思う」
「口止めで消されたというのは? 」
「それならそれこそ何かしらの噂が流れているはずだよ。「どこの、誰が最近見えない」という感じでね」
いい線いったと思うのだが、違うようだ。
眉間に皺を寄せながら考えるも全く分からない。
「ま、わからない事を考えてても仕方ない。明日を無事に終えることが今回の役目だな」
「確かにね。それに犯罪組織が関与してるのなら本当にドラグ伯爵が動いているだろうしね」
「じゃ、恒例の事前確認だ」
「うん。でも今回は地図はないよ? 」
「え? そうなのか? 」
「スラム街は行ってみないとわからない。それほどまでに放置状態だから」
肩を落としながら言うケイロン。
ま、ない物は仕方ない。
後は準備だ。意見を出し合い用意する。
今回は何が起こるかわからない。
不測の事態に備え十全に準備した俺達は明日をむかえるのであった。
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