第五十一話 依頼を受ける日々 三 暴走エルフ
「そう言えば、アンデリックは精霊術師なのか? 」
「俺の事はケイロンと同じでデリクでいいよ。精霊術師ってなんだ? 」
「デリク、精霊術師は精霊魔法を使う人の事だよ」
冒険者ギルドから宿屋『銀狼』に向かう道中で突然エルベルが聞いてきたが、俺が分からない雰囲気を出したのでケイロンが補足した。
「なんでデリクにそんなこと聞くのかな? 」
ケイロンが不信感をあらわにしながら聞くと、エルベルが少し鼻をピクピクさせながら答えた。
「デリクから精霊の匂いがするんだ」
「精霊の匂い? 精霊って匂い、あるの? 」
「そこに精霊がいたら加護なしのエルフでも匂い――というか感じるものがあるんだ。オレは加護を持ってるから視えて匂うはずなんだが……デリクの周りには精霊が視えない。どういうことだ? 」
「どうやら加護はあるみたいなんだが、それ以上はわからん! 」
「不思議な感じだな」
興味深そうにエルベルがこっちを上から眺める。
俺よりも身長が高いせいか上から見下ろす形となっているが、時々顔を覗かせスンスンと俺の匂いを嗅ぐのはやめてくれ!
周りから変な目で見られている!
「加護はあるのか」
「あぁ」
「ならやっぱ精霊術師じゃないのか? 」
「期待を裏切るようで悪いが生まれてこの方精霊魔法とやらを使った事はない」
「むむむ……。わからないぃ! 」
単なる好奇心で聞いているのだろうが、本当に使った事がない。
しかし俺の周りには精霊がいないのか。
少し残念な気分だ。いや、残念精霊ならあそこにいたな。
む、そう言えば……。
「会った時から気になるんだがエルベルの周りで光ってるのは何だ? 」
「お、彼らが視えるのか! 彼らは小精霊だ! 」
「「小精霊?! 」」
「ああ、オレのような精霊術師は彼らの力を借りて精霊魔法を発動するんだ。あまり視える人いないんだよなぁ~。まぁ加護持ち自体が少ないのもあるんだろうけど。デリクが視えるってことはそれだけでもデリクの加護が物凄く強いのは分かるんだが……」
またもや頭を悩ませている。
匂い、か。
「ねぇねぇデリク」
「おう、何だ? 」
「その匂いってさ。トッキーさんじゃない? 」
「それ思ってたとこ。かなり複雑な気分だ」
「聞いてみたら? 本人以外に精霊に詳しいのって妖精族くらいだよ? 」
ケイロンと小声で話し、手で頭をくりくりとしながら悩んでいるエルベルに直接聞くことに。
「エルベル。因みになんだが……」
「ん? 」
「人型をとっている精霊ってのはいるのか? 」
「ああ、いるぞ。加護を与えることが出来る精霊は大体人型をとっている。オレに加護を与えてくれた風の精霊も人型だったしな」
「宿にいるその精霊の匂いが付いてるんじゃないか? 」
その一言に、エルベルが止まり、ワナワナと震えだした。
ど、どうしたんだエルベル。
途轍もなく嫌な予感しかないんだが。
ゆっくりと、そうゆっくりとギラついた目をこちらに向け白い肌を真っ赤に染めながら近づいてくる。
い、息が荒い……。
「……。デリクが住む宿には精霊がいるのか」
ガシッ!!!
「こ、こら肩を掴むな! 」
「何興奮しているの! デリクに近付きすぎ! 」
「これが興奮しないでどうする! 住む先に精霊がいるんだぞ! 興奮するに決まってる! 」
うひょぉぉぉぉぉ!!!
とうとう奇声を上げだした。
俺とケイロンはそこから少し離れて収まるのを待った。
周りの人と同じく奇異なものを見るような目線を浴びせながら。
それでも止まず、体をくねらせトリップしそうな爆乳エルフ。
男性なら声をかけたくなる美貌の持ち主。
だが、何故かな。残念感しかない。そして誰も声をかけない、近寄らない。
「ねぇお母さん。あのエルフのお姉さん、何してるの? 」
「こ、こら。見てはいけません! 」
「ええ~でも……」
通りすがりの子供が母親に連れられ俺達とは反対方向へ行く。
「なぁケイロン。彼女をパーティーに入れるのは……まずいような気がしてきたんだが」
「僕もそう思っていた所だよ」
彼女の興奮が収まるまでずっと知らない人のふりをして過ごしたのちに宿屋『銀狼』へ着くのであった。
★
バタン!!!
「精霊様の宿だー――――!!! 」
「ちょっ、落ち着け、エルベル! 」
「足速過ぎ! 」
一度は興奮が収まったエルベルだったが宿に近付くにつれて再燃し、爆走し始めた。
そして気が付いた時には『銀狼』に突撃し、扉を乱雑に開けていた。
どれだけ精霊好きなんだよ。
「な、何が起こったのよ?! 」
「あ~悪い。新しいお客さんだ」
「お客さん?! ならもてなさないとね! 良い事、私はこの宿の看板「精霊様ぁぁぁ! 」……」
言葉を遮られ、固まるフェナ。
泣いてもいいだぜ、看板娘。
硬直から溶けたフェナはよたよたと歩いて俺達の所へ来て一言——
「あの人は……本当にお客さん? 」
ああ、残念だがそうなんだ。
泣きそうな顔をしているが、すまない。あの暴走エルフを連れてきたのは俺達なんだ。
ついでに言うと面倒を見るように言ったのは冒険者ギルドなんだ。
苦情はギルドに頼むよ。
「お客さんですか? あら、エルフ族の方。これは珍しい」
「おうおう、何か騒いでんな。お、エルフか。久しぶりに見たな」
「精霊様ぁぁぁぁぁ!!! 」
「?!!! 」
騒ぎを聞きつけてやってきたのかフェルーナさんとガルムさんがやってきた。
確かに珍しい。
多種族がいる中この町でも数人しか見かけたことがない。
そしてこの狂乱っぷりに口が閉じていない。
「あぁ……そう言うことか。タウの森のエルフだな」
「そうだ! タウの森の『エルベル』だ! 」
「どういうことですか? 」
何か一人で納得したようなガルムさんに顔を向け、黒い瞳を覗く。
「あそこは精霊信仰がすごいんだよ。この町の他のエルフ族がこうなってるの見たことないだろ? 」
「確かに」
そう言われるとそうだ。
この町のエルフはそもそもこの宿に精霊がいるってことに気付いていないしな。
これからは『タウの森のエルフ族』に気を付けよう。
もう遅いけど。
『なによぉ。さっきから煩いわよぉ』
『精霊様ぁぁぁ!!! 』
『キャァァァァ! 何?! エルフ! ちょっ、何?! 』
トッキーを見るなり平伏しだすエルベル。
時の精霊ことトッキーもドン引きなエルベルの行動。
何かしでかす前に憲兵に突き出した方がいいんじゃないかと思えてきた。
こうして押し付けられる形にはなるが新しい仲間が増えたのであった。
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