第五十六話 休日 一 一日の始まり
休日である。
昨日の山狩りでかなり疲労がたまったということで今日は休みにした。
色々疲れた体をほぐしながらベットから起き上がり窓の近くへ行き、開ける。
「あ～～～、風が気持ちい……」
朝の爽やかな風や太陽の光を浴びると疲労がどっかに行ってくれそうだ。
いや、気のせいかもしれない。
『アンデリック何してんの? 』
「トッキー。見ての通り風を感じてるんだよ」
『何爺臭い事いってんのよ。それより、それよりさ。早く下に行かないの? 仕事でしょう? 』
「今日は休みだ」
『休み?! なら私と遊べるわね! 』
「休みの意味、知ってるか? 」
俺がジト目で見るとがっくししたような表情をするトッキー。
トッキーが現れてからというもの俺にプライバシーはなくなった。
いや、村にいた頃からなかったが。
『せっかく『精霊トランプ』『精霊人生ゲーム』『精霊おままごと』『精霊革命』とか揃えたのに……』
「知らない遊びばかりだ……」
『昔流行ったのよ? 勇者が持ち込んだゲームって触れ込みで』
トッキーを放置しながら背負袋をチェックしていると、彼女が怪しげな遊びの名前を揃える。
どんなゲームだよ。めっちゃ気になる。
それに『勇者が持ち込んだ』って何? 持ち込んだって。
ま、今日遊ぶくらいなら寝ころびたい。
気になることはあるが、それよりも今日の事だ。
「また今度な」
『ええー。それやらないパターンの言葉』
「やるかやらないかはその日の気分。疲れてない時に一緒にやるよ」
『約束だからね!』
そう言うと彼女は下へすり抜けていった。
便利だな、すり抜ける体。
他のものに触れないからなりたいとは思わないが一度はやってみたい。
背負袋の中身を確認したところで一階へ行くのであった。
★
「トッキィィィィ様ぁぁぁ! 今日もおはようございます! 」
『ひぇっ! あんたいたの?! 』
一階へ下りるとそこには平伏したエルベルと悲鳴を上げるトッキーがいた。
トッキーはエルベルから逃げるように隅の方へ行ってしまったが、エルベルが顔を上げない。
うん。いつも通りだ。
「トッキー。何か言ってやらんとエルベルは顔すら上げないぞ? 」
『い、一層の事このまま上げない方がいいじゃない! 』
「トッキー様がそうおっしゃるなら! 」
「トッキー。顔を上げさせてくれ。そうじゃないとエルベルが本当に使い物にならなくなる。そうじゃなくても大変なのに……」
「大変とはなんだ、大変とは! 昨日あれだけ活躍したじゃないか! 」
顔をうずめたまま俺に抗議する。
確かに後方支援は助かった。
だがこれとそれは違う。
例えば十の仕事をして十二の被害を持ってくるようなエルベルだ。
俺達が変人パーティーと認知される可能性を考えるとマイナスだ。
『か、顔を上げなさい。そして、お願いだからこれから朝から平伏しないで! 』
「そうはいきません! 我らタウの森に生きる者の生きがいでございます!!! 」
いやどんな生きがいだよ。
心の中でツッコミを入れながらも丸机に着き、他のメンバーを待つ。
その間にどうやらエルベルはトッキーのいうことを聞き顔を上げたようだ。
俺と同じ机に着いた。
「お兄さん、お姉さん! おはようの挨拶準備は出来た? 宿屋『ガルム』の看板娘、フェナの登場よ! 」
「フェナ、おはよう」
「おはようだ! フェナ! 」
『おはよう～』
「おはよう!!! さぁ今日も一日元気いっぱいでがんばるのよ!!! 」
勢い良く受付台の隣の扉から現れたフェナは朝の挨拶をして中に入る。
今日も元気なフェナだ。
エルベルが来たことで彼女のテンションが更に上がったような気がする。
『兄』だけでなく『姉』が出来たのが原因だろう。
「こら、フェナ。いつもきちんと挨拶しなさいと言ってるでしょう」
「ママ! おはよう! 」
「おはよう、フェナ。そして皆さんおはようございます」
「「「おはようございます」」」
尊大な挨拶するフェナを叱るフェルーナさん。
フェナはてててと足を弾ませ近づきフェルーナさんに抱き着いて挨拶をする。
そして俺達も挨拶を。
なんやしていると二階からケイロンが、そして更に奥からはガルムさんがやってきた。
「今日もいい匂いがする」
「どんな朝ごはんだろうね」
「当ててみよう! 」
いや、それはそれで失礼だと思うぞ、エルベル。
「ふふふ、いいですよ。当ててみてください」
聖母のような笑顔でまさかの承諾。
なら当ててみよう。
三人が机を囲み、考える。
「この香ばしい香りはソーセージだね」
「いやいや、焼いたハムという線もあるのでは? 」
「焼き菓子だ! 焼き菓子に決まってる! むしろ焼き菓子が食べたい! 」
「「それは無いだろう……」
エルベルの予想に俺とケイロンは突っ込む。
殆ど願望じゃねぇか。
エルベルは見た目のわりに子供っぽいところがある。
外見は美女なんだがな。中身が悲しい事に。
エルベルも歩けば問題を起こす、という格言が出来そうなくらいに大変なのだ。
「おいデリク。なんで泣いている?! 泣く要素がどこにある! 」
「デリク。わかるよその気持ち。彼女は、大変だもんね」
「分かってくれるかケイロン」
「うん。分かるよ……目のやりどころに」
「そっちじゃない! 」
的外れなケイロンの言葉に思わず突っ込む。
そして改めて彼女を見るがエルベルは「どうした? 」って顔をしている。
お金がないせいで衣服をまともに買わなかったせいか、まだ初めて会った時の姿のままだ。
体型のわりに布面積が少ない。更に言うと肩より下の部分に目のやりどころが困る。
そして短い服がその大きなメロンで持ち上がっているせいかおへそ当たりも丸見えである。
正直ケイロンが言う通り、目のやりどころに困る。
「……今日、昨日の報酬をもらいに行って金額が多かったら服でも買いに行くか」
「それがいいと思うよ。デリクの目には毒だろうし」
「む、その言い方ならケイロンは今まで大量に見てきたことになるな。この色男め! 」
「ち、違うよ! そう言う意味じゃないよ! 」
「ははは、よくわからんが今日は服屋に行くのか? 」
「……はぁ、報酬次第だな」
「皆さん、朝ごはんが出来ましたよ」
俺達が机を囲みやり取りをしているとフェルーナさんがいい匂いの食事を運んできた。
その隣には、最初の頃とは違い慣れた手つきで補助をするフェナが。
順々に俺達の机に食事が置かれていく。
「香ばしいに匂いはソーセージだったか」
「いぇい。僕の一人勝ち」
「くぅ～負けてしまった。次は、次の機会は当てて見せる!!! 」
ケイロンが自慢げに胸を張り勝利宣言するとエルベルが悔しがる。
だがどうしてかな。エルベルが一生かかっても勝てないような気がするのは。
「「クリアーテ様の恵みに感謝して」」
「森の恵みに感謝を」
こうして今日も慌ただしい一日が始まった。
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