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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
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エカテー・ロックライド 三

「全く、エカテーさんは()りていないようですね」

「そのようだな。以前、貴方から話を聞いた時は耳を(うたが)ったのをはっきりと(おぼ)えている」

「あの時は前職のサブマスターが責任をとって解雇となりエカテーさん自身は停職処分となりましたが、今回はそうはいかないでしょう」

「貴方を敵に回すとは……(あわ)れというか、運が悪いというか……」


 エカテー達が昼食をとっている(ころ)、二人の人物が長机を(はさ)み高そうなソファーに腰を下ろし話し合っていた。

 一人はバジルの町の冒険者ギルドサブマスター・ミッシェルである。

 (たい)するのは事務員の恰好(かっこう)に白い下地(したじ)の仮面を(かぶ)った男性だった。


「で、今回も本部の力をお()りできるということでいいでしょうか? 」

「……私が派遣(はけん)されていることがその答えだ」

「なるほど、感謝(いた)します」


 ミッシェルは無表情のまま感謝の()を伝え、仮面男がそれに答える。

 瞳の部分がくりぬかれた白い仮面を通して手元(てもと)を見る。

 

「本部においても貴族家との(つな)がりは問題視されている。貴族出身者だからと言って冒険者ギルドに入れないことはない。実際貴族出身者で功績(こうせき)を上げている冒険者も多い」


 仮面男が茶色い机に置いてある書類を手にする。

 パラパラとめくり、内容を確認した。


「だが……それは外部権力——つまり貴族としての地位を使わず実力で、というのが大前提(ぜんてい)。今回、いや以前の問題を(ふく)めて今回の一連(いちれん)騒動(そうどう)は各地へ波紋(はもん)を起こすだろう」


 最も、と()を置いて報告書から目を離しミッシェルへ向き直し言う。


「ここまで汚職(おしょく)が進んでいたギルド支部はないと思うが、ね」


 そう聞き、少し無表情が(くず)れ少し(にら)む。

 仮面越しに表情は(うかが)えないが、少し緊張した空気を出す。


「まるで私が原因のようですが? 」

「いやいや、少なくとも本部は感謝しているよ」

「そうだといいのですが」

「何せ冒険者ギルドは赤字でなくとも決して裕福(ゆうふく)ではない。その原因の一つを潰せるのだからもろ手を()げて喜ぶよ」


 冒険者ギルドは依頼者と冒険者との仲介(ちゅうかい)料で(かせ)ぎを出している。

 その他に不動産も少し取り(あつか)っているが、正直そちらは商業ギルドの領分(りょうぶん)(かせ)ぎは見込めない。むしろ売れない不良物件(ふりょうぶっけん)となるとその()の領主におさめる土地代でマイナスになる事もある。


 確かにギルドを置く国や土地の貴族との関係は重要だ。

 護衛依頼等を引き受けることもある。

 しかしながらそれは相互(そうご)に仕事以外は不介入(ふかいにゅう)という条文(じょうぶん)があってこそ()り立っている。

 今回のエカテーのように実家の権力を存分(ぞんぶん)に使いギルドに不利益(ふりえき)を与えているような状況は喜ばしくない、というのが一般的な認識である。


 そう『一般的』な。


「それで……如何(いかが)いたしましょうか? 査察(ささつ)官殿? 」


 ミッシェルが表情を戻して少し見上げ、()う。

 様々(さまざま)な文字や図が描かれた仮面を少し持ち上げ、少し考えた。


「もう少し様子を見る。何か他にあるかもしれない」

「……ならば少し(たの)まれて欲しい事があるのですが」

氷の処刑人(レッド)直々(じきじき)の依頼とは――恐ろしい」


 その二つ名に顔をしかめながらも、仮面男に(うれ)いた顔を向けた。


 ★


 翌朝、リリアンヌはギルドから貸与(たいよ)されている女子(りょう)で身だしなみをチェックしていた。白い腕を後ろに回し、長い金髪を後ろにまとめる。服装も白いシャツに黒いブレザーの事務服。(しわ)がない事を姿見(すがたみ)で金色の瞳で確認する。

 

 この宿舎(しゅくしゃ)には姿見(すがたみ)設置(せっち)されている。受付であろうとなかろうと冒険者ギルドのような職場は対人業務。コミュニケーション力はもとより身だしなみも重要なのだ。


 ここカルボ王国では鏡は高級品である。

 (いく)ら受付業務とはいえ鏡——それも姿見(すがたみ)のような高級品を()し出すのは王城か商業ギルドか、ここ冒険者ギルドだけだろう。

 これもまた冒険者ギルド職員が人気たるゆえんの一つであった。

 

「よし、今日も頑張りましょう」


 独り()ちて気合を入れ、食堂へと向かった。


 おかしい……。

 いつもと違う雰囲気を感じた食堂の空気にリリアンヌは一人思う。


 ()りつめたような空気の中、彼女は一人カウンターへと向かう。

 自身の好きなものを頼み、木製のお(ぼん)にいれ、いつもの(せき)を見る。


 いました。

 いつものメンバーを金色の瞳が()らえた。

 他の部署(ぶしょ)の人達だが、同僚(どうりょう)でもある。

 五人がお(ぼん)に野菜を乗せ、長方形の机へ向かっていた。


「おはようございます」


 いつもと同じように朝の挨拶をする。


 ……。


 あれ? 聞こえていないのでしょうか?

 再度声を()けようとすると、彼女達はリリアンヌを一瞥(いちべつ)し、他の――いつもとは(こと)なる机へと行ってしまった。


 え? な、何か私しましたでしょうか?


 また別の同僚(どうりょう)が視界に映る。


「おはようございます」


 そちらを向き、今度は少し声を大きくして挨拶(あいさつ)をした。

 だが彼女達も無反応。

 若干(じゃっかん)居心地(いごこち)の悪さを感じたのか、サクサクと足を進め、他の女性陣の(もと)へと行ってしまった。


 なに……が。


 仕方なく一人いつもの机へと行き、緑豊かな食事をとるのであった。


 ★


 リリアンヌが冒険者ギルドへ行くと、その風当(かぜあた)りは最早言い(のが)れが出来ないくらい強くなっていた。

 無視(むし)は当たり前。

 わざとぶつかったり、職務(しょくむ)妨害(ぼうがい)を行われたり、と。

 昼食も共にとることが出来ず完全に冒険者ギルドでの居場所を失っていた。


 目を(うつ)ろにしながら途方(とほう)()れる。

 なんでこんなことに……。

 理由は、思い当たる所がある。

 前回、忠告(ちゅうこく)するような形で異論(いろん)をはさんだことである。

 だけどそんなことで……それにあれは皆の事を思って……。


 空が(あか)()まってきている。

 なんで私がこんな目に……。

 自分の影を見つめながらとぼとぼ歩く。

 今まで(かど)が立たないようにしてきたはず。いうこともきちんと聞いてきた。なのになんで……。


 冒険者ギルドに併設(へいせつ)された騒がしい酒場を通り()ぎ、女子寮へ足を進めているとリリアンヌが何かにぶつかった。


「おいおい、いてぇじゃねぇか。ねぇちゃん」


 一人の男の声がした。

 (うつむ)いていたかを上げるとそこには短髪男がおり、更に複数の男性達がいた。

 冒険者……ではなさそうですね。

 体が貧相(ひんそう)だ。


 浮浪者(ふろうしゃ)——にしては()(ぱら)っているようなきがする。

 顔が赤い。それに酒の臭いがする。

 途端(とたん)にリリアンヌの中の警報(けいほう)がなった。


「ちっ! 謝罪の一言もねぇのかよ! 」

「これだからギルドのエリート様は」

「常識がなってねぇな」


 彼らの言葉にリリアンヌの顔に緊張が走る。

 まずい……ですね。

 まずは謝罪し……()(おさ)め、それから……。


「まぁいい。こいつを連れてけばもれなく報奨金だ」

「もっといい酒が飲めるぜ」

「はは、あの嬢ちゃん達には感謝だ」


 誘拐(ゆうかい)するつもりですか!

 一歩、後ろへ後退する。


「さぁ、やっちまおうぜ! 」

「「「おうよ! 」」」


 町のごろつきらしい手つきで近寄ろうとした瞬間、一人の――(あや)しい人が突如(とつじょ)としてリリアンヌの前に現れた。


「「「?!!! 」」」


 誰もいないはずの空間に現れた者に全員の動きが止まる。

 え?! 今までここには誰も!

 リリアンヌは困惑しながらも黒いローブの人を背後(はいご)から見上げた。

 少し頭が光っているように見える。


「……調べものをしていたら、レッド直々(じきじき)の依頼に出くわすとは」


 声からするとどうやら男性のようだ。

 彼はリリアンヌの方へ振り向いたと思うと、再度ごろつきの方へ仮面を向ける。


「さて、職員への乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)はやめてもらおう」

「な……なんだてめぇ! 」

「変な仮面を(かぶ)りやがって! 」

「いきなりどこから現れた」


 職員! ということはギルドの人?!

 しかし(うと)まれるようなことはあれど助けられる理由などない。

 レッドって誰?!

 そう困惑(こんわく)しながらも、彼を見ていると右手を伸ばした。


 その瞬間――


 相手は全員、後ろへと倒れ込んだ。


「……アルコールのせいか? やけに睡眠(スリープ)が効きやすかったな」


 あっけない終わりに少し()()いた。

 しかしそれもほんの少しの時間であった。

 すぐさまぐーぐーと眠り込んでいるごろつきたちを()れた手つきでコンパクトに(なわ)(しば)り、そしてリリアンヌの方へ向く。


「さて、君にも聞きたいことがあるのだが? 」


 何事(なにごと)もなかったかのような声で彼女に聞いた。


「……素敵な殿方(とのがた)

「……え? 」


 突然現れた仮面男を見て顔を赤くしたリリアンヌ。

 こうして白仮面の査察(ささつ)官——ジョルジの苦悩(くのう)は始まるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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