第五十五話 依頼を受ける日々 六 ゴブリン討伐隊 二
「ミッシェルちゃんを守れ! 」
「斬撃! 」
「かかってこいやぁぁぁぁ!!! 」
「風魔弾! 」
俺達が山の中腹手前まで進むとゴブリンが大量に下りてきていた。
即座に反応した冒険者達が武技や魔法を発動。
挑発で注意を向け、斬撃で切り刻み、魔法で風穴を開けていた。
サブマスがいるということもあり冒険者達が奮起しているようだ。
いや、奮起している理由はそこじゃないと思うが、気にせず行こう。
「最前線と距離が開いてしまったね」
「張り切り過ぎな気がする」
「なぁなぁオレ達も早く前に行こう! 」
俺達は最前線がサクサク行ってしまったため遅れる形でゴブリン達を筆頭としたモンスター達と対峙している。
打ち漏らしだろう。
だがその数は侮れない。
「ケイロン、俺達は慎重に」
「もちろん! 」
「ハハハ、かかってこい! 愚かなモンスター共! 」
下りてくるゴブリン達を冷静に見ながら己の役割を果たす。
「喰らえや!!! 」
「ッシ!!! 」
「——」
前方に広がるゴブリンの群れに対して俺とケイロンはそれぞれ切りかかる。
首を撥ね、倒れかかったゴブリンを蹴って吹き飛ばす。
ケイロンは数匹のゴブリンを倒れる時間さえ与えない速度で切り倒していく。
先日の説教で今回は無詠唱で精霊魔法を使うことになったエルベルは自身の弓——精霊弓を用いて黙々と、淡々とゴブリン達を打ち抜いて行く。
「一旦エルベルの前まで! 」
「了解! 」
「——」
一旦切り終えたら元まで戻り、体勢を立て直す。
もっと前では奮起している先輩冒険者達が暴れているのだ。
俺達が無理をして最前線まで行く必要はない。
「——」
今も黙々とエルベルは精霊弓の弦を引き、ゴブリン達を打ち抜いている。
物凄い集中力だ。
弓に光——小精霊が集まり、それが光の尾を引きながら目的物を討伐。相手を射貫く前にまた次の光が収束し、敵を倒している。
風を纏っているように感じるから魔法で言うところの風矢になるのだろうか。他の人が見たら単なる風矢だろうな。
それにしてもエルベルやればできるじゃないか。
もう詠唱いらないんじゃないか?
これだけでゴブリンの頭が爆散しているのだからかなりの威力を誇っているのが分かる。
「皆さん思った以上に強いですね」
「サブマス! 」
後ろを向くと猫耳サブマスがそこにいた。
「いつもは私が処理しているので時には皆さんに経験を積んでもらおうと思ったのですが、少々前に出過ぎですね」
そう言うと俺達の遥か前方を見た。
そして短杖を前に掲げている。
え? 何を?
「氷結」
一言。そう一言魔法を唱えただけで緑の軍勢は凍り付き――
「粉砕」
続く魔法で粉々に砕け散った。
「さて、まだまだいるようです。行きましょう」
その時彼女が浮かべていた表情はいつもと同じく淡々としていた。
「これからもきちんということを聞こう」
「「……そうだね (な)」」
★
「「「さぶっ!!! 」」」
山の中、俺達はこのカルボ王国では体験しないであろう寒さに震えている。
その元凶二つに目を向け、小声で隣で震えているケイロンに聞く。
「ミッシェルさんの魔力どれだけあるんだ」
「わ、わからないよ」
「大量の魔力を消費しているはずなんだが……。精霊魔法か? 」
「ミッシェルさんからは精霊の匂いもしなければ小精霊も見えないぞ」
「なら純粋に力の差か」
山中で体が冷える体験は幾度となくしているが、これほどのものはない。
元凶その一である先輩冒険者達も寒さに体を震わせている。
その一方、この氷の地獄を作った本人はまるで何ともないような表情を浮かべている。
「あ、もしかしたらあのローブが魔道具の類なのかもね」
「ローブが? 」
「あれが魔力供給源となっているとか」
「後は短杖が消費魔力を削減しているのかもな! 」
「エルベルがまともなことを言っているだ……と」
エルベルのまともな解説に驚くが、そう言われると納得だ。
単純な実力差もあるのだろうが、道具の影響も大きいだろう。
そう思いたい。
「ふぅ、ケイロンの手あったけぇ」
「な、なに触ってるのかな?! 」
俺は手を掴みすかさず擦る。
ケイロンも寒いはずだ。こうすれば二人とも寒くない。
「オレも混ぜろ! 」
「いや、女性はちょっと……」
「そ、そ、そ、そうだね。男同士だもんね! 」
「オレもやりたいぃ! やりたいぃ! 仲間外れは嫌だぁ! 」
声を上げ、ぐずるが拒否だ。流石に女性にやる勇気はない。
後で殴られるかもしれない。昔姉さんに本気で殴られた事あるからな。
その時いいといっても後が怖い。だからやらない。
俺達がそうこうしている間に前でお説教を喰らっている先輩達も話が進んでいるようだ。
「全く、前線に出過ぎです」
「そうはいってもよぉ」
「言い訳無用です。それにかなり打ち漏らしていましたが」
「「「うぐっ!!! 」」」
「貴方達の実力は認めましょう。あの群れの中で奮闘し、重傷者をださなかったのですから」
「「「ミッシェルちゃん」」」
「ですが出過ぎはいけません。皆と連携をとりながら効率よく倒せばいいのです。分かりましたか? 」
「「「はい……」」」
ミッシェルさんがピシャリと締め、冒険者達が応じる。
何というか……シュールな絵だ。
猫耳ローブを羽織った小さな子供に屈強な冒険者達が叱られ、項垂れる様子。
事情を知らない人が見ると多分誤解を受けるだろうな、先輩達。
「この一帯は殲滅できたようですね」
「山の最奥まで来ましたからね」
「なので違う場所を探しましょう」
「「「え??? 」」」
「さ、行きましょう」
そう言いミッシェルさんは山の頂上から別のルートで下りようとする。
き、休憩は?
★
「皆さんお疲れさまでした」
夕暮れ時、俺達は集合場所でもあった冒険者ギルド前にいた。
だが出発前と異なり疲労困憊である。
周りを見渡したが、先輩達も同じようだ。
顔に疲労が見える。いや違うな。良く生きてこれたな、俺達。
「後は移動したモンスター達が秩序を取り戻すまで様子見になります。南の山で活動する際何か変化があったら報告してください。では解散」
そう言いミッシェルさんはギルドの中へ入っていった。
魔力量もそうだが体力も相当なもののようだ。
顔色一つ変えず依頼を終えてしまった。
「帰ろう……」
「あぁ、今日の訓練はなしにしてもらおう」
「トッキー様に癒してもらおう」
こうして俺達は『銀狼』に戻るのであった。
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