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第六十七話 スミナの奮闘 四 腕輪の完成と変な依頼

 アンデリック達と一旦(いったん)分かれてから三日目、スミナは一人図面(ずめん)とにらめっこしていた。

 目に映るのは先日手に入れた魔法陣である。その横にはいくつかの魔石と(きざ)むための道具。

 魔法陣と術式両方教えてもらったが術式は長く(きざ)むのに(てき)さなかった。

 よって魔法陣を(きざ)むことにしたのだが――


「図の縮小化がうまくいかねぇ……」


 思った以上に魔法陣が大きかった。


 それもそのはず護符(タリスマン)(きざ)む魔法陣はその(ふだ)の大きさに合わせて作られており、それなりに大きい。

 (ふだ)の大きさは本の背表紙(せびょうし)くらいの長さで、円の大きさはその横幅(よこはば)くらいである。

 その大きな魔法陣を魔石に(きざ)みアクセントとして()める、ということを(おこな)っているのだがうまくいかない。

 燃えないよう特殊な紙に書いた魔法陣を見ながら考える。


 一層(いっそいう)の事、魔法陣を解体するか?

 いや、無理だな。そっちはワタシの分野じゃねぇ。


 術式を腕輪に書き込むか?

 ありだが、と思い作ってみた腕輪を見て(あきら)める。

 とてもじゃないが一巡(いちじゅん)で終わらねぇ。


 今回の神聖魔法の術式——文字や数字等の規則的(きそくてき)な並び——は()しくも円形である。

 珍しいものではないが今回は(なげ)くしかない。

 短い術式ならそれを書き込めばいい。長い術式ならば腕輪を大きくしたり文字や数字の大きさを変化させたりと色々な方法がある。

 しかし今回のような円形、つまり始点と終点が同じ場合はぴったりくっつくように書かなければならないので(むずか)しい。

 よってスミナはこの術式を早々(そうそう)(あきら)め、魔法陣を(きざ)むことに決めたのだがうまくいかない。


 アクセサリーを作るだけで別に魔法を(きざ)まなくてもいいのだが最早(もはや)今の彼女にとって魔法を(きざ)まない事は頭にない。

 今できる最高のアクセサリーを作ることしか考えていないのだ。


「おう、どうしたスミナ。頭(かか)えて」


 声の方を向くとそこにはハンマーを肩に(かつ)いだドルゴがいた。

 紙があるということで燃やさないために(まど)と扉を全開にして開けていたのをスミナはすっかり忘れていた。


「父ちゃん……」

「なんだそれは? 」


 ドルゴの言葉に「まず! 」と思い、腕の下に隠した。


「何でもねぇよ」

「いや、今さっきあからさまに隠しただろ」

「いいから! 」


 そう言い()い返そうとするもドルゴは工房(こうぼう)の手前で中に入らず溜息(ためいき)をつきながらスミナに目を向けた。


「はぁ、おおよその検討(けんとう)くらいつく。どうせ魔法でも(きざ)もうとして詰まってんだろ? 」

「うぐっ! 」

「それにその隠しようだと極秘(ごくひ)で受けた依頼か、公開できない技術かまたは情報か……。今のことを考えると技術関係だな、はは」


 まさにその通りである。

 スミナの顔が若干(じゃっかん)引き()らせながら額から冷や汗が流れるも、言い返せない。

 変なところで素直なのだ。


「まぁいい。(きざ)むことに集中しすぎだ……」

「それはどういう」

「あとは考えな。じゃぁな」


 そう言いドルゴは自分の工房(こうぼう)へ行ってしまった。


 ★


 四日目。

 まだ進展(しんてん)はない。

 (いく)つか作ってみたものの(かんば)しくない。

 

「できねぇ……。やっぱ信仰心的な物が()りないのか? 」


 一夜かけて小さくは出来た。

 むしろ一夜で出来たことから彼女の才能ずば抜けているのは分かるのだが比較対象がいないため彼女は気付かない。

 が、ここでまた(つまづ)いた。

 小さくしたそれを小さな魔石に書き込むのはまた別の話である。

 小さくカットされた魔石に魔法陣を書き込むのは骨が折れる作業だ。


 目を休ませるために部屋の中を少し歩く。

 昼下(ひるさ)がりの心地(ここち)いい風が彼女に()きかけた。


 初めてあった時を思い出す。

 確か子供と間違われたんだっけな。で、ケイロンが気付いて、パーティーに入れてくれって言ったら父ちゃんのいつもの(くせ)が出て……。

 やっと来たと思ったら忌々(いまいま)しい駄乳(だにゅう)エルフが入っていて。


「ワタシの方が早く言ったのにな。入れてくれって。だけど、な」


 あの()っかの中に入ったら楽しいんだろうな。

 駄乳エルフ(エルベル)喧嘩(けんか)して、アンデリックが仲裁(ちゅうさい)に入って、ケイロンが()めてって感じか?


「ふふふ……いいなぁ。入りたい……」


 少し笑みを浮かべながら外を(なが)め、作業に戻った。

 その時机の上で蒼白く光っていたのを彼女は知らない。


 ★


 五日目。

 夜も()けた(ころ)、ようやく魔法陣を魔石に(きざ)むことが出来た。

 そしてその時が訪れる。


 スミナは今震える手で『それ』を持っていた。


「で、できた……」


 見つめる先は小さな魔石。その隣には自前(じまえ)の少しばかし銀で装飾(そうしょく)(ほどこ)された茶色い(かわ)の腕輪がある。

 魔法陣が(きざ)まれた魔石にスミナが微量の魔力を流したら蒼白く光ったのだ。


「けど、なんで……」


 理由は分からない。何が良くて何が悪かったのか心当(こころあ)たりがない。

 が、できたのは事実だ。再現(さいげん)は後だ。


「よ、よし。これを()めて――」


 パリン。


「あ……」


 興奮のあまり込める力が強すぎて魔石が壊れたようだ。

 もう一回やり直しである。


 ★


 スミナと別れて六日目の朝。

 俺達は今冒険者ギルドの依頼ボード前にいた。


「デリク、この依頼とかどう? 」

「クワーハハハ、オレにかかればどんな依頼でもこなせる! 」

「エルベルには聞いてないよ」

「なん、だと? オレの力が必要ないのか?! 」

「必要だけど……。お願いだから少し落ち着いて」


 パーティー名を決めて登録した時からエルベルのテンションが物凄く高い。

 はっきり言って俺とケイロンは毎日依頼ボードの前で羞恥(しゅうち)(まみ)れていた。

 少し声量を落とすなり、行動を(ひか)えるなりして欲しい。

 横目(よこめ)でエルベルに(うった)えかけるが、(まった)く気付いてないようだ。


「依頼は……【スラム街の探索】? 何だこれ? 」

「わからないけど普通じゃないよね。それにここ」


 そう言い少し不安げに依頼主の(らん)(ゆび)さすケイロン。

 (ゆび)の先をよく見て確認する。


「【町役場】? 【ランク不問(ふもん)】? 【銀貨十枚】? 」

「うん。依頼の内容にしてはかなりあいまいだし、ランク不問(ふもん)、つまりFやEランクの人が受けても銀貨十枚払われるってことだよね。おかしくない? 」

「そうだな。高すぎる……。やめておくか? 」

「いや、受けよう。何か良くない事が起こっているような気がするから」

「そんな率先(そっせん)して危険を(おか)さなくても……」

「ハハハ!!! オレにかかればその依頼もすぐに終わるさ! 受けよう、ケイロン!!! 」


 後ろにいたエルベルに()()かれたケイロンは驚き固まっている。

 こ、こいつ、何て(うらや)ましい事をっ!!!

 巨大なパンがケイロンの背中を圧迫(あっぱく)して形を変えている。

 なまじサラサラとした黒いインナーのおかげで肌触(はだざわ)りが良くなっているのだろう。

 ケイロンの顔が真っ赤だ。


「ケイロン……。後で話がある……」

「え? 僕悪くないよね?! 」


 話しかけると泣きそうな顔を俺の方へ向け、抗議(こうぎ)してくるがそんなもの知らない!

 くっ! (うらや)ましくなんか! (うらや)ましくなんか!!!


「デリク?! どうしたの! 赤い涙を出して! 」

「ハハハ、デリクよ。どうしたのだ? そんなのでは前衛(ぜんえい)(つと)まらんぞ! 」


 こ、こいつら言いたい放題言いやがって!

 俺の視界が赤く()まりながらも変形したエルベルの巨大パンを見た。


「ま、まぁ受付に行こう! うん。早くそうした方が良いと思う」

「ははは! オレを連れてけー!!! 」

「くそぉっ!!! 」


 俺は仕方なしにこの(あや)しい依頼を受ける為受付に足を運んだ。

 横を見るとケイロンの背にエルベルが乗っかってる。

 と、いうよりも引き()られている。本当に連れて行かれているような状態だ。

 その状態で受付に行き「もう()れた」と言わんばかりに受付嬢が処理をして受理(じゅり)となった。


「今回の依頼の詳細(しょうさい)は町役場で聞くこととなりますので、その足で向かってください」

「「「町役場で? 」」」

「ええ、これも先方(せんぽう)の依頼となりますのでよろしくお願いします」


 そう言い受付嬢はペコリと一礼して言葉を()める。

 この状態のまま俺達は町役場へと向かうのであった。


 大丈夫。何もないはず。

 ケイロンは内心(ないしん)実利(じつり)というよりもある使命感のような物からこの依頼を選んだのだが、相方(あいかた)(さと)られぬようにしながら依頼説明場所である町役場へ行くのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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