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種族の輪 《サークル》 ~精霊術師は今日も巻き込まれる~  作者: 蒼田
第一章 安全マージンをとる冒険者
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エカテー・ロックライド 二

 冒険者ギルド・ギルドサブマスター『ミッシェル』がいなくなった昼過ぎの事、エカテーはその取り()き達と茶色く丸い机を(かこ)っていた。


「あまりお気になさらずに、エカテーさん」

「そうです。何より、冒険者の死亡率を下げようとしているエカテーさんの取り()みを(はば)もうなど言語道断(ごんごどうだん)ですわ! サブマスターとしてあるまじきことです! 」

「そうです、そうです! サブマスターとして、いえ人としてあるまじき行為(こうい)です! 」

(みな)さん落ち着いてください。私は大丈夫ですわ。何より私を(あん)じることで貴方達が不遇(ふぐう)にあってしまってはいけません。ミッシェルさんの事もほどほどに、ね」


「「「エカテーさん!!! 」」」


 エカテーに羨望(せんぼう)のまなざしが(そそ)がれる。彼女達の手元(てもと)にはサンドイッチに紅茶とティーカップ。なんてないお昼のひと時であった。

 しかし(とう)のエカテーは頭の弱い取り()き達に心配されるだけではらわたな状態なのだが、表に出さずに彼女達を心配するふりをする。


 『エカテー・ロックライド』。


 彼女はロックライド男爵家の子女である。

 彼女を一言で表すなら――『傲慢(プライド)権化(ごんげ)』——が適切(てきせつ)だろう。


 ロックライド男爵家は大きな領地を持つ貴族家ではない。

 せいぜい少し大きい村の村長くらいの大きさだ。もちろんのこと社交界や国での立場が大きいわけではない。

 しかし村に戻ればお山の大将なのが彼女の父や母である。

 その様子を見て育った彼女は必然(ひつぜん)的にその地位を存分(ぞんぶん)に使う。


 彼女は貴族には珍しく婚約者がいなかった。

 よって学園(アカデミー)を出た後、仕事と結婚相手を探すこととなるが彼女がそこで目を()けたのは冒険者ギルドの職員だった。

 ギルドの受付嬢と言えば様々(さまざま)な職業の中でも花形(はながた)である。

 運が良ければ高位冒険者と結婚し、その後安泰(あんたい)な生活を送れる。

 自分が行うにふさわしいと考えた彼女は持つ権力(けんりょく)を使って冒険者ギルドへと入った。


 彼女が職務(しょくむ)と同時に行ったのは『ギルド内での自身の地位の向上』である。

 (もと)よりお山の大将の娘。

 (つね)に誰かの上に立っていないと気が()まない女。

 男爵令嬢という名の権力とその()り付けられた外面でふるまい、見事(みごと)彼女はバジルの町の冒険者ギルドで確固(かっこ)たる地位を手に入れた。


 ……数年前、ミッシェルが現れるまでは。


「しかし困りましたね。サブマスににらまれるとは……」


 食後の紅茶を一口飲み、意識しない言葉が()れる。

 ミッシェルの顔を思い出し、怒りで彼女の顔が紅潮(こうちょう)する。

 ミッシェルが受付嬢として現れてから転落続きだ。

 前回の不正の発覚(はっかく)を始め派閥(はばつ)内でも分断(ぶんだん)が見られる。

 苛立(いらだ)つエカテーの顔を見て対面の事務員が言う。


「そうですね……。最近監査(かんさ)(ほう)も厳しくなっておりますし……」

「私の部署(ぶしょ)なんて時折(ときおり)抜き打ちでチェックに来るのですよ?! 」

「それは本当ですか?! ならば私も気を付けないと」


 最初に言った事務員の言葉を皮切(かわき)りに様々(さまざま)な話が飛び()う。

 やれ不審(ふしん)な男性がチェックに来るだとか、やれ(きゅう)にサブマスがいなくなるとか、はたまたサブマスが(きゅう)にチェックに来るとか……。

 それを聞き、飲んでいる安物(やすもの)の紅茶が気管(きかん)に入りそうになる。

 むせるのを我慢し、涙目(なみだめ)になりながらぽろっと()れた情報に驚愕(きょうがく)した。


 こ、この人達! 今とんでもない状況なのわかっているのですか!


 エカテーは話を統合(とうごう)し、とんでもない状況であることを理解する。

 別段(べつだん)彼女達が特に不正等をしていなければ特に問題はない事である。

 しかし言うに()れず、ここにいる者は全員ことの大小は(ちが)えど数字を誤魔化(ごまか)したり、贔屓(ひいき)にしている冒険者に不適切な依頼を(まわ)したり等不正に関与している。

 そうとなればすぐに対策を()らなければならないのだが、ここはお花畑。気付いた人が言わなければ何らかの処分を受けるだろう。


(みな)さん、少し私の話をお聞きになっていただいても? 」

「「「はい? 何でしょう? 」」」


 エカテーの言葉を受け、各方向から無垢(むく)な視線が向く。

 こ、この人達は!

 誰かの不正が発覚(はっかく)すれば全員処分を受ける可能性があるのですよ?!

 何をのんきな!


「以前より冒険者の方々が私へ持ってきた依頼の依頼料の一部を皆さんに配分(はいぶん)しておりました」

「そうですね」

「ありがたいものです」


 エカテーは依頼料を一人で中抜(なかぬ)きしていた。

 それを(えさ)代わりに派閥の仲間に(くば)り、今の位置にいる。

 無論多く冒険者が彼女に並んでいた昔は、だが。


 支配下の者達がのんきに答える。

 その答えに額に青筋(あおすじ)を浮かべながらも、顔は平然(へいぜん)とし余裕(よゆう)の態度で事の重大性を()こうとする。


「……そして時折(ときおり)経理(けいり)の先輩(がた)にお願いしてお小遣いを(いただ)いていたのは(おぼ)えていらして? 」

「ええ、(おぼ)えていますとも」

「あの時は助かりましたわ! 丁度(ちょうど)素敵(すてき)殿方(とのがた)おりましてその方に……ポッ」

「あらあら、まぁ。それは良かったこと」

「しかしその後があまりよろしくなく……」

「それはお気の毒に……」


 所謂(いわゆる)賄賂(ワイロ)である。

 以前エカテーは経理(けいり)にお金をばらまいた。拒否(きょひ)するも親の権力(けんりょく)を盾に(なか)ば強引に受け取らせる。

 これにより『お仲間』となってしまった事務員達は彼女の行動を(とが)めることが出来なくなった。更に経費(けいひ)で落としたと見せかけて、『お小遣い』を仲間内に渡し、派閥内での自分達の居場所を作った。


 それもミッシェルが現れるまでは、だったが。


 以前の事もあり慎重(しんちょう)な思考回路になっているエカテーはのんきさに怒り震える。


 ここまでわかっていてなんで答えまで出ないんですか!

 (いく)ら頭がお花畑でもこのくらいわかるでしょう! ギルドの仕事をしているのですから!!!


 それに私知っているのですよ、その男。

 そちらにいる隣の人に寝取(ねと)られていることを!


「あ、あの……少しまずいのではないでしょうか? 」


 そう、左から聞こえてきた。

 声の主は今まで会話に参加しなかった経理(けいり)の子。

 私の役目(やくめ)を少しでも肩代わりしてくれるなら結構(けっこう)

 期待を乗せて、彼女の方を見る。


総合(とうごう)するに、私達の行動を疑問に思われているのですよね? 」

「え、そうなのですか? 」

「それは大変!」

「しかしそれが本当か分かりません事よ? 」

「確かに……」


 ギュッ!

 持っているティーカップを、(にぎ)る。

 今、怒鳴れればどれだけ爽快(そうかい)なことなのでしょうか?

 これだけ状況が(そろ)っていて、よく否定できますね。

 しかし今言うにはいけません。何事(なにごと)にもタイミングという物があります。

 もう少し様子を見ましょう。


「で、ですが、各部署(ぶしょ)査察(ささつ)のような方が来ているのですよね? なら今までの事がバレるかもしれないのでしょう? もしそうだとしたら……全員まずいのではないでしょうか」


 それを聞き、少し空気が(いろ)めき立つ。

 これに乗じて私が一声かれれば!

 しかし言う前に右隣から声がした。


(みな)さん、少し落ち着きなさってください」


 声の方を振り向き、苛立(いらだ)つ。

 目に映るのは派閥(はばつ)分断(ぶんだん)しようとしている張本人(ちょうほんにん)である。

 エカテーよりもさらに(あつ)化粧(けしょう)に、鼻をつまみたくなるような香水(こうすい)の臭い。

 隠せない歳の波を額に(きざ)む、茶髪ロングの女性。


 忌々(いまいま)しい!

 人事部職員!

 最年長のくそババがっ!!!


「この程度何ともありません。(みな)さんが力を合わせ口を開かなければ分かりませんよ」

「そうは言っても……」

「しかし……先輩の言うことも一理(いちり)あるのでは? 」

「確かに」

「私もそう思いますわ」

「しかし何らかの対策は必要だと思うのですが」

「……動かないほうがむしろバレないのでは? 」


 口々(くちぐち)に思いを言う。

 主導権をっ! 取られたッ!


「もし必要ならば口裏(くちうら)を合わせるだけでなく、少しずつ書類を整理したらいいのではないでしょうか? 」

「整理するだけ、でいいのでしょうか? 」

「ええ、整理です。『整理』、『(かい)ざん』ではないので大丈夫でしょう」


 これは……まずいですね。

 主導権を(にぎ)られただけではなく、話までおかしな方に行っています。

 このままだと全員最ももれなく追放です。

 どうにかしないと……。


 年少の経理(けいり)に青い瞳を向ける。

 

 顔が青い……。

 まぁそれもそうでしょう。

 自分の言葉が発端(ほったん)で更なる不正を追加してしまったのですから。

 ……少し期待したのですが、無理そうですね。


「では今日の休憩はここまでにしましょう」


 こうして昼食は終わった。


 帰り(ぎわ)に彼女がエカテーへ茶色い瞳を向け、ニタァと笑った。

 くそっ! あのアマ!!!

 (くや)しさで顔を(ゆが)ませながらも、平然(へいぜん)と受け流しエカテーは受付へと行くのであった。


 しかし、これを契機(けいき)経理(けいり)の女性——リリアンヌはいじめを受けるようになった。

お読みいただきありがとうございます。

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