第五十三話 依頼を受ける日々 五 エルフと採取依頼
「ワハハハ! 初依頼だ」
「ちょ、大きな声を出すな」
「恥ずかしい……」
「何を言うか、元気なのが一番だろ! 」
グリーンの短髪を朝日に輝かせながらエルベルが大声で喜んでいる。
しかし周りを見てくれ。
この森にはちらほら同業者《冒険者》がいるんだ。
温かい目線が逆に痛い。
「南の山で薬草採取、か」
「こっちはモンスターが多いから気を付けないと」
「オレの精霊魔法が火をふくぜ!!! 」
俺の顔から火がふきそうだ。
早朝からテンションの高いエルベルを連れて俺達は南の山へ来ている。
北の山が一番良かったが、あそこにはスタミナ草が生えていない。いや、探したらあるのかもしれないが少なくとも群生地は今の所見つかっていない。
恐らく巨大生物に踏み倒された結果だろう。
それに比べ南の山には生えている。
流石に東の山ほどではないが。
「採取と同時にモンスターを倒して討伐証明出したら報酬が出るんだっけ」
「そうそう。でも、依頼外になるけど」
「一気に受けたらよかったんじゃないか? 」
「達成できなかった時の違約金の方が痛い」
「信頼にも関わるしね」
「ん～小難しい事は分からん! 」
俺とケイロンが確認しながら前に進むと、エルベルが頭をくるくる悩ませながら、そしてきっぱりと「分からない」と断言した。
断言しないでくれ。
一応複数依頼を同日に行うことは可能だ。
だがもし達成できなかった場合違約金を払わないといけなくなる。
ゆくゆく人数を増やし一気に受けるという手もあるが、個々に割り当てられるお金が少なくなるから問題だ。
俺は出稼ぎに来ているのだから。
「さて、情報によるとこの辺にあるはずなんだが……」
「あったよ」
「流石だな」
「ケイロン早っ! 」
「いや、でも……」
ケイロンがスタミナ草を見つけたが浮かない顔だ。
彼が見つめる先を俺達も見る。
あぁ……なるほど。
「……一枚か」
「他のは根元ごとやられているね」
「乱獲とはっ! 許せん! 」
「多分取り方を知らなかったんじゃない? 」
「そうだな。ま、取り方を知らない人がやるとこうなるのか」
「むむむ? 」
「俺の時はケイロンがいて助かったな」
「へへへ……。褒めたまえ」
「一先ず取らないか? 」
「「はい……」」
最後のスタミナ草の葉だけを切り取り、背中の籠に入れる。
残った枝の部分とその周辺を見て俺達はさみしく感じた。
「最近誰か取りに来たんだろうね」
「しかし、足りなかったんじゃ? 」
「町に出ているものはね。だけど、誰か必要に迫られて取りに来たかもしれない」
「病気か? 」
「俺に聞かれても……」
「スタミナ草は体の体力を早めるだけだから病気には効かないよ、エルベル」
「知らない人がスタミナ草をとったという可能性もあるな」
「何にしろ……苦労しそうだ」
周りを見て呟いた。
★
俺達はスタミナ草をとるべく前へ前へと進んでいる。
「セイッ !」
「シッ! 」
「我はエルベル! 荒ぶる刃をその身に受けよ! 風刃! 」
押し寄せてくるゴブリンを俺が上段から斜めに切り裂き、ケイロンが首を撥ねる。その間にエルベルが魔法を唱え、その数を一気に減らした。
俺とケイロンが率先して目の前のゴブリン達を倒し、エルベルが精霊魔法を放つ時間を作る。
そして魔法を放ち、殲滅するという単純明快な作戦を立て連携した。
その甲斐もあってか十数体いたゴブリン達は一気に殲滅されたのだが……。
「ねぇエルベル。詠唱一旦やめて見ない? 」
「な……ケイロンはオレからアイデンティティを奪うというのか?! 」
「いや、そうじないんだけどね。やっぱり連携するなら詠唱時間は少ない方が良いかなーって」
「だ、だが……」
「ねぇデリク。君もそう思うでしょう? 」
ゴブリン達の後処理をしている俺にケイロンが意見を求めた。
後ろにいる彼らの方を向かず、作業を続けながら答える。
「ん? あぁそうだな。今回は余裕があったから良かったが、無い時は厳しくなりそうだ。その時に備えて、日頃から詠唱なしで連携しておくのもいいと思うな」
「ね、デリクもそう言ってるし」
「......分かった。少し我慢する」
長身なエルベルに頭二つくらい低いケイロンが圧倒的な威圧で迫り、ごり押しした。
済まぬエルベル。
俺はその状態のケイロンに口論で勝てるとは思わない。
今回は運が悪かったと思って諦めてくれ。
いつか。そういつか君の素晴らしい詠唱が聞ける時を待ってるよ。
燃え盛るゴブリン達の死骸を見ながら俺は心の中で彼女にエールを送った。
★
「しかし多いな」
「東の森よりもモンスターが多いって聞いてたけど、やっぱり多いね」
「む? こんなものじゃないのか? 」
先頭を歩いていたエルベルが頭を反転させこちらを向いた。
そして不思議そうな顔をしてエルベルが聞く。
「モンスター暴走前の東の森は殆ど依頼として出てなかったからな」
「そうだね。前の依頼履歴を見ても出くわすのは精々二桁くらいかと思ってた」
「モンスター暴走があったのか?! 」
「あぁ。ちょっと前にな」
「それで東の森の討伐や採取系の依頼が根こそぎなくなったんだ」
「なるほど。ならモンスター達が移動してるんじゃないのか? 」
「「移動??? 」」
エルベルは何やら知ってそうだ。
一旦立ち止まり、思案顔でこちらを見直す。
「……モンスター暴走があるにしろないにしろモンスター達が周期的に移動することはよくあるのだ。今、モンスター暴走の後なら他の土地で住処を追われたモンスターがそこに移住しようとしているんじゃないか? 」
「それで山奥にいたゴブリン達が山の前面にやってきたと? 」
「あぁ。この南の森にあまりゴブリンがいなかったのなら奥に住んでいたゴブリンが移動中のモンスターに追いやられる形でこっちに来てるんじゃないか? 」
それってまずくないか?
「……早めに切り上げて報告しておこう」
「そうだね。気付かないうちに大量のゴブリンが襲ってきたら目も当てられない」
「よぉし! 探すぞぉ! 」
「「だから大きな声を出すな!!! 」」
暴走気味のエルベルに注意しながらもスタミナ草を定数とり、ギルドへ戻るのであった。
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