第六十話 休日 四 邂逅するエルフとドワーフ 二
スミナが突撃してきたとき俺とケイロンはジト目でエルベルを見た。
「挑発、してないよな? 」
「するわけないだろ! オレを何だと思ってるんだ! 」
「歩くトラブル発生機、かな? 」
「酷い、森の皆にも言われた事ないのに」
よよよ、と泣き崩れるエルベル。
もちろんウソ泣きだろう。
チラチラこっちを見ているのが分かる。
構って欲しいのが見え見えだ。
それにしてもエルベルはテンションの緩急が激しいな。
「この駄乳エルフが自分の活躍を自慢するんだ! ワタシも入って活躍してやらぁ! 」
「……俺との勝負に勝ってからだ」
「父ちゃんそう言わないでくれよ。負けたままじゃドワーフ族の名折れってもんだ! 」
「だから俺に勝ってからだ」
「そう言わないでくれよぉ……」
スミナはスミナで興奮したと思ったら膝をついた。
何か……種族は違えどスミナとエルベルが同じタイプに見えてきた。
もしかしてこの二人、両方ともトラブルメイカーか?
いやスミナに限ってそれは無いだろう。
冒険者になりたいという熱意以外は常識人っぽいし。
「そうだ! 俺の作業を見てくれよ。そしたら父ちゃんの剣と何が違うのかわかるかもしれねぇ! 」
「いや、そもそも俺達は鍛冶さっぱり何だが? 」
「流石に僕もわからないかな」
「……ゴー」
スミナが提案し、俺達は分からないという。
そしていつの間にかエルベルは寝てしまっていた。
本当に自由人だな!
「まぁまぁいいからさ。ちょっと見てくれるだけでいいからさ」
「……まぁ見るだけなら」
「仕方ないよね」
「すまねぇ。少し付き合ってやってくれ」
なんだろう。スミナの言い方に嫌な予感を感じる。
やれやれというドルゴさんの言葉にも押され、俺達はスミナの工房へ向かうのであった。
★
「さぁさぁ入ってくれ」
「おじゃましまーす」
「入るね」
スミナの先導の元、ドルゴさんの工房の隣の建物の中に入っていく。
尚、爆睡中のエルベルはドルゴさんにお預け状態だ。
中に入るとすぐに鉄の臭いがして熱気を感じた。
めっちゃ熱い。
すぐに汗が噴き出てくる。
スミナはいつもこんなところで仕事をしているのか?
「今日はやってねぇから涼しいはずだ」
「え、これで? 」
「熱い……」
ケイロンを見ると汗びしょだ。
白いシャツが少し透けている。
「ケイロン。大丈夫か? 」
「うん。大丈夫」
へへ、と笑顔を向けてくる。
そんな中スミナは小さな煉瓦の椅子をいくつか持ってきて、置いた。
何やら椅子から湯気のような物が出ているんですけど?!
「まぁ座ってくれ」
「「……」」
スミナはそれにまるで何ともないように座り、俺達に着席を促した。
そして出された椅子を再度見る。
これはあれですか。
エルベルを先に入れてしまったことに対する罰ですか。
拷問ですか。
「俺は立ったままでいいかな」
「ぼ、僕も立ったままでいいよ」
「そうか。立ったままはしんどいかなと思ったんだが、まあいいか」
そう言い、椅子を下げてくれた。
助かった。あのまま強制されてたらお尻がどうなってたことやら。
てくてくと奥へ椅子を持っていく間に工房の中を再度観察する。
長剣に大盾がずらりと並び壮観だ。
流石に木製の物はない。
強いて言うならば加工された木の机くらいだろうか。青く光っていることから燃えないように魔化がされているのが分かる。
さらに見ると机の上には何やらアクセサリーのような物が。
自作だろうか? いい出来だ。小さく精工に作られている。
「スミナ、あのアクセサリーは? 」
「あぁあれか。前に趣味で作ったやつだ」
「へぇ、凄いな」
「そうか? ま、今は武器を作ってるがな」
「やめたのか? 」
「父ちゃん一人じゃ稼ぎが限られてるからな。小物はやめて、売れる物を作るようにした。父ちゃんにはかなわねぇが、せめて数だけでも揃えてやろうってことだ」
「なのに冒険者になりたいの? 」
「……今は常連さんだけで何とかなってるが、この町を離れてしまったらどうなるかわからねぇ。今のうちに稼ぎ所を探しておくってことだ」
「前に言ってた『最高の武器』はいいのか? 」
「それとこれは別だ! 作りたいに決まってる! 」
スミナが立ち上がり力説する。
それを聞きながら再度アクセサリーを見る。
勿体ないな、この技術。
アクセサリーだけをみるのならドルゴさんよりもうまいんじゃないか?
店の中にも幾つかマジックアイテムがあったけどこれほど精工じゃなかった。
「——というわけでワタシ達ドワーフ族にとってはその一品は『人生』そのものなんだ! 冒険者になれば鉱物を取れる機会も増え、父ちゃんも助けられる。一石二鳥だろ? 」
「確かにね」
「なぁスミナ」
「なんだ? アドバイスか? いいぜ! 」
「息抜きに一個アクセサリーを作ってみたらどうだ? 」
「……どういうことだ? 」
俺の言葉に目を細める。
長剣で挑もうとしてるんだからそうなるよな。
「息抜きだよ、息抜き。多分だけどこれまでずっと鉄を打ちっぱなしなんじゃないか? 」
「おうよ! それこそワタシだ! 」
「息抜きにアクセサリーを作って、休憩して、もう一回剣を作ったらいいんじゃないか? 一旦部屋の空気を入れ替える感じで、さ。俺達だって冒険者業数週間に一回くらいは休むぞ? 逆に動きが鈍るからな」
「……」
難しい顔をしてスミナは腕を組んだ。
少し直接的過ぎたか? 沈黙が流れる。
ケイロンの視線を感じそちらを見ると彼も俺が言いたいことが分かったようだ。
俺を見ると同時に机の上を見ている。
「……どのくらい休んだらいいと思う? 」
「い、一週間くらいかな? 」
職人気質な彼女が俺の言葉を受け入れるような問いに吃驚して咄嗟に口を開いてしまう。
て、適当に言ってしまった!
眉間に皺を寄せるスミナに少し冷や汗を流す。
「将来のパーティーメンバーの言葉を無視するわけにはいかねぇ。よし、一旦休憩して再度剣を打ち直そう!」
「それが良いと思うよ。この勝負は何回でもやり直せるみたいだしね」
「おう。だからあまりランクを上げ過ぎないでくれよな! 俺が入りずれぇ」
「善処する」
「出来上がったら一回見てくれ。久々に作るから期待するようなもんは出来ないだろうが精一杯作るからよ! そして期待していろよ。俺が入って大活躍してやるからよ!!! 」
そう言うと満面の笑みでこちらをみて奥の方へ行きなにやら道具のような物をとってきた。
早速作業に移るようだ。
俺達は工房をそっと出てエルベルを回収し、宿へ戻るのであった。
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