第四十八話 Eランク昇格と訓練
あれから二日程他にゴブリンがいないか山を入念にチェックした俺達はアセト村を発った。
討伐終了の後ゴブリンが新しく発見されたら非難ものだ。
カタコトと車輪の音を聴きながら俺達はバジルへと帰って行ったのであった。
バジルの町の冒険者ギルド。
「確認しました。ではこちらが報酬になります。また今回の依頼達成によりFランクからEランクへ昇格しました。これからのご活躍をお祈りいたします」
「「ありがとうございました!!! 」」
昇格を伝え一礼した受付嬢にお礼を言いその場を離れギルドの隅に置いてある机に着く。
「これでEランク! 」
「感慨深いね」
ギルドカードに刻まれたランクが上がっている。
裏に表、中にかざしながら様子を見る。
木でできた外見は変わらないが、刻まれた文字がことなるだけでこうも見えるものが違うのか。
道理で『冒険者』が上へ上へランクを目指すわけだ。
上に登った時のこの感覚が心地いい。
「Eランクになったからって俺達の何かが変わるわけではない。引き締めていこう」
「そう言いながらも顔が緩んでるよ。ほら」
ケイロンが手を伸ばし両手で俺の顔をむにーっと伸ばす。
「にゃ、にゃにをする、けいろぉん! 」
「ほら、「俺は引き締まってません。これから引き締めます」と言ってごらん」
「おにぇは、ひきしまってる! ひっぱるにゃ。わかった。がんばるから。がんばるからやめてくれぇ」
「素直でよろしい」
そう言い、顔から手を引いた。
くっ! こんな辱めを受けるとは。
今度仕返ししてやる。
考えるべきことがあるから今の所はこのくらいにしておいてやるからな。
「だがあれはどうしたものか」
「未来視のような先読みのようなやつ? 」
「そう。戦闘中に発動するのはいいが魔力が消費されっぱなしってのもな。それにやり慣れない戦い方はやりずらい」
俺の言葉を受け、腕を組み唸りを上げるケイロン。
上を向き、椅子を少し浮かせ前に後ろに揺らしている。
そして何か閃いたようだ。それが止まった。
「フェルーナさんに魔力操作を教えてもらえばいいんじゃないかな? 」
「フェルーナさんに? 」
「そう。聞く感じ高位の魔法使いっぽいし。それに戦闘なら武器は違うけどガルムさんに稽古をつけてもらったらどうかな? 」
「それはいいアイデアだ。戻って聞いてみよう」
机を離れ、明日の依頼を受付に出し、俺達は宿屋『銀狼』へ戻った。
★
「「稽古をつけて欲しい? 」」
昼を終え、食後に俺はガルムさんとフェルーナさんに頼んだ。
少し驚いたような顔をして言葉を返す。
「そりゃまた何で? 」
「少なくともゴブリン討伐が出来るのなら順にモンスターに慣れていけばいいと思うのですが」
「実はですね……」
前のゴブリン退治で起こったこと、そしてそこから導き出されるデビルグリズリーでの魔力欠乏に関する考えを伝えた。
「なるほどな。確かにそれは、まずいな」
「ええ、それは訓練が必要ですね」
「今までだと少ない魔力量をコントロールするだけでよかったのですが、魔力量が増えた事と大量の消費魔力をどうすればいいのかと思いまして……」
言ってて少し気分が落ち込んだが、それを見てかガルムさんとフェルーナさんが顔を合わせる。
せめて発動タイミングをコントロール出来ればいいんだが。
「よし。分かった、引き受けよう」
「しかしタダとはいきませんよ? 」
「お、お手柔らかに」
ガルムさんが快諾し、フェルーナさんが少し微笑み、引き受けてくれた。
結局の所、一日一回ずつ訓練をしてくれることとなった。
条件は訓練は依頼の後に行うこと。依頼後が無理そうな時は休むこと。そして訓練料金として宿泊料が少し上がったくらいだ。
まぁ下手打って命を危険にさらすよりかはいいだろう。
「では、早速始めましょう」
★
宿屋『銀狼』裏庭。
大きな木の下で俺とフェルーナさんは顔を合わせていた。
木々のせいか俺の陰が隠れている。
『何してるの? 』
「訓練だ」
『へぇ~熱心ね』
木の枝付近にトッキーが浮いている。
時の精霊様は今日も暇なようだ。
「死にたくないからな」
『じゃ、応援してあげましょう! フレーフレーアンデリッックゥ!!! 』
う、うるせぇ……。
今から訓練というのに気の抜けた応援が上から聞こえる。
周りも静かで、下手に声が大きいから余計に響く。
聞こえているのは俺だけだろうが。
「初めてもいいでしょうか? 」
「あ、すみません。お願いします」
トッキーの応援が止まない中、俺はフェルーナさんに向かい魔力操作の訓練を始める。
「まずアンデリックさんは初級魔法が使えると聞いています。なので一回ここで何か発動してみてくれませんか? 」
「了解しました。水生成」
俺が魔法を発動しようと宙に手をかざすとフェルーナさんの金色の瞳が光る。
手の上に水色の魔法陣が浮き出たと思うとそこから……大量の水が出た。
「え? ええ??? 」
「まぁ、これは」
いつもと同じようにやったのに出てくる量が違う!
「かなり魔力を持っていかれましたね」
「はい。少しだるいです」
「これは入念な訓練が必要となりそうでsね」
フェルーナさんの顔に真剣さが増した。
へとへとになりながらも一先ずフェルーナさんの訓練は終了。
次はガルムさんだ。
「……大丈夫か? 」
「大丈夫、とは思います」
「ま、へとへとになったからってモンスターが攻撃をやめてくれるわけじゃねぇ」
フェルーナさんと交代したガルムさんが大剣を模した木剣を片手に振り回す。
俺の手には買った長剣と同じ形の木剣がある。
なんでも昔友人と訓練していた時に使ってたものらしい。
「じゃ、始めようか。戦闘の感覚を掴めばコントロールできるようになるだろう」
「え? 」
『じゃぁ。殺ろうか!!! 』
「ぎゃぁぁぁぁ!!! 」
今日この日、昼間から夕方にかけて俺の悲鳴が轟いたのだがそれを聞いたのはトッキーと二階にいたケイロンだけだった。
『へぇ、そう言うこと』
すっかり忘れられていたトッキーの瞳がキラリと輝いたのは誰も知らない。
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