第五十話 依頼を受ける日々 二 新しい仲間
タウの森のエルベルと名乗ったエルフ族の女性は俺達の前で笑いながら、胸を張っていた。
俺よりも高い身長にほっそりとした体躯、それに見合わない爆乳に短髪で緑色の髪をしている。
そして何より、何か周りがキラキラと光ってる……。
「いやぁすまない。猪に吹き飛ばされてな。ここの猪はデカいな! 」
ハハハと彼女は笑っているが……吹き飛ばされた?
どういうことだ?
確かに体は大きく、スピードもある。
だが苦戦するほどの相手じゃないと思うのだが。
「あ~え~っと、エリベルさん。吹き飛ばされたというのは」
「オレのことは『エリベル』と呼び捨てで構わない。そして君の質問だが、こちらが攻撃しようとしていた時に突進を喰らってな」
「……良く生きてましたね」
「ハハハ、いつも風の精霊に助けられてばかりだよ」
「「風の精霊?! 」」
「ああ、っと話は後だ。来たようだ」
エリベルが山の奥を見るとドドドドという音がしてきた。
彼女の手には弓がある。
しかし矢がない。
どういうことだ?
「しかと受けよ!!! 」
「?!!! 」
「我はエリベル! 風の精霊の加護を受けしこの矢を受けよ! 風——ゲフッ!!! 」
「「エリベルさーん!!! 」」
詠唱をしている中、彼女は猪の突進を喰らい吹き飛んだ。
★
結局の所猪は俺達が片付け、エリベルと共に下山した。
「今日はこれで終わりにします」
「ありがとうございます。助かりました」
北の山の麓で待ち受けていたギルド職員に猪を渡す。
彼らはリアカーにそれを乗せ、こちらを見た。
「そちらの方はどうされたのですか? 」
「タウの森と言うところから来たらしいのですが、どうも……」
「あ~この先を二つ三ついった所のエルフの集落ですね」
「その通り!!! オレはそこから冒険者になるべく来たのだ! 」
短い髪を揺らし、大声で叫ぶ。それと同時に違うところも揺れる。
元気いっぱいなのはいいんだが、周りの目というものを気にしてくれ。
聞いていたエルフ族よりも文明的な服をしているとはいえ布面積が少ない。
現にギルドの男性陣は一か所に釘付けだ。
しかし……冒険者になりに来たのか。俺と同じだな。
「なんであそこにいたんだ? 町に入ったら良かったのに」
「……身分証がない。そしてお金もない」
「「「なるほど……」」」
エルフ族は基本的に精霊信仰が篤いらしい。
よってクレア教が発行するような身分証を持っていることが少ないようだ。
町や村に入るのに身分証が必要ない場所ならいいのだが、バジルの町のように身分証が必要な時、どうしても困る。お金があれば入場料をはらい入れるのだが、お金もないのならどうしようもない。
それを察し、全員が同情の目を向けた。
俺とケイロン、エリベルと冒険者ギルドの職員はリアカーを引きながら町へ向かっている。
もちろん彼女をどうするかについて考えているのだ。
「流石にこのまま放っておくのも後味が悪いですね」
「そうですね。一旦俺達のほうで預かりましょうか? 」
「え? デリク! 彼女を仲間に入れるの?! 」
「何! 仲間に入れてくれるのか! 」
「まだそんなこと言ってない! 」
「私達職員としては身元不明の冒険者希望を放っておくよりかはアンデリックさんのメンバーに入れていただけたら嬉しいのですが」
「ちょっ! 」
ギルド職員の言葉を受けエルベルは期待に満ちた顔でこちらを見ている。
それとは反対にケイロンは不満気な顔だ。
預かる事を提案したがメンバーに入れるとは全く言ってないんだが?!
それにケイロン、何故不満気?!
「アンデリックさん達はまだEランク。確かにアンデリックさん達は入ったばかりですが、Fランクになるであろう彼女を一人にしておくよりかは双方にとっていい事かと思いますよ」
「どういうことですか? 」
「知っての通り私達は王都から派遣されてきました。この町のギルドの冒険者は極めて死亡率が低いのに吃驚しました。しかし他の町ではそうはいきません。低ランク冒険者の生存率が低いのが現状です。なので私共としてはメンバーを増やして出来るだけ生き延びて欲しいというのが願いです」
男性職員が少し寂しそうな顔で言った。
そう言われると断りずらい。
確かにメンバーを増やして戦力を増強し、パーティーメンバーの生存率を上げるのは有効だろう。
が、その一方で――
ちらっとエルベルを見る。
何か問題を起こしそうで怖いんだよなぁ……。
さっきの猪とのやり取りを見るとどうしてもなぁ。
「お、おい。アンデリック。何か失礼なことを考えてないか?! 」
「ソ、ソンナコトナイデスヨ」
「何でカタコトなんだ! 」
「ちょ、掴むな、揺らすな! 」
「……楽しそうだね、デリク」
「見てないで助けてくれ! 」
「よかったじゃない。綺麗で胸の大きな人が入ったらさ」
「「「眼福、眼福」」」
揺れるメロンを見て目の保養をしているギルド職員を見てさっきのしんみりとしたやり取りが一気に吹き飛んだ。
揺れる! 頭の中が揺れる!
騒がしい中、俺達はバジルの町へ入ったのであった。
★
「おおーこれがギルドカードか! これでオレも冒険者だな! 恩に着る! 」
「あ、あぁ……それは良いんだが、離れてくれないか? 」
「おおっとすまない。ではこっちだ! 」
「何するんですか! 抱き着かないでください! 」
結局の所俺が入場料を立て替える形でエルベルはバジルの町へ入った。
リアカーと共に俺達は冒険者ギルドへ向かったのだが見るもの全てが見新しいらしい。
右に左に目を輝かせていた。
ギルドに入ると早速俺達の達成報告とエルベルの冒険者登録を。
木でできた『F』と書かれたギルドカードをもらってからずっとこの調子だ。
俺に抱き着き、ケイロンに抱き着く。
なんともスキンシップの多いエルフだ。
「エルフ族?! 」
「あいつら、この前の新人か? 」
「エルフを仲間に入れたのか? 」
「羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい……」
周りの目が痛い。
はしゃぐ爆乳エルフに抱き着かれている俺達に嫉妬の目が向く。
これ以上の問題事は勘弁してほしい……。
そう願いながらも俺達は『銀狼』へ帰るのであった。
お読みいただきありがとうございます。
もしお気に召しましたらブックマークへの登録や下段にある★評価よろしくお願いします。