リリアンヌ
私、元冒険者ギルド経理担当の『リリアンヌ』は今王都にいます。
あの白き仮面の殿方を探しに。
リリアンヌは白い仮面の男こと『ジョルジ』に助けられた後、ミッシェルとジョルジに事の全容を話した。
少し注意しただけで粗暴な男性に襲わせたのだ。
彼女達は裏切られても仕方ない。
よって情報提供はスムーズに行われた。
彼女の身柄は一時的に冒険者ギルド預かりとなり、休職していた。
しかし後に追放という形となったが情報提供者ということもあって行政からは厳重注意という形で収まった。行政側も入れる牢屋の数や食事の問題もあったのだろう。
それほどまでに大規模な粛清だったのだ。
しかしジョルジは彼女の知らない間に知らない所へ行ってしまった。
せめて一言あればこれからジョルジが頭を悩ませるようなことにはならなかった可能性もあるのだが、何も言わずどこかへ行ってしまった。
調べてみると『白い仮面の者』と言うのはいたるところで出現している。
だが全部がジョルジでない事は分かる。
場所、時間等考えれば移動不可能な距離にいるのだ。
よって彼女はその持ち前の勘と嗅覚を生かし、王都カルボに絞りやってきた。
ストーカーともいう。
「さて、お探ししなければ」
あの方はサブマスに『ジョルジ』と呼ばれていました。
しかし恐らくそれは偽名。
ならば本当の名前があるということでしょう。
いえ、そこは追及しないのが女の器量というものでしょうか?
偶然会った時に深く追求せず、相手の領域に踏み込みしすぎず陰ながらサポート。
んん~ん。考えるだけで気持ちが一杯になりそうです。
彼女は一人王都の真ん中で自分の妄想にトリップしていた。
周りはドン引きである。
が、まずは仮面の下を知る所から始めないといけませんね。
何せ知らなければ、例え表での顔であっても、サポートできませんので。
あの時助けていただいたお返しをしなければなりませんし、何よりお役に立ちたいのです。
一人考え事をしながら王都の道を行く。
王都カルボは他の国の王都と比べると繫栄しているとは言い難い町並みである。
しかし他の町や村と比べると天と地の差。
見るべきところは多くあり、また裕福な者なら店に入り様々な物を買うだろう。
だが恋するリリアンヌにはゴミ同然。
今はあの白い仮面の下が気になって仕方ないのだ。
「まずは酒場でしょうか。いえ、しかし昼間に女性一人というのも外聞が悪いですね」
一人ブツブツ言いながら王都を闊歩しているので最早外聞も何もないのだが、そこは一応女性。
自身が気が付く範囲で、気を付けている。
時折気配を消しながら進むその姿は不審者、というよりも暗殺者。
その索敵能力や気配の消し方は日々向上の一途を辿っている。
「どうしたのですか、そこのお姉さん? 」
下を向き、ブツブツと独り言を言っていたら話しかけられた。
あ、と気付いた時にはもう遅い。
目の前には一人の男性を見上げた。
だが、憲兵ではないようで安堵する。
「人探しをしているのですが……」
「人探しですか。ここはカルボ王国の王都。とても広く探すのは大変でしょう。お手伝いいたしましょうか? 」
「よろしいので? 」
「ええ」
人探しを手伝う、と申し出る人物は大抵怪しい。
特に王都のような場所は。
だが彼女はこの男性に懐かしい感じを受けていた。
どこかであったような……。
高い背丈に金色の髪、そして青い瞳。一度会ったら忘れることが出来なような美貌にしゃきっとした背筋。
服装も旅人のようなラフな格好なのにどことなく気品を感じる。
会っていたら覚えているはずなのですが、どこでしょうか?
考えがぐるぐると頭を巡る中、彼女は目的の男性の容姿を言い、王都を探すのを手伝ってもらうことにした。
★
どうしてこうなった。
ジョルジは一人、そう思った。
隣を歩いている女性——リリアンヌは以前に情報提供をしたおかげで恩赦が支払われ、牢屋行を免れたはずだ。
だが、どうしてここにいる?
他の町ならわかる。バジルの町に居づらくなり外に出たのもわかる。
しかし何で王都なんだ?!
普通物価を考えると違う町にいだろう? 冒険者ギルドも解雇され、懐も寂しいはずだ。何故王都?
一人道に迷っている様子だったから話しかけたが、まさかの探し人。
放っておくわけにもいかず一緒に探すことにしたが。
特徴を聞くと……
俺じゃねぇか……。
冷や汗しか出ない。
どうやってこの状況を切り抜けようか。
はぁ、見捨てる理由にもいかないしな。
冒険者ギルドの情報関係に務めている彼だが基本善人。
困っている彼女を放って他の所へ行くという手段もあるにもかかわらず、一緒に探し人——つまり自分を探しに行く羽目になったのだ。
★
「見つかりませんね」
「そうですね。酒場にも行ってみたのですが……」
「背が高く、ほっそりとした男性。恐らく三十代前半でちょっとうっかりさんな人なのですが、いませんね」
「そ、そうですね……」
リリアンヌの言葉に乾いた笑いしか出ないジョルジ。
何も知らない人が聞くと上京した幼馴染を探す女性くらいにしか思わないだろう。
だが本当の所は違う。
全く知らない間柄に関わらず、これほどの情報を握られているのだ。
もしこれが監視対象が相手なら厳罰ものだ。
彼女の言葉に「いますよ……うっかりさんがここにいますよ」と言いたかった。
が、彼女とこの姿であうわけにはいかない。
仮面で隠している意味がないからだ。
しかし。
最初に比べてどんどんと情報の精度が上がっているのは気のせいだろうか?
と、いうよりも最初に曖昧な情報を出して徐々に情報を出してきた、という気もするが。
「お探しの方は……幼馴染か何かで? 」
「いえ、実の所あまり話したことないのです」
「ほう、それなのにお探しに。どういった経緯でっと聞くのは野暮ですな」
「いえいえ、そんなことないですよ。ただ……」
「ただ? 」
「窮地の所を助けていただいたので、何かお礼を言いたく思いまして」
なるほど、と頷きながら彼女を見る。
本当にお礼だけか?
情報官の性と言うべきか、リリアンヌの言葉の真意を見抜こうとする。
しかし疑問に持つ一方でリリアンヌを見てその情報索敵能力に目を見開いていた。
なんで歳や性格までわかる? 歩いている時なんか趣味嗜好まで言い当てたぞ?
彼女にそんなこと伝えてないのだが。
何なら部下に欲しいくらいの人材だ。
「もう陽が落ちそうですし今日の所はこのくらいにしておきませんか? 」
「あ、すみません。こんな時間までお付き合いしていただいて」
「いえいえ。元をたどれば私が勝手に申し出たこと。お気になさらず」
「本当にありがとうございます。このお礼はいずれ」
「期待して待っておきますよ。では」
そう言いジョルジは去っていった。
彼が離れていく中、一人「本当に、期待しておいてくださいネ」と淀んだ瞳でリリアンヌはいった。
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