第六十三話 吸血鬼族とヴァンパイアそして訓練の日々
翌日北へ南へ奔走し、依頼をこなした昼過ぎの宿屋『銀狼』。
「昨日は珍しい体験したな」
「あんまり手伝えなくてごめんね」
「いやいや、いいよ。それよりもエルベルが慣れていてちょっと意外だった」
「オレを何だと思ってるんだ?! 森でも血抜きはしてたぞ。あんな大量は初めてだったが」
円形の机を囲んだ状態で俺達は昨日の出来事を振り返っていた。
俺が切り出すと、ケイロンがあやまりエルベルがつっこむ。
ケイロンは、仕方ない。前からこのタイプが苦手なのは知ってるからな。
「結局何種類あったっけ? 」
「十は超えてた……うう」
「俺がやったとは言えあの陳列された血の瓶をみると、な」
「壮観だったな! 」
思い出したのかケイロンが項垂れ顔を下に向ける。
エルベルは何も気にしていないかのように元気を振りまいていた。
「後処理はウォーカー男爵の所でやるんだっけ? 」
「確か特殊な処理をするんだと思うよ」
「なんだそれは。気になるな! 」
「企業秘密なんだって。だから僕にもわからないよ、エルベル」
昨日の会話を思い出しながら話す。
ケイロンが何か知っているかと思ったが企業秘密ならわからないのは仕方ない。
好奇心旺盛なエルベルが聞こうとするが「わからないよ」と手を振りながら伝えた。
「吸血鬼族的には『血』は『調味料』って言ってたけどどういうこと? 」
我が種族の輪の生き字引であるケイロンに俺が聞いてみる。
「僕は吸血鬼族じゃないから詳しい事は分からないけど、調味料のように料理の中にエッセンスとして入れるみたい」
「料理に入れるのか?! 」
「そうみたいだよ、エルベル。で、入れる動物の種類によって風味が変わるとか」
「……想像がつかないな」
「まぁ『調味料』、と考えると良いよ」
一旦机の上にあるコップを手に取り水を一口。
喉を潤したら左方向からエルベルの声が聞こえた。
「人の血は飲まないのか? 」
「それはヴァンパイアだね」
「吸血鬼族とヴァンパイアは違うのか」
「全くの別物だよ。吸血鬼族はクリアーテ様が創った魔族の内鬼族の一員で、ヴァンパイアは邪神が創ったモンスター。もしそれを本人達の前で話したら彼らも僕達も怒るからね」
「わ、わかった!!! 」
鬼気迫るケイロンの迫力にビビるエルベル。
珍しいものを見た。
いつも猛突進なエルベルが引き下がるとは。
成長してくれてお父さんは嬉しいぞ、グスン。
「で、実際どのくらい違うんだ? 俺はヴァンパイアを見たことないから全く違いが分からないんだが。確か殆ど同じような姿をとってるんだよな? 」
「そうだね。吸血鬼族は日中弱体化するけど歩けるんだ。だけどヴァンパイアは全く歩けない。灰になってしまうらしいよ」
「夜見つけたら日中歩けるか聞いてみたらいいってことか」
「そういうこと」
「他は? 」
「そうだね……魔核の有無もそうだけど吸血鬼族は飛行を使わないと飛べないけどヴァンパイアは普通に飛べる。後は……さっきも言ったけど率先して人の血を飲むのはヴァンパイアくらいってことくらいかな」
ケイロンも水を口に付けそう言った。
へぇ、かなり違うんだな。
ケイロンの知識に圧倒されながらも聞いておく。
この町に吸血鬼族の貴族がいるということは何かしら依頼がくるかもしれないということだ。知っておいて損はないだろう。
「あ、真祖と呼ばれる吸血鬼族はまた違うらしいよ? 」
「真祖? 」
「うん。吸血鬼族も人族のように外での階級に加えて一族の中でも階級があるんだ。昨日のウォーカー男爵は高位吸血鬼族と呼ばれる階級なんだけどその上に最高位と真祖と言う階級があるらしいよ」
「じゃぁウォーカー男爵は一族の中でもかなり高い身分の人? 」
「聞いた話によると、そうだね」
「加えて人族の中でも爵位を持っていると。すげーな」
「ははは、彼らは長命で力が強いからね。日中の弱体化を受けない高位以上の吸血鬼族は人族の国でも爵位を持ってることが多いよ。戦争とかで武勲を上げやすいから」
「なるほどな」
昨日のウォーカー男爵が倒して運んできた動物の数を思い出し納得する。
確かにあれだけの力があれば可能なんだろうな。
「なら真祖ってのはものすごく強いのか? 」
「国を滅ぼせるレベルって聞いてる」
「……『すごい』の範疇に収まらないな。もう真祖が国を作ればいいんじゃないか? 」
「確かにそうだけど、真祖が国を作ってるって話を聞いたことないね。と、いうよりもどこにいるのか聞いたことない」
「え? いないのか! 珍しいなら会ってみたい!!! 」
「多分エルベルみたいのが多いから出てこないんじゃないのか? 」
「オレのせいか?! 」
「いやいやそうじゃない。例えだ例え」
会ってみたいと言うエルベルを窘めながら窓の外を見る。
入ってくる光の角度が変わろうとしていた。
もうそろそろ、か。
「じゃ、午後の部の仕事に行きましょうか」
「そうだね。FとEランクの仕事はいつも余ってるからね」
「行こう!!! 」
こうして今日もまた依頼に励むのであった。
★
ある日の昼下がり。
この日は午前中だけ仕事を受け、午後をまるっきり使って訓練だ。
「オラオラオラ!!! どうした! 受けてばっかか!!! 」
「くっ! 」
ガルムさんが目にもとまらぬ剣撃を繰り出し俺は受ける。
前半の魔力操作の訓練を終え、今はガルムさんとの戦闘訓練中だ。
フェナが『有名な』と言っていたのが良くわかる。
先読みを発動しているのに剣筋と動きが追いきれない!!!
が……。
「やられっぱなしじゃないですよっと!!! 」
受けた一瞬、木剣をずらし逆に攻勢に出ようとした瞬間――
ピリピリと肌を焼くような痛みが走り反射的にそこから離れた。
するとそこに一閃、空を切る巨大な木剣が走った。
「ほう……。さっきのを避けるか。そこだけ気配を消していたはずなんだが、先読みの効果か? 」
「はぁはぁはぁ……いえ、何か肌を焼くような感じがして」
「そりゃぁ危機感知だ。文字通り危機を肌に知らせてくれる」
「はぁはぁ……はぁー。よかった」
『なら、次の段階に行ってもいいよなぁ!!! 』
ガルムさんから今までを遙かに超える威圧が解き放れ、更に猛攻を仕掛けてこようとする。
後ろに猛獣を幻視した俺はどこに動いても肌が焼ける感覚に襲われながらも訓練をするのであった。
「ギャァァァァァァァ!!! 」
結局の所、今月の訓練により魔力操作が更に上達し魔力感知の幅を広げることが出来、武技である斬撃と危機感知、危険察知を覚えることが出来た。
こうしてズタボロになりながらもスミナとの約束である一週間が近づこうとしている。
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