第六十一話 休日 五 パーティー名決定!
「結局スミナが僕達を工房に入れた理由って何だったんだろうね? 」
「あれじゃないか? 抜け出す、とか」
「やるかな? 」
「……俺は村を出る時にもし反対されたらやろうと思ってた」
「デリクはやろうとしていたんだね」
「だからその相談だったとか? 」
「で、先に言葉を盗られたと」
「そうそう」
宿屋『銀狼』に戻った俺達は夕食後、机を囲み今日の事を話していた。
今日はトッキーは下りてきていない。
俺達エルベルに相当トラウマのようなものを与えられたからな。
そのせいだろう。
「ん~やっぱ、あれだけお父さん思いならやらなかったんじゃない? 」
「それと自分の目標はまた違うんじゃない? 」
「あのちびっこドワーフは俺達の仲間になりたかっただけじゃないのか? 」
「それだけだとわかりやすいんだけどね」
「そうだ。もっと、こう複雑なんだよ。スミナの場合」
緑の瞳をこちらに向け聞いてくるエルベルに俺とケイロンは異を唱える。
エルベルの存在も複雑にしている要因の一つなんだよな、と思いつつ新しい緑のジャケットを見ていた。
するとケイロンが俺達全体をみて口を開く。
「一つ、決めておいた方がいい事があるんだけど」
「なんだ? 」
「おお! 何だ、ケイロン? 」
「うん。今僕達はエルベルも入り、もしかするとスミナも入るかもしれないじゃない? 」
「そうだな。大所帯だ」
「これぞ冒険者って感じだな!!! 」
エルベルが満面の笑みで応じる。
しかしそれがどうしたんだろう?
少し考えながら黒い瞳を見つめる。
「そこで、僕達のパーティー名とリーダーを決めたいと思います! 」
「「パーティー名? 」」
その二つの言葉にショックを受けたような感じがした。
そうだ。決めてなかった。
「今日のエルベルとスミナのやり取りを見ているとその内変な二つ名がパーティー名になる可能性があります! 」
ケイロンが今までにないくらいに真剣に、そして声を張り上げて言う。
確かにそうだ。
あの『守り人』とかいうパーティーも二つ名がパーティー名になっていた。
エルベルに加えスミナが仲間になったらより一層騒がしくなることは必然!
ならばそれを見た周りが面白がって変な二つ名を考えかねない。
「よってその前に自分達でパーティー名を決めておこう、ということです! それと同時にリーダーを決めておこうと思います! まぁもう決まっているようなものだけどね」
ハキハキと言う。
が、リーダーを決めてあるということはケイロンがやってくれるのか?
「まずリーダーだけど……デリクが良いと思う」
「ちょっ! 待て! 俺か?! 」
「え? デリクじゃなかったのか? 」
「エルベル、俺じゃないぞ? 」
「デリク以外にやらせるつもりは初めからありません! 」
そのいたずらめいた瞳がキラリとひかり俺を射貫く。
決めてあるってそう言うことかよー!
ショックをうけ机に突っ伏す。
「因みに異論は認めません! 」
俺にトドメと言わんばかりの一言を告げた。
「で、次にパーティー名だけど……何かいい案、ある? 」
「『タウの森の愉快な仲間達』!!! 「却下」」
エルベルの提案に即却下を下すケイロン。
ナイスだケイロン。あの名前だけはダメだ。
悪目立ちすること確実だ。
「なら『七人の英雄達』はどうかな? 」
「却下だ……。何、他の冒険者にケンカ売ってんだ」
「昔の英雄達からとったんだけど、ダメか……」
肩を落としながらケイロンが呟くが俺は断固反対だ。
英雄なんてガラじゃない!
何か……。何かないか?
二つ名を与えられる以前に変なパーティー名を付けられそうだ。
人族、エルフ族、ドワーフ族……。
う~ん。クレア教に精霊信仰……考えて見ると纏まりのない集団だな……。
纏まる、か。集団、集合、集まり、集会……。
「『種族の輪』とかはどうだ? 俺達種族が統一されているわけじゃないし」
「いいね! それ。語呂もいい! 」
「おお、名前が決まると燃えてくるなぁ!!! 」
いや、燃えられては困る。エルベルはやり過ぎるところがあるからな。そこは控えてくれ。
しかし……本当に良かったのか? これで。
自分で付けてなんだがそこまでセンスがいいってわけじゃないぞ?
「よし。これから僕達は種族の輪だ! 」
「おおー!!! やるぞー!!! 」
「お、おー」
ケイロンとエルベルが立ち上がり拳を上げる。
若干引きながらも俺も拳を上げた。
「オオー!!! 」
いきなり全くの違う方向から遠吠えが聞こえた。
びくっとしながらも声の方向を見るとフェナが拳を上げていた。
「えいえいおー!!! 」とか言いながら拳を可愛らしく上げているが、それに気付きフェルーナさんが必死に抑える。
じたばたするも「おー! おー! 」といいながら未だに拳を上げている。
まさか彼女の闘争本能に火が付いたのか!
というかいつの間にそこに?! まさかあの恥ずかしいやり取りを見られていないだろうな?!
「こら、フェナ。いけません。お客様の邪魔をしては! 」
「何か、かっこよかった」
「だからといって邪魔はしてはいけません」
抱えられているフェナは見上げる形でフェルーナさんに拳を上げながら呟く。
こってりと絞られている前にその拳を下げた方が良いと思うぞ。
あ、違う部屋へ連れて行かれた。
今日は鉄拳は降りなかったようだ。お説教は喰らうだろうけど。
その様子を温かい目で見守りながら、俺は再度机に着く。
「それでだ。明日どうする? 」
「依頼の事? 」
「ああ。今日は休んだが、明日は何かしたい」
「それもいいが……」
「ヘレンさんの所の依頼はどうかな? 」
「「ヘレンさんの所の? 」」
ケイロンの言葉に反応し、俺達は顔を向けた。
行くのは良いが、このタイミングでわざわざいうものだろうか。
彼の事だ。何か考えがあるかもしれない。
「この前見たらちょっと特殊な感じだったから」
「特殊? 」
「うん。Fランクの依頼だったんだけどね。【肉屋の受付と血抜きの補助】だったんだ」
「それのどこが特殊なんだ? 」
「【受付】は分かるんだけど【血抜きの補助】って何だろって。【解体補助】じゃないんだと思ってね」
「なるほど。いつも解体するのは血抜き後の動物だったな」
「ふむ。これは……事件の予感だ!!! 」
「エルベルは放っておいてっと。知らない仲じゃないし、明日行ってみるか」
「うん。行こう」
「行くぞぉぉぉぉ!!! 」
一人燃えている中、「あれ? これケイロンがリーダーでいいんじゃないか? 」と思うも、決定したことに異を挟めず俺達は明日に備え眠りにつくのであった。
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